第885話 ゴズ勧誘
そのままロンレアへ! とはせず、領主代理のところへ向かった。
KLX230Xで向かっているのだが、やはりミジャーの被害は出ているようで、青々した麦が所々枯れているのが見えた。
それでも畑で働く農民に絶望の色は見て取れない。笑っている人たちもいた。
「ゴブリンもいるな」
絶滅、なんてことは最初から無理だとは思っていたが、察知範囲内に二百から三百はいそうだ。ほんと、なにを食っているのか未だにわからんよ。
街の中に入ると、こたらは人がわかるくらい減っていた。
路上にいた住所不定者も明らかに減っており、なんだか着ている者もよくなっているような気がする。
「お、あれは」
露店は相変わらず並んでおり、そこに剣を並べている露店があった。
その前で停めると、やはり刃物屋のガズだった。
「お久しぶりです」
「おお! 久しぶりだな! 元気そうでなによりだ」
「儲かってますか」
「全然だな。最近は武器が必要な状況になってないからな」
「そうなんですか? 需要はありそうな気がするんですが」
ドワーフのところ……に持っていっても金がないか。まだ産業も起こしてないからな。
「じゃあ、オレが買ってもいいですか? 必要なところがあるもので」
新要塞都市や巨人にも渡したい。これから発展していくだろうから道具はあったほうがいいからな。
「それはありがたい。好きなだけ買ってくれ」
「金貨三枚あるんで、これで買えるだけください」
「いや、金貨三枚って、ここにあるもので金貨一枚しかならんよ」
へー。案外安いんだな。斧や剣が結構あるのに百万円くらいで足りるんだ。
「じゃあ、すべてください。これだけあれば余るくらいでしょう」
てか、よくこれだけのものを運んできたよな。大小百個はあるぞ。リヤカーいっぱいになるくらいの量だ。
ホームからリヤカーを引いてきて刃物類を積み込んでホームに運んだ。
「もっとあるならセフティーブレットの本部に運んでください。すべて買うんで」
ロンレアにも運ぶか。十年も物資が流れてこなかったんだ、剣や斧は擦り減っているだろうよ。
「ガズさんは、鍛冶とかできるんですか?」
「まあ、そこまでの腕はないが、田舎の鍛冶屋くらいならできるはあるな」
「もしよければ移住しません? 鍛冶屋をやって欲しいところがあるんですよ。引き受けてくれるなら準備金として金貨一枚出しますよ」
「随分と破格だな。おれなんかでいいのか?」
「構いませんよ。鍛冶屋に知り合いがいないのでやってくれるなら誰でもいいってのが正直なところです」
「アハハ。正直だな。まあ、片足じゃ禄な仕事もできんしな。ありがたく引き受けるよ」
「では、帰りに──いや、ラザニア村まできてもらえます? これから城にいくんで」
たぶん、今日は帰れないだろう。なら、館にいってもらったほうがいいだろう。
「あんたも偉くなったもんだ。女神の使徒がうちで買い物してくれたことは一生の自慢だよ」
「それは名誉なことだ。きっとゴズさんも歴史に残るかもしれませんね」
「アハハ。そりゃしっかりしてないとなんて書かれるかわかったもんじゃないな」
「そうしてください。ではまた」
刃物屋をあとにして城に向かった。
久しぶりにきたというのに顔パスだ。そのまま駐車場──になってんな! あ、シエイラがきてるから作られたか?
「お久しぶりでございます」
未だに名前がわからない執事だか侍従だかわからない人。その人に連れられて領主代理の前にやってきた。
「久しぶりだな。元気そうでなによりだ」
「領主代理も元気そうでなによりです」
この人は疲れを知らないんだろうか? 変わったところを探すのが難しいくらいだ。
「シエイラはどうだ?」
「まだ動けるそうなので仕事をするそうです。オレとしてはゆっくりして欲しいんですが」
「あれもゆっくりできない性格だからな、無理に閉じ込めておくより仕事をさせていたほうがいいさ」
よくわかっている。オレは心配でならないけどな。
「わたしに娘がいたらお前に嫁がせたんだがな」
「オレはそういう考えに同調できないので断っていましたね」
そういう打算で伴侶を得たいなど思わない。ノーサンキューと断っているだろうよ。
「お前はその辺がはっきりしているからやり難いよ」
この人はオレのことまで理解しているから厄介でしかないよ……。
「まあ、お前はそれでいい。下手な女に引っかかることもないからな。シエイラがいてくれて本当によかったと痛感したよ」
「オレにはもったいない女ですよ。オレは独身を貫こうと思っていましたからね」
たぶん、オレはエルガゴラさんタイプだ。オタクではないけど。
「だろうな。お前は責任を負うことを極端に嫌う。それは裏返ると責任の重さを誰よりも知っているということだ。少し前のお前は責任に潰されそうな顔をしていたからな」
オレ、そんな顔をしてたんだ? まあ、確かに責任に潰されそうになって暴飲してたからな。
「今も責任の重さに苦痛な表情を見せているが、前よりはよくなった」
領主代理がニヤリと笑って席を立ち、背後の棚からグレングラント十五年をつかんだ。
「なにはともあれめでたいことだ。乾杯しようか」
うん。やっぱり今日は帰れないようだ。
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