第884話 擬態
仕事にいく前にエルガゴラさんのところに向かった。
巨人の建築スピードは本当に早いよな。もう建物はほぼ完成しており、今は人間の職人が中を調えているようだ。
「ゴルグ、ご苦労さんな」
家具職人って言うかミニチュア職人みたいになっているゴルグに挨拶する。
「おう。戻ってたのか」
「ああ。シエイラが妊娠したって聞かされたからな。急いで戻ってきたよ」
「へー。シエイラが──!」
作業を止め、オレを凝視してきた。なによ?
「……ほ、本当か……?」
「ああ。女神がそう言ったから間違いないだろうさ」
必要なことは言わないが、ウソは言わないからな、あのダメ女神は。
「こうしちゃいられん!」
と、どこかに駆けていってしまった。なによ、いったい?
まあ、なんでもいいと屋敷に入ると、貴族の屋敷かと思うくらいの壁紙が張られており、ゴルグが作っただろう家具も並べてあった。
「エルガゴラさん。どうです? 順調ですか?」
完成した部屋にフィギュアを並べるエルガゴラさん。ニッコニコの笑顔だな。
「ああ。こんなに早くできるとは思わなかったよ。メイドを雇う暇もないよ」
メイド、いるのか? 部屋に籠りそうな勢いなのに?
「ちょっと相談があるんですが、いいですか?」
「構わんぞ。少し張り切りすぎた。休憩でもするか」
まだ寝泊まりできるまでは進んでないようで、外にテントが張ってあった。
「ここで寝泊まりしているんですか?」
ゴーレムメイドが二体、調理をしており、エルガゴラさんがお茶を命令すると、すぐにコーヒーを出してくれた。ほんと、どんな技術を使ったらこんな高性能になるんだろうな?
「で、相談って?」
「シエイラが妊娠したんです」
「それはめでたくもあり困ったことだな」
やはり駆除員の子孫なだけあって困ったことがよくわかっているようだ。
「エルガゴラさんも困りましたか?」
「まあ、わたしの場合はまだマシだな。母親が巻き込まれる前に逃げてくれたからな。兄弟は大変だった聞いたよ」
エルガゴラさんの親である駆除員は別の大陸に送られた者で、付与魔法を与えられたそうだ。今から二百年前。マサキさんと同じときに連れてこられた同期でもある。
あのダメ女神は百年に一人ではなく、どうも数人を全世界に放っている節がある。困ったら異世界から人を拐ってきてる事例があるから否定できんのだよな。
ったく、どんだけ地球人の人権を踏みにじっているんだか。女神ってなんなんだろうな?
「それに気づくからタカトは優秀だよ。ほとんどの駆除員はそこを理解してないからな」
「理解していてもこれですよ」
「仕方がないさ。それも女神の計画だろう。駆除員は謂わばカンフル剤だ。人類を生かすために送り込まれているんだろうよ」
カンフル剤とか知ってるんだ。いや、アニメ観て覚えてんのか。
「それにも気づいてましたか」
「……お前はどこまで優秀なんだか。普通は気づかないものだぞ……」
そうなの? ダメ女神の行動を見ていれば気づきそうなものだけどな?
「わたしもそれに気づいてから子を残そうとする気も、駆除員の子であることも隠して生きてきたよ。煩わしいことに巻き込まれたくないからな」
駆除員の子だからできたことだろう。駆除員であるオレには逃げることもできないだろうよ……。
「お前の性格上、逃げることはできないだろうな」
「いざとなれば逃げますよ。オレはそこまで優しくはありません」
「いや、お前は優しいよ。いざとなれば己の命を差し出しても大切な人を守るだろう。駆除員なんてそんなヤツばかりだ。バカばっかりだ」
……ただのオタクではないからやり難いよな……。
「でも、お前はただのバカじゃない。優先順位ってものを知っている。自分が死んだときのことを考えて行動している。わかるヤツは見抜いているだろうな」
「巻き込んでしまった責任がありますからね」
「だからこそお前の子供が重要視されるんだよ。まあ、そうでなくとも駆除員の血は求められるがな」
「……もしかして、その老人の姿、擬態ですか……?」
前々から不思議だったんだよな。いくら人間の血が濃かったからと言ってここで老けるものなのか? 肉体は鍛え上げられた感じがするし、態度が若々しい。擬態しているのなら納得だ。
「まったく、お前は優秀すぎるんだよ」
と、エルガゴラさんが熔け、奥から二十代と思われるエルガゴラさんが現れた。
「それが本来の姿ですか」
金髪な美成年。これでは女が放っておかないだろうよ。
「付与魔法で老人の姿にしている。老人なら言い寄ってくる女もいないからな」
それで生身のメイドが欲しいのはオタクの性だろうか?
「わたしもここが気に入ったし、もう放浪するのも飽きた。お前の大切な人と場所を守ってやる。だから安心してゴブリンを駆除してこい」
「ありがとうございます」
深々と頭を下げた。これで安心できる。
「では、オレは稼いできますよ」
「これをシエイラに渡してやれ。お前たちがいた世界では指輪を交わし合うんだろう。わたしの父が母親に贈ったものだ。きっとシエイラを守ってくれるだろう。あ、形見ではないから安心しろ。わたしにいい人ができたら渡せともらったが、わたしはもうたくさんの嫁がいるからな」
その嫁が誰なのかは聞かないでおこう。きっとオレにはわからない世界だろうからな……。
「ありがたくもらっておきます」
エルガゴラさんの母親の思いを無駄にしないためにな。
「死ぬなよ。わたしはしばらく家から出たくないんでな」
「ええ。しっかり稼いできますよ」
父親になるのだ、家族のためにたくさん稼いでくるとしよう。
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