第892話 プリシグラ村

 朝、五時には起きて出発することにした。


 さすがに山の道は広くはない。馬車一台通るのがやっとってところがあるらしい。待たされるのも嫌なので隊商より先にいくことにしたのだ。


 五時はまだ陽は出てないが、明るくはなっているので視界は良好。三十キロくらいで進めた。


「かなり道がいいですね」


 マイヤー男爵領に抜ける街道より道はいい。しかも橋が石造りだ。維持に相当金がかかってんじゃないか?


「街道沿いの領主が金を出し合っている。この街道がなければ生きられないからな」


 なるほど。そういうところは協力し合うんだな。


 午前中で山頂付近までやってこれ、広場があった。


「ここで夜を明かすんですか」


 てか、山小屋が並んでいるよ。人いんかい。


「プリシグラ村だな。あそこから少し下りたところに二百人くらいの村がある」


 へー。こんなところに村があるんだ。魔物とか……ゴブリンがいるな。それも千匹近くはいるぞ。


 これまでの道中、ゴブリンの気配は感じていたし、そこそこの数がいた、!だが、千匹近くのゴブリンがいるってことは首長が率いた群れだな、これは……。


「冒険者ギルドの支部とかありますか?」


「村にあるぞ。支部もあったはずだ。隊商が問題なく通れるように定期的に魔物狩りをするからな」


 なるほど。だから支部があるんだ。ダメ女神が創っただけにかなり強固な組織だよ。


「かなりのゴブリンがいるので稼いでいきますか」


「それはいいな。もう報酬がなくて困っていたのだ」


 見せてもらうと、残高五百八十円だった。結構稼がせたのに数ヶ月でなくなるか。


「ガズさんもしっかり稼いでください」


「おれもか!? 数日前まで片足をなくしていた男に無茶振りもいいところだろう!」


「大丈夫ですよ。そう難しいことはさせませんから」


 千匹近くいるなら二、三十匹は駆除できる。十万円も稼げたらしばらくは持つだろうさ。


「とりあえずプリシグラ村にいってみますか」


 鉄札は持っている。あれは職員待遇のもので、他でも有効だって話だ。儲けにならない仕事とかゴブリン狩りをしてくれるなら喜ばれるそうだ。


 山小屋の間にプリシグラ村に下る道があり、そこを二百メートルくらい進むと、木の柵に覆われた村が現れた。


「どうやって生きているんです?」


「山の斜面に畑を作っている。採れたものは隊商に売っていると聞いたな」


 へー。こんな山でも作れるものがあるんだ。人間はしぶとい生き物だよ。


 明るいうちは出入りが自由らしく、見張りがいるわけでもない。オレたちを見ると挨拶してきた。


「冒険者は歓迎されるのだろう。支部はあるとは言え、この山で活動できる冒険者はそうはいないからな」


 確かにこの山奥では歩き回るのは大変だろう。オレも経験したからよくわかるよ。


「なんか村人たちが動き出しましたね」


「隊商がきたと思ったんだろう。隊商が落とす金も重要な稼ぎだからな」


 ほーん。なかなか逞しいものだ。売ってくれるならオレも買いたいところだが、今は支部だ。そして、ゴブリンだ。


 支部は村に入ってすぐのところにあった。てか、小屋だな。ここは左遷先か?


 開け放たれたドアから中に入ると、外から見たまんまの広さで、机に四十歳くらいの男性がタバコを吸っていた。


 ……この世界、タバコとかあったんだ……。


「お、冒険者がくるなんて久しぶりだな。どこからやってきたんだ?」


「コラウス辺境伯領です。一応、銀印の冒険者で鉄札持ちです」


 鉄札を見せた。


「ほー。若いのに銀印かい。外国人か?」


「はい。遠くから流れてきて、コラウスで冒険者になりました。あと、若いと言っても三十一歳なのでそこまで若くはないですね」


「三十一? 二十歳くらいにしか見えんぞ」


 オレ、そんなに若く見られてんだ。まあ、オレもここの人らは年寄りに見えているけどさ。


「オレは一ノ瀬孝人。銀印の冒険者ではありますが、ゴブリン駆除を生業としているギルドのマスターです。この周辺にたくさんのゴブリンがいる気配がするので情報を聞きにきましま」


「あーなるほど。それで鉄札を持っているのか。じゃあ、重宝されてんだろう。ここでもゴブリン狩りは不人気だからな」


 この人、なかなか優秀っぽいな。なんでそんな人がこんなところにいるんだ?


「被害は出ているので?」


「最近頻繁に出ていて困っていたところだ。やってくれるのなら最大限の報酬を出すよ。ここは田舎だが、金は結構落ちる。一匹につき銅貨四枚は出すよ」


「報酬はいりません。ゴブリン駆除で稼げますからね。ただ、ゴブリンの片付けは村でやってもらってください。千匹近く駆除すると思うので」


「千匹!? おいおい本気か?!」


「本気です。それだけ村の近くにいますので。もしかすると首長──王が率いているかもしれません。そいつを駆除したら終わりとします」


「王だと!? そんなものがいるのか?!」


「確証はありませんが、いる前提で動きます」


 こちらは三人しかいないんだから油断はしないさ。


「そ、そうか。なら、案内人を用意する。冒険者を案内する仕事をしているヤツらがいるからな」


 ここはなんでも仕事にしてんだな。

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