第875話 ポイズンマスター
城に向かい、案内された部屋は公爵の個人的な空間のようだ。
部屋には伯爵と、伯爵と同年代の男。そして、ルジューヌがいた。
「お久しぶりです。ルジューヌさん」
今日のルジューヌさんはドレスを着てなんかおしとやかだ。なんかあったのかな?
「ええ。無事会えて嬉しいわ」
しゃべり方までおしとやかになってんな。
「まあ、まずは乾杯でもしよう。タカトがくるまで酒はお預けにしていたからな」
「それはすみませんでした」
席に座り、控えていた侍女だかメイドだかが酒を注いでくれて乾杯した。
「紹介しておこう。わたしの養子にしたマルシェグだ。兄の子でマレアットと同じ歳だ。マレアットが留学にきたときの世話役でもある」
あ、公爵の息子は殺されたんだっけ。
「後継ぎができてなによりです。マルシェグ様。一ノ瀬孝人です。よろしくお願いします」
公爵はまだ死にそうもないが、オレは老衰で死ぬので長い付き合いとなるだろうよ。
「こちらこそよろしくお願いします。タカト殿とよき関係を結べるよう努力させていただきたいです」
随分と腰の低い人だな。
「マルシェグはまだ教育中でな、五年後には公爵の地位を譲ろうと思っている。力を貸してやってくれ」
「オレにできることなら協力させてもらいますよ。オレもミヤマランとは仲良くやっていきたいですからね」
公爵が生きている限り、この人と対峙するつもりはない。勝てそうにないうちの一人なんだからな。
「そちらの状況を教えてくれ。お前はやることが迅速すぎて情報収集が追いつかないんでな」
「情報伝達が遅れた時代に情報収集できていることが驚愕なんですがね」
まずアシッカのことは把握しているだろうな。
「それをわかってくれる者は少ないのが悲しいところだ。情報を制した者が世を制することができるからな」
どこの軍師だろうか、この人は?
「タカトが道を重要視しているのも同じだろう?」
「そうですね。昔は道を整備することは侵略されやすいみたいな考えでしたが、オレの生きた時代は流通こそ重要視されていました」
まあ、運ちゃんには大変な時代だったけど。202X年問題、どうなったんだろうな?
「商人たちがタカトを支持する理由はそれだろうな。数百年先までの答えを知っているのだからな」
「世界が違うので同じ歴史を辿るかはわかりませんが、そう考えが違うわけでもありません。少々違っても辿り着く先は同じでしょうね。エルフも似たような道を辿り、そして滅びました」
エルフにも今のような貴族社会があり、商売が栄えた時代もあった。民主主義も生まれ、やがて集団主義となり、都市国家に縮小して滅んだ。知的生命体とはなんだろうと考えてしまうよ。
「オレができることは五十年先まで。そのあとはその時代を生きる者が決めることです」
オレも七十歳までは生きたい。可能なら八十歳までは生きたい。老後はゆっくり縁側でお茶を啜っていたいよ。ずっと先のことなんでイメージが湧かないけどさ。
「五十年先まで見通せるのもそれはそれで凄いことなんだがな。まあ、数百年先まで知っていれば五十年先まで予想はできるか」
「オレは凡人です。特殊な考えができるわけじゃありません。できることを一つ一つやっているだけですよ」
「マルシェグ。マレアット。お前たちが学ぶべきはタカトだ。わたしからなに学ぶな。荒れたときはいいが、平和なときではわたしは毒でしかない。タカトの考えが平和な世を生きられるからな」
「毒も使い方次第では良薬にもなりますよ」
要は使い方。どんな毒であるかを熟知し、使いどころを間違えなければ毒であることが欠点になることはないさ。
「ふふ。そうだな。お前は毒の扱い方が上手かったな」
公爵にしては柔らかい笑みを浮かべた。
「お前は凡人だろう。だが、無能ではない。自分を知っているからこそ人を誑かすんだろうな」
誑かしているか、オレ? ただ、任せられることは任せ、やれる人にお願いしているだけなんながな……。
「崖崩れのことは聞きましたか?」
このままでは話が進まないので無理矢理話を戻した。
「ああ。商人たちからもどうにかして欲しいと突き上げられているよ。だが、人手が集まらない状況だ。場所も場所だからな」
「塩はアシッカの名で運びます。ミヤマランとアシッカで協力して道の復旧を行ってください。人がいる限り道はなくなりません。いずれは山を掘る技術も必要となってきます。技術は今から重ねていくといいですよ。情報を得た者が世を制しますが、技術だって最新のものを持っているものが世界を制しますからね」
アシッカまでの道がよくなれば流通も活発になる。海のないミヤマランなら絶対に確保しておくべき道だろうよ。
「商人たちを集めて話し合おうもらえばいいでしょう。ミヤマラン公爵としての依頼なら商人たちは勝手に動いてくれるでしょう。当主が腐らなければミヤマランはさらに発展します」
人間は腐る。それもこの世界の人間でも必ず起こるだろう。
「それは、わたしの責任で行わなければならない、か」
「いい友がいたらそう簡単には腐りませんよ」
伯爵とマルシェグさんを見て言った。
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