第890話 今でしょう
「──なんじゃこりゃ!?」
回復薬大を飲み、失った脚と目が戻ってきたことに驚くガズさん。脚が生えるのって気持ち悪いよな。
「女神の力ですね。片足では大変でしょうから治させてもらいました」
これからたくさん働いてもらうのだから脚と目は治させてもらいます。
「とりあえず、治った脚と目のリハビリ──慣らしをしてください。経験者が言うにはしばらく痒くなるそうですが、歩いて消してください」
「……女神の使徒ってのは本当だったんだな……」
「使徒になっていいことなんてありませんけどね」
それどころか苦労ばかりの毎日だよ。
「動いて体に慣れてください」
三日ほどリハビリをしてもらい、さらに四日かけて脚があること、目が見えることに慣れてもらったら新要塞都市に向けて出発する。決して働いてこいと追い出されたわけではありません。自発的ですから。
久しぶりに道を走るのは気持ちいいものだ。
「コラウスから出るなんて何年振りだろうな?」
「コラウスが地元じゃなかたったんですか?」
「生まれは王都さ。十五まで育ち、鍛冶の親方とコラウスに流れてきた。戦争にも参加して、そこで脚を失ったのさ」
なかなか壮絶な人生だ。まあ、この時代じゃ壮絶な人生を送っているヤツはゴロゴロいるけどな。ほんと、生きるのに辛い時代だよ。
「王都のことは覚えていますか?」
「今でも覚えているよ。また見てみたいものだ」
「じゃあ、今からいってみますか? 王都、一度見てみたかったんですよね」
いずれはいかなくちゃならないところだ。ロンレアはカインゼルさんがいるし、ゴブリンの被害もない。いくなら今でしょう。
「ほ、本当にいくのか?」
「はい。道を教えてください」
「……あんたってヤツは……」
「オレ、思ったら吉日って性格なんですよね」
大切なことはじっくり考えるが、結構直感で動く性格なのだ。
マイヤー男爵領からライダンド伯爵領に向かう街道に曲がった。道はあまりよくないのでライダンド伯爵領に着いたのは暗くなる前だった。
ミジャーにより食糧が不足していて宿代が高くなっていたが、食事はホームから運んでくるので問題なし。ガズさんも宿で寝ることに問題を感じなかった。気持ちよく目覚めたそうだ。
宿を出ると、ご隠居様がいた。
「どうしました?」
「タカトがきていると聞いてな、散歩がてら挨拶にきた」
元ライダンド伯爵様がやることじゃないな。暇なのか?
「それはありがとうございます。挨拶にきてくれて申し訳ないのですが、オレたちは王都に向かうので、挨拶はまた今度にさせてください」
「王都か。なら、わしも連れてってくれ。隠居してから暇で暇で仕方がないのだ。王都なら案内してやれるぞ」
「そんな簡単に決めていいんですか?」
引退したとは言え元ライダンド伯爵。そう簡単に領内を出ていいものななか?
「構わんさ。もう息子に譲った身。やることもなく毎日散歩をしているだけだ。わしがいなくともライダンドは回るさ」
「では、出かけることを伯爵様に伝えてください。黙って連れてったらオレが誘拐犯になっちゃいますからね」
「うむ。そうだな。黙って消えたら息子も心配するだろう」
ライダンド伯爵領の領都はそこまで広くはない。ご隠居様が戻ってくるまでにRMAXからパイオニア四号に代えておく。
缶コーヒーを飲みながら待っていると、ご隠居様と現伯爵がやってきた。
「すまないな。父が無理を言って」
「いえ、わざわざきてもらってすみません。こちらから伺うべきでした」
最近、身分とか関係なく接してきたが、よくよく考えたら伯爵ってかなり身分が高い人だよな。その人にこさせるとかかなりヤバくね?
「構わぬさ。タカトのお陰でミジャーの被害も最小に抑えられた。ゴッズも狩ることができた。そうでなければライダンドは終わっていたことだろう」
「被害が抑えらてなによりです。ロンレアまでの道が確保できたので塩もそちらから流れてくるでしょう。詳しい話はコラウスかアシッカ、もしくはミヤマランに問い合わせてください」
「あの方まで懐に入れたか。ますますタカトの話に乗るべきだな。ロイズ。各方面に手紙を出して表明しておけ」
「言われなくてもわかっておりますよ」
優秀な父親を持つ息子も大変だ。オレは口うるさくない父親を目指すとしようっと。
「すまないが、父を頼む。いいように使ってくれて構わないからな」
「酷い息子だ」
親子ってなんだか大変そうだな……。
「では、ご隠居様を預かります」
「ああ。あと、これを。王都の前のガンザフル伯爵は、わたしの友人でもある。病床の息子がいるから力になってやってくれ」
つまり、助けて恩を売れってことか。できる親にしてできる子ありだな。
渡された手紙を運転時のチェストリグに入れた。
「ちなみに王都まで馬車だと何日ですか?」
「そうだな。ガンザフル伯爵領回りだと九日くらいか?」
「山を越えるのでそのくらいでしょう」
一日三十キロとして二百七十キロか。案外近かったんだな。
ご隠居様には助手席に座ってもらい、ゴズさんは後部座席に。シートベルトをしてもらったら伯爵たちに見送られて出発した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます