第887話 第五の町、ミロイド

「では、また落ち着いたら酒を飲みましょう」


 昨日、あれだけ飲んだのにまったく顔に出ない領主代理に見送られて城をあとにした。


 ゴズはまだ準備中だろうと、ドワーフの様子を見にいくことにした。


 マルスの町に向かうと、ドワーフがあちらこちらに見て取れた。


 まあ、ミロイド砦──いや、ミロイドの町から歩いて半日。通って通えない距離ではないが、今の時間だと泊まっているか住んでいるかだろう。


 町を出て道を走るが、なんだか道がよくなっているな。幅も広くなって馬車が余裕で通れるようになっていた。


 途中、大量の荷物を担いだ集団がいたが、自分の体重の倍はありそうな荷物を担いでいた。どんだけだ、ドワーフって?


 軽く手を挙げて通りすぎて先を急いだ。


 道がいいから大体三十キロくらいで走れ、カーブくらいでスピードを落とすていど。一時間はかからなかったかな?


「砦が崩れてんな」


 家の材料にしてんのかな? それとも城壁か?


 砦に向かうと、ドワーフたちが砦を解体しており、リヤカーで運んでいた。うちの支部はどこいった?


 あまりここのことは報告を受けてない。オレもすべての支部や状況を把握しているわけじゃないんだよ。


 バイクを仕事の邪魔にならないところに停め、まだある見張り台に昇ってみた。


「おー。町になってんじゃん」


 やはり砦の材料で家を作っているようで、かなりの家が建っていた。ドワーフ器用だな。


「タカトさん」


 ぼんやり眺めていたらルスルさんがやってきた。


「お久しぶりです。かなり進んでますね」


「ええ。皆ががんばってくれているお陰です。町長として誇らしい限りです」


「あ、正式に町長になったんですね。大出世、になるんですかね?」


 町長ってどのくらいの地位だ? てか、町長に会ったことは……あるか。リハルの町の町長、萬田光一さんの子孫だったっけ。名前は忘れちゃったけど。


「大出世ですね。十年治めたら男爵にしてもらえる約束を得ました」


「十年ですか。そう簡単にはもらえないものなんですね」


「わたしには実績がありませんからね。十年でも破格と言ってもいいくらいの配慮ですよ」


 そうなんだ。あの領主代理でも配慮するんだな。


「またドワーフが逃げてきたみたいですね。マガルスク王国、なにがあったんです?」


 ロズは流行り病が蔓延しているとか言ってたが。


「内戦だそうです。国王と地方貴族が争っているとか。ドワーフたちには知らされてないので内情まではわかっていません。ドワーフたちも内戦に紛れて逃げ出しているようですね」


「内戦って、珍しいことなんですか?」


「どうでしょう。わたしも外国のことはよくわかりませんので」


 国内のことも流れてこないのに外国のことなんてわかるわけないか。領内で何日か遅れて入ってくるんだからな。


「ドワーフの様子はどうです? よく働いているようには見えますが」


「見てのとおりだと思いますよ。戸籍と暮らす場所が与えられ、奴隷か家畜かなんて扱いも受けません。なにより、毎日食べられてますからね」


 それが一番か。痩せこけたヤツは見て取れないからな。


「酒を出すんでルスルさんの名前で配ってください」


 ルスルさんがドワーフを治めてくれるお陰でオレの仕事は減っている。酒くらい用意してあげましょう。 


 ホームに入ったら装備を外して紙パックワインを箱で買い、外に出て巨人になって巨大化させた。


 二リットルが八リットルくらいになり、十二個だから九十六リットル。これじゃ足りないか? まだいけそうなのでもう一箱巨大化させた。


「皆に行き渡るように配ってください。肉も少しですが、出しておきますよ」


 ガーグルスの肉をコンテナボックスに入れてある。あれを二つばかり出せば皆にに行き渡るだろうよ。


「パンは食べられてますか?」


「はい。去年の備蓄が回ってきたのでパンだけは足りています」


「それはよかった。ここは大丈夫のようですね」


「なにかある口振りですね」


「はい。シエイラが妊娠したので悪いことが起きるかもしれません」


 負けルートに入ったからにはそれに相応しい問題が起こるはず。その一つがマガルスク王国だろうな。天変地異でもなければ必ず前兆はあるものだ。それを見逃さないでいるなら負けルートは勝ちルートに一変するだろうよ。


「……あのシエイラさんが妊娠ですか……」


 ルスルさんも冒険者ギルド本部で働いたことがある人。シエイラのあれこれを知っているだろうよ。


「今は可愛くなっていますよ」


「ふふ。まあ、タカトさんですからね。さすがのあの人でも可愛くなるでしょうよ」


 シエイラ、どんだけだったのやら。


「ルスルさんはどうなのです? 話がきたりしてないんですか?」


「きてますよ。仕事にならないくらい。わたしとしてはまず仕事に集中したいですね。町を作るというのはなかなか楽しいものですからね」


 真面目で事務仕事が得意そうな見た目だが、意外と行動派でコミュニケーション能力も高い。自分で考えで自分で決められるのが楽しいんだろうよ。


「結果を出しすぎて伯爵とかになりそうですね」


「タカトさんが言うと洒落になりませんね。その方向に持っていきそうで怖いです。あなたは本当にそうしそうですからね」


「やりたいのなら協力しますよ」


 この国と戦うようになったら奪った地を纏めなくちゃならないからな。それをやってくれる人は今から確保しておかないと。


「ハハ。そのときはよろしくお願いしますよ」


「はい。お任せください」


 さて。本当にその日がくるか楽しみだ。

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