第878話 ミヤマランの発展図

 朝から動く──ってのが日常になり、正しい生活と思えてきているのは感覚が狂ってきているからだろうか? こんな生活望んじゃいないのによ……。


 それでもやらねばならないなのが悲しいところ。ルースブラック、一号艇、六号艇をフル回転して人と物を運んだ。


 ロンレアの様子見から戻り、コントルさんの部下でロンレア支店を任せるタルガさんと従業員五人、そして、荷物を運んだ。


 広場にいた隊商もアシッカ側に運び、あとはそれぞれの力でなんとかしてもらうことにした。


 ルジューヌさんがいたことからこのことはミヤマラン公爵からの依頼として広めてもらい、なんとかすべてを片付けた。


 一休みする暇もなく公爵を連れてきて、崖崩れの視察をしてもらい、そこを指揮する者たちに声をかけてもらい、差し入れを渡して復旧をがんばってもらった。


「山は寒くなりましたね」


 気温は二十四度。もうちょっとで九月って感じだろうか? この世界にいると月日が大雑把になるな……。


「ミヤマランは山に囲まれた地だからな、夏は暑く冬は寒い。今の時期から一気に寒くなる」


「そう言えば、寒暖差が激しいところは野菜や果物が美味しくなるとか聞いたことありますね。平地では麦、山では野菜とか果物を作るといいかもしれませんね」


 元の世界で言えば山梨県か長野県くらいになるんだろうか? ウイスキー好きの上司とウイスキー工場を見にいったのを思い出すよ。久しぶりに白州を飲んでみたいものだ。


「ミヤマランは発展しそうか?」


「そうですね。三百年後くらいには観光地になっているんじゃないですかね? 湖でもあれば避暑地になるんじゃないですか?」


「湖ならあるぞ。そこまで大きいものではないが」


 へー。湖あったんだ。まあ、山に囲まれたところだし、ありもするか。領都にいく途中に川が二本あったし、それが湖に通じてんのかな?


「船でも浮かべてゆっくり釣りでも楽しみたいものですね」


 ウイスキーを飲みながら緩やかに流れる時を楽しみたいものだ。これも遠い未来過ぎてイメージできないがよ。


「さあ、ロンレアに向かいますか」


 ここにはルースブラックできたのでそのままロンレアへ向かうとする。


 伯爵は一号艇で明日から通ってもらうことにしたよ。アシッカから運ぶものもあるし、ミヤマランの隊商も冬に向けて動く必要がある。


「この時代は冬を越すために生きているって感じですね」


「そうだな。わたしも城にいると忘れがちになる。気をつけねばならないな」


 恵まれすぎて大切なことを忘れてしまう。初心忘るべからず、だな。


「……世界は広いのだな……」


 副操縦席に座る公爵が窓の外に広がる世界に感嘆としている。


 まあ、無理もない。今の人間が空を飛ぶなんてこと考えもつかないことなんだからな。


 レンカとルルカがいることでマナック補給ができるようになったが、人間はそうはいかない。三時間近く座っているのは大変なものだ。トイレにいきたくもなる。休憩のために新要塞都市に降りた。


「ここも変わったな。あちらは使わないのか?」


「元の要塞はゴブリンに汚されましたからね。新しく造ることにしました」


 ここを任せているモウラを紹介し、新要塞都市内を案内したらロンレアに飛び立った。


「モリスの民か」


「陰謀は聞いていますか?」


 ミリエルの一族を排除するための陰謀だ。


「聞いている。ミヤマランは距離があるから介入できなかったが、今の王国を牛耳るローレント侯爵が起こしたものとされている」


 現コラウス辺境伯もローレント侯爵とやらに与しているそうだ。そんなクソに資金は送りたくないが、コラウスが纏まり、抵抗できる力が育つまでは我慢だ。


 オレたちが今日向かうことはミリエルを通じてロンレア伯爵に伝えてもらっているので、山頂に人が集まっているのが見えた。


「フォロポロス山か。マーシャス殿がよく登っていたそうだ」


 ロンレアの半島は函館山に似ている。高さはちょっと低いが、登るとなると汗をかくだろうよ。オレも一回くらいなら登りたいな。毎日は嫌だけど。


 発着場にするために整備したんだろう。広範囲が均してあった。


 ゆっくりと降下していき、そっと着陸させた。


「オッケーです。降りましょうか」


 マナ・セーラを切って外に出た。


 後部ハッチ前に移動したようで、ロンレア伯爵と思われる男性と奥さん。カルザスさん、伯爵の息子であるマルスさんと嫁さん(名前なんだっけ?)、配下の者がいた。


 まあ、身分的には公爵が上。総出で迎えないと失礼になっちゃうか。


「……カルザス。見ない間に立派になったな……」


「まだまだでございます。父の後を継いで伯爵の重みに震えるばかりです」


「それがわかればマーシャス殿も喜ばれるだろう。お前が生きていて嬉しいよ」


 伯爵の手を握り、自分の息子のように抱き締めた。


 ……父親か……。


 社会人になって実家を離れ、一人暮らしをして、そのときを生きるので忙しくしていたから父親、両親のことをそんなに大事にしてなかったな。もっと親孝行しておくんだったよ。


 なんて思ったときに親はなし。この世界からダメな息子で申し訳ないと謝らせてもらうよ……。


 ───────第18章終わり───────

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