第888話 徴税人リターン

 今のところミロンドの町は平和そうなので戻ることにした。


 ついでなので冒険者ギルド支部に寄って支部長のランダミアさんに挨拶していくとしよう。あの人、シエイラと友達っぽかったからな。


 マルスの町の前でバイクを降り、歩いて冒険者ギルド支部を目指していると、久しぶりに徴税軍団に阻まれてしまった。


 ……新たな徴税人が出たのか……!


「お恵みを!」


 少しは食えているのか、前の徴税人……なんて名前だっけ? まあ、あいつより肉はついている感じだった。


「お前ら、ちゃんと食えているのか?」


 箱に銀貨一枚を入れてやった。


「はい! 皆さんのお陰で食べられています! ありがとうございます!」


 誰に教育されたんだか、礼儀正しくなってんな。


「失礼します!」


 とんでもないヤツが徴税人の背後にいそうだな。将来、変な犯罪組織を作らんでくれよ。


 支部に到着。なんだか寂れたような気がしないでもないな。冒険者も見当たらないし……。


「お久しぶりです。支部長はおられますか?」


「ああ、あんたか。本当に久しぶりだな。支部長なら上にいるよ。好きに上がってくれ」


 ん? 職員の数も減ってね? どうしたんだ?


 階段を上がり、支部長の部屋へ。開け放たれてはいたが、一応ノックをした。


「ああ、お前さんか。久しぶりだな」


「ご無沙汰しております。なんだか静かですね?」


「今、ミロンドの町に支部を移動させようとしているのさ。ここは、本部管轄の離所となる」


「離所ですか。別に支部があってもいいのでは?」


 マルスの町はそこそこ人がいる町だ。施設もそれなりに揃っている。離所にすると町からなんか言われるんじゃないの?


「冒険者がミロンドの町に移ったからな。ここの仕事が減っている。これは領地が広がると起こることだ。致し方ない」


 そういうものなんだ。オレも組織を運営してんだから気に止めておくとしよう。


「ゴブリン駆除は順調なのか?」


「はい。今のところ十一万三千匹は駆除しました。大きな集団はいなくなったので、他の土地に向かおうか検討中です」


「十一万か。見当もつかない数だが、危なかった数なのは理解できるよ。本当に不味い状況だったのだな……」


 支部長になるだけあって優秀な人だ。ちゃんと理解できるんだから。


「そうなると魔物が戻ってくる可能性もあるか」


「その辺は本部と話し合ってください。魔物のことは管轄外なので」


「魔物までセフティーブレットに奪われたら冒険者ギルドは廃業だよ。緊急性でもない限りこちらに回してくれ」


「ええ、そう伝えておきますよ。なので、ゴブリンはこちらに任せてください。今のところ領内に五百匹もいないと思います」


 領内を調べたわけじゃないので体感です。


「十一万と聞いたあとでは少なく感じるな」


「請負員が稼ぐにはちょうどいい数ですね」


 一日三匹も駆除したらその日の食事に困ることはない。それに、五百匹から減るより増えるほうが早いと思う。がんばれば冬を越せる金は貯められるだろうよ。


「あ、そうそう。シエイラが妊娠しました。恐らく九十日くらいだと思います」


「それを早く言え!」


 そう叫ぶと部屋を飛び出していってしまった。


 あとを追うと、職員にいろいろと指示を出し、腕を引っ張られて支部を出た。


 どこにいくのかと思ったら、どうやらランダミアさんの家のようだ。


 伯爵と親戚筋なのに家は借家で、本当の家は街にあるそうだ。家事は住み込みの女性に任せているそうだ。


「随分質素ですね」


 そう言えば、出産したとか言ってなかったっけ?


「一人ならこんなものだ。しばらくそちらに泊まるが、いいか?」


「構いませんよ。シエイラの部屋に寝台を用意しますよ。でも、酒はダメですからね」


「わかっている。わたしも産んだばかりだ」


「必要なものはこちらで用意しますから」


 ホームからRMAXを出してきて館に向かった。


「いいな、これは。馬車での移動は本当に辛くて堪らないよ」


「それならシエイラが使っているのがあるので貸し出しますよ。運転手も仕事があったほうがいいですし、シエイラの話し相手にもなって欲しいですからね」


 パイオニア零号は護衛に運転させている。妊娠期間中は貸し出しても問題ないだろう。


「それは助かる。移動が一番の手間だからな」


 それはよくわかる。だから道を整備することを最優先事項にしたんだからな。


 とは言え、マルスの町からラザニア村までは二十キロ以上ある。道もよくないから三、四十分はかかってしまう。やはりルースミルガンは四機くらいコラウスに配置したいものだ。


 館に着いたらシエイラに会わせる。


「あなたが妊娠とはね」


「まずはおめでとうじゃないの?」


「お前だってわたしが妊娠したときおめでとうとは言ってくれなかっただろう」


 この二人の友情がなんなのか理解できないので、ベッドを買いにホームへ。簡易のキャスター付きパイプベッドを買って外に出た。


「シエイラ。ランダミアさんに零号を貸し出すからどうするか決めてくれ」


「毎日くるつもり?」


「しばらくは毎日これるな。今、マルスの町の支部をミロンドの町に移しているからな」


「シエイラ。オレはアシッカに向かってルースミルガンを運んでくる。ランダミアさんを頼むよ」


 女同士の会話に入るつもりはない。オレはお暇させていただきます。アデュー。

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