第882話 等しく守る
夜になってシエイラが帰ってきた。
「お帰り」
いろいろ考えていたが、シエイラの顔を見てほっとした。
「ただいま帰りました」
人前からか、館長としての顔を見せていた。
「体は大丈夫か? てか、いつからそうだと思っていたんだ?」
そこまで詳しいわけではないが、体調の変化は出るものだ。まさかって思うことはあったはずだ。
「……少し前からです」
「そっか。気づいてやれなくてごめんな」
少し前から回復薬のことがあった。少しでも意識が向いていれば気づいてやれたのに……。
「わたしこそすみませんでした。マスターが望んでないことを知っていたのに……」
バレてたか。いや、シエイラなら気づくか。察しのいい女だしな。
「老衰で死ぬと決めてはいるが、駆除員は最大で五年しか生きられてない。早いヤツは数日だ。オレもいつ死ぬかわからない。明日もわからない状態で子供を残すなど無責任もいいところだ。シエイラに未練を残させることにもなるからな……」
死んだオレなどさっさと忘れて新しい男でも見つけて欲しいものだが、シエイラはそんな女ではない。ずっとオレを思い続けるだろう。これは自惚れではない。過去を教えてくれたからわかるのだ。
「わたしは、いい男を捕まえたと思いますよ」
「買い被りすぎだ。オレはダメな男だよ」
臆病で平凡な男だ。いい男なんかじゃないさ。
「……無事出産するまでホームには入るな。あそこは五人と特別枠のシエイラだけだ。回復薬と同じなら五ヶ月、百五十日過ぎたら確実に排除されるはずだ」
あのダメ女神が子供は別とかの優しさを見せるわけがない。回復薬のことも教えず、ホームに入れるかも言及しなかった。さらに訊きたければゴブリンを駆除しろとばかりにゴブリンがいる場所を示しやがった。
恐らく今は九十日前くらいだろうが、確実なことは言えない。安全のためにホームには入らないほうがいいだろう。
「……産んでもいいの……?」
「セフティーブレットの子なら誰の子でも関係ない。等しく守るし、全力で助けにいく。見捨てることはない」
それがセフティーブレットのマスターとしての責任だ。もちろん、駆除員とシエイラの命がその上にあるがな。
「フフ。それでこそ我らがマスターだ」
職員ばかりかセフティーブレットの関係者がいつの間にか集まっていた。
「シエイラが動けなくなるまで副館長としての仕事を覚えるか」
とはルシフェルさん。
「おれたちも補佐するので安心してください」
とはロイス。
「館の女衆でシエイラを守るから安心しな」
とはマーダの嫁さん。確か、サニーさんだったっけか?
「ありがとう」
皆に頭を下げると、カインゼルさんが背中を叩いた。
「それはこちらのセリフだ。ここにいる者はタカトに救われた者ばかり。次はわしたちがお前の大切な者を守る。一人で抱え込むな」
「ありがとうございます」
オレの側にいてくれて本当によかったと思わせてくれる人だよ。
「シエイラ。オレはゴブリンを駆除しないと女神になにをされるかわからない。下手したらどこか遠くに連れ出されるかもしれない。常に動き続けないとならない」
「わかっていますよ。その覚悟でマスターの下にきたのですから」
「初めて会った頃からすると凄い変わりようだな」
昔は妖艶な感じを出していたのに今は可愛くなっちゃってまあ。
「変えたのはマスターですよ」
オレのせいなの? 特別なんかしたわけじゃないだろう。
「ふふ。マスターはそのままでいてください。セフティーブレットのためにも」
「そうだな。タカトはそのままでいい」
そうか? オレとしては変わりたくて仕方がないんだがな。
「サニーさん。シエイラをお願いできますか?」
「任せておきな。ニャーダ族の女たちが必ず守るよ」
「あたしらも守るよ」
確か、ロズの奥さんだったはず。名前はわからんけど。
「館の警備も頼む。オレを排除しようとするヤツは必ずシエイラを拐うと考えるはずだ。もちろん、セフティーブレットの子もその対象となるかもしれない。十二分に気をつけてくれ」
「それなら旦那の弟とその嫁を呼ぶよ。逃げてきたドワーフはたくさんいるからね」
「あたしらも呼ぶよ。ニャーダ族の女は鼻がいいからね」
マーダやロズたちが女たちを残していくわけだ。女たちのほうがコエーよ。
「カインゼルさん。オレはしばらくコラウスに残ります。ロンレアをお願いします。もし、プロプナスが動いたら倒してくれて構いませんから」
どう倒すかはカインゼルさんに教えてある。やりたいならやってくれても構わないさ。
「わかった。わしがタカトの代理として動こう。ルースブラックを使っても構わないか?」
「はい。好きに使ってください」
ルースミルガンはホームに入れてある。あれがあればコラウス内なら充分移動できるだろうよ。
「シエイラ。今日はゆっくり休め。ホームから必要なものはオレが出すから」
ホームと繋がる扉はシエイラの部屋(館)にあるので、ベッドや私物はホームに入れてある。なので、部屋には大したものが置いてないのだ。住みやすいよう整えてやろう。
「はい。お願いします」
「じゃあ、皆。それぞれの仕事に戻ってくれ」
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