第891話 ウスラグ山
王都まで街道は往来が結構あるようで、道端が四メートルはあり、馬車が交差しても余裕がある感じだった。
おもしろいことに王都が上りとし、地方は下りと呼ばれているそうだ。しかも右側交通とか駆除員が関わっているとしか思えねーな。
ライダンド伯爵の隣はロスナ男爵領で、ここも平原が続いている。
「ミジャーの被害が出ているようですね」
「忠告はしたんだがな。あまり真剣に受け取らなかったようだ。ライダンドに助けを求めてきているよ」
「困った方のようですね」
「まあ、借りを作らせてこちらに引き込むだけだ」
さすがご隠居様。領主代理に傑物と言わせただけはある。辺境がゴブリンや魔物に滅ぼされないだけある。いや、駆除員が投入されて続いてられる説もありそうだけど。
その辺のことに口を出す資格もなければ義理もないのでロスナ男爵領はスルー。道端があるので隊商が長い列を作っていてもその横を通りすぎ、辺境を分けるウスラグ山の麓の町までやってこれた。
「明るいうちにもうグラクス伯爵領まできてしまったか」
ざっと八十キロは走れた感じだな。こっちの道も整備したいものだ。
「随分と大きな町ですね」
規模から言ってミスリムの町(一万人くらいの町)くらいあるんじゃないか? 城壁に囲まれており城壁から城の尖塔も見えているよ。
「ウスラグ山を越える前に補給する地として発展した町だな」
森に囲まれ、ウスラグ山から川が流れてくる地なので、ミジャーの被害は軽微って感じだった。
「ここは山羊料理が有名だな」
山羊か。食ったことはないが、そう食いたいとも思わない。パイオニア四号はホームに入れ、城壁の外にある宿に泊まることにした。
「ガズさん。これで武器類を買ってきてください」
金貨一枚を渡した。
「どうするんだ?」
「新要塞都市で鍛冶屋兼武器屋をして欲しいので売り物は必要でしょう? 買えるところで買っておきましょう」
鉄不足になるかもしれないと、ミズイックさんが言っていた。なら、そうなる前に鉄製品を買っておくとしよう。
「鉄塊もあったら買っておいてください」
「わかった。今ならまだ店も開いているだろうから買えるだけ買っておくよ」
「ご隠居様は小麦を買ってきてもらえますか? 多少高くなっていても構いませんので」
「わし一人で買える量などたかがしれておるぞ」
「これを使ってください。魔法の鞄です。荷車一台分は入りますので」
荷車一台分でも館の一月分にはなるはず。買えるときに買っておいて損はないはずだ。
「そうか。任せるといい。他にも買っておくか?」
なんだかやる気満々のご隠居様。楽しいんだろうか?
「そうですね。いろいろ買ってください」
ご隠居様には金貨三枚を渡した。また買ってもらうときがあるからな。
オレはホームに入ってパイオニア四号に給油して軽く洗車。シエイラが部屋にいるかわからないが、黒い壁に向かってただいまと告げた。
と、黒い壁から手が出てきた。シエイラの手だ。
こちらからは見えないが、シエイラ側からは見えている。出てきた手を握り、その握力で元気であることがわかった。
「気をつけてな。オレはグラクス伯爵領の町まできたよ。明日にはウスラグ山を越えるよ」
了解とばかりに手を上下に振られ、気をつけてとばかりにニギニギされて手が離された。そして、バイバイと手を振って黒い壁の中に消えた。
「またな」
黒い壁を撫で、その場から離れて外に出た。
外はもう暗くなっており、篝火が焚かれて隊商の人間が騒いでいた。
感じからして明日にウスラグ山を越える隊商の人間だろう。越える前に鋭気を養うために騒いでいるのだろう。この時代のヤツらは元気だよな。
適当に歩き、服を売っている屋台があったので抜系の服を銀貨一枚分買ってホームに運んだ。
「貿易都市って感じだな」
ミジャーの被害は軽微だったとは言え、被害は出ているはずなのに品が豊富だ。ここで降ろして近隣の商人が買うんだろうか? 暗くなっているのに屋台が結構並んでいるよ。
オレに商才があればなんかを売って金儲けするんだが、まるでないので買う専門に徹し、あとは職員や女性陣にお任せ。きっと有効に使ってくれるだろうよ。
いい時間になったら宿に戻り、それぞれが買ったものをホームに運び、帰ってきた皆と仕分けて必要なところに持っていってもらった。
「ミリエル。落ち着いたらこちらを手伝ってくれるか? オレじゃ女物がわからんからさ」
適当に買ったせいか、女物が少なかったのだ。
「わたしはいつでも構いませんよ。ルースブラックが開いているのでルートを確認しながらコラウスから飛んでいきますね」
「それは助かる。帰りは海回りで帰りたいからな」
王都は海沿いにあるようなので海岸線を飛べばロンレアのほうが近いはずだ。
「それならカインゼルさんに伝えておきますね。プロプナスが移動しているようで退治できてないようなので王都方面にいってもらいます」
あ、プロプナスな。完全に任せてたから完全に頭から外れていたよ。
「そっか。まあ、あんなものはいつだって退治できるから急ぐ必要もないさ。やれるときにやればいいさ」
わざわざ探し出してまで退治するような存在でもない。逆にいてくれたほうが魔王軍の進攻を防げていいんじゃないか? プロプナスは魔力を持つ船を襲うらしいからな。
「はい。そう伝えておきます」
よろしくとお願いし、オレは外に出て宿で休むことにした。ご隠居様を放置するわけにはいかないからな。
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