第876話 墓標

 公爵との話はたくさんありすぎてその日では足りなく、次の日の午後からも話し合うことにした。


 午前中? もちろん、二日酔いです。ゲーゲー吐きましたとも。


 午後までゆっくり過ごさせてもらい、冷たい水を浴びて活を入れ、通常装備に着替えて外に出た。


 ホームに入ったのは公爵のプライベートルームで、時間がくるまでここで待つように言われている。


 缶コーヒーでも飲みながらゆっくり待つかと思っていたらルジューヌさんが入ってきた。今日もドレスなんだ。お休みか?


「きていたのですね」


「少し早かったですか?」


「いえ、大丈夫です。よろしいですか?」


「はい。構いませんよ」


 で、通されたのは執務室であり、商人と思われる男性が四人いた。うち一人はノーマンさんだった。


「タカト。この四人はわたしが信頼する商人たちだ。同席させてくれ」


「わかりました。どこから話しましょうか?」


 公爵にはコラウスのことまでは話した記憶がある。そのあとは記憶が曖昧だけど。


「ロンレアの様子を頼む」


「わかりました」


 ホームからホワイトボードと写真を持ってきた。


「これは写真と言って風景を切り取るものです」


 写真という概念がないからそこから教えて、各自に見てもらい、その間にホワイトボードにロンレアの地図を書いた。


 ロンレアのことはミリエルに任せてあるのでそう詳しくは語れないが、状況を語れるくらいにはミリエルから聞いている。それを語ってみせた。


「この方、ロンドルク様ではないか? マーシャス様のご子息の?」


「ああ、そうだ。マーシャス様のご子息、ロンドルク様だ」


 ロンドルクって確か、新しく伯爵になった人だっけ? 息子はマルスさんだったけど。


「あ、そうそう。新しいロンレア伯爵から手紙を預かっているんでした」


 すっかり忘れていたわ。


 アポートウォッチで手紙を取り寄せて公爵に渡した。


「……マーシャス殿が死んだのか……」


「仲がよかったので?」


「王都で会えば酒を飲み交わした仲だった」


 そう言うと、部屋を出ていってしまった。


「マーシャス様はマルド様のよき理解者でした」


 と、ノーマンさんが教えてくれた。


「公爵様を理解できたのならかなり優秀な方だったようですね」


「そうですね。伯爵ではありましたが、領地は公爵並みでしたから王国でも高い発言力を持っていたそうです」


 まあ、駆除員の子孫であり、拠点チートをもらっていた。大きくならないほうがどうかしているわな。


 アポートウォッチでワインとグラスを取り寄せ、皆さんに注いで渡した。


「公爵様のよき理解者が女神の下にいけますように」


 ダメ女神ではあるが、お前が送り込んだ者の子孫。ちゃんと労ってやれよな。


 四人も席を立ち、女神の下にいけるよう願った。


「……タカト殿。マルド様が戻ってくる前に崖崩れのことを話し合いたい。もはやアシッカへの道は必要なものとなった。これ以上、足止めを食らうわけにはいかないのだ」


「公爵様には公費で道を整備するようには進言した。新たな商会を立ち上げて道を築くといいでしょう。道はこの先どんどんできますからね」


「マルド様から直接仕事を受ける、と言うことで?」


「そうですね。公爵様の金で道を築き、商人は儲けた金を領地に落とす。数百年先まで仕事を失うことはないでしょうよ」


 オレの言葉に視線を飛ばし合う商人たち。どんな答えを出すかは四人次第だ。


「ロンレアの人口はかなり減りました。支店を出すなら今でしょうね。もし、支店を出したいと言うなら送りますよ。こちらには空を飛ぶ乗り物がありますので半日もかからず送り届けられるでしょう」


 また目を交わし合い、白髪の男性が手を上げた。


「まず、我がルクアル商会をお願いしたい」


「いきなりは乱暴ですから何人か様子見にいきますか?」


「それは助かる。すぐに用意しよう」


 そう言って部屋を出ていった。別室に配下の者がいるのかな?


「少し休憩しましょうか」


 公爵も戻ってこないし、ちょっとトイレにいきたい。しゃべりすぎて喉も乾いたしな。


 残り三人も承諾してホームに入り、二十分くらいして出てきた。


「タカト。父が部屋にきて欲しいとのことです」


 部屋にはルジューヌさんだけおり、断れないのでついていった。


 プライベートルームにいくのかと思いきや城の外に出て林があるほうに向かった。


 城は広大なので林があっても不思議ではないが、かなり年月の経った木ばかり。かなり昔から生えているようだ。


「ここは、ミヤマラン家の墓があります」


 墓地か。確かに静かな場所は必要だな。


 道の先には立派な墓標があり、そこに伯爵がいた。


 ワインを取り寄せ、ルジューヌさんに渡した。


 公爵の横に立ち、墓標を眺める。こちらの世界の文字が刻まれており、文字数からして名前だろう。ミヤマラン家の墓、とかかな?


「……知っている者がいなくなるのは寂しいものだな……」


 その感情はオレにはよくわからない。じいちゃんやばあちゃんの葬式に立ち合った経験しかないからな。


「ご冥福をお祈りします」

 

 墓に祈る経験もそんなにないし、ここでの祈りも知らない。手を合わせ、よく聞く祈りの言葉を口にした。


 ルジューヌさんからワインを受け取り、墓標に供えた。

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