第874話 ミヤマラン訪問

 山脈は雲に覆われていた。


「……雨か……」


 何回か降ったことはあったが、山が隠れるほどの雨雲が発生するなんて久しぶりじゃなかろうか? 


 ルースブラックのレーダーは短いので十キロ先までしかわからない。人工衛星からの信号もないので、ほぼ有視界飛行になる。


 仕方がないので上昇して雨雲の上に出て、雲の割れ目から降りて麓の広場に向かった。


 麓の広場には隊商が集まっており、いくつもの煙を上げていた。


 ルースカルガンの発着場は広場の奥にあるのですんなり降りられた。


 ここの管理はミヤマランの支部に任せてあるので草が伸び放題って感じでもなかった。


「レンカ、ルルカ、キャンプの用意をしてくれ。ゼイスは周囲を調べてくれ」


 城に降ろすことも考えたが、伯爵にミヤマランを見せるには地上からいったほうがいいと考えて元冒険者のゼイスとログスを連れてきた。二人にはルースブラックの見張りをお願いしている。


 オレはホームからパイオニア五号とトレーラーを出してきて荷物を積み変えた。


 今のアシッカには土産となるものはないが、コルトルスで捕れた魚(干物にしたもの)を持ってきた。公爵に食べてもらうとしよう。


「商人が話しかけてきたら内容を聞いておいてくれ」


 ルースブラックが降りてくるのは見えたはず。なら、嫌でも話しかけてくるだろうよ。


「伯爵様。男爵様。乗ってください。昼前には城に到着するようにしましょう」


 昼時にいくのも失礼だろうからな。


 二人を乗せたら出発。広場は通れないだろうから回り道して街道に出たら領都に向かった。


 アシッカとの往来が始まったからか、前より畦ができていた。こちらも整備してくれないと流通に支障が出るかもしれんな。


「……変わらないな……」


 伯爵が懐かしむように呟いた。


 留学にきていたのは十四歳の頃らしいので、十年も過ぎてはいないはず。この時代では十年や二十年では変わったりしないだろう。百年過ぎても変わらないんじゃないか?


 こちらは麦が青々と実っており、なにもなければ豊作になるんじゃなかろうか? いくらかアシッカやコラウスに回してもらえるかな?


 隊商は通ってないので九時くらいには城壁が見えてきた。


 そのまま城門に向かうと、門番が駆け寄ってきた。


「セフティーブレットのタカト様でしょうか?」


「はい。約束はしてませんが、公爵様と面会をお願いします」


「すぐに知らせます」


 笛を鳴らすと門番が走っていき、城壁の階段を登ると、ポールに旗を掲げた。


「あれで城に伝わります。そのままお進みください」


 さすが公爵って感じだな。


 城門を潜って城を目指す。


「以前より活気が出ているな」


「ミヤマランの膿みを出しましたからね。治安もよくなっているはずですよ」


 柄の悪いヤツは見て取れない。このまま治安がよくなって商売繁盛になってくれたらアシッカにもコラウスにも利があるんだがな。


 城の城門までくると、門番たちが左右に分かれており、入るよう促された。


 ここも何度も入っているので敬礼して入らしてもらい、玄関──って言っていのかわからんが、以前中に入ったところに向かった。


 玄関(仮定)にくると、公爵がわざわざ迎えてくれた。


「お久しぶりです」


「ああ、よくきた。マレアットか。五年、いや、八年振りか? いい顔になったな。いろいろ揉まれたようだな」


「お久しぶりです。またマルド様に会えて嬉しく思います」


 公爵にしたら息子みたいな存在なんだろうか? 少しだけ柔らかい表情をしているよ。


「公爵様。オレは支部にいくので伯爵様をお願いします。夜には顔を出しますので」


 トレーラーの荷物は兵士たちに降ろしてもらった。


「相変わらず忙しいようだな」


「ええ。ゴブリンは落ち着いたのですが、食糧確保やらロンレアの復興やらであっちにこっちに大忙しですよ」


「そうか。夜に酒でも飲みながら話してくれ」


「ええ。オレも久しぶりに公爵と酒が飲みたいですよ」


 公爵とは酒の好みが一緒だ。好きな酒を飲めるのは嬉しいものさ。


「ふふ。相変わらずだな、お前は」


「そうですか? では、また夜に」


 パイオニア五号を回して城を出た。


 支部どっちだっけ? と、ちょっと道を間違えてしまったが、支部に到着できた。


「お疲れさん。元気そうでなによりだ」


 支部長のライグや職員たち、ミヤマランで雇った者が迎えてくれた。


「はい。支部も落ち着いて、請負員も増えています」


「ゴブリンは現れているのか?」


「そう多くはないですが、一日五、六匹は駆除しているようです」


 五、六匹なら充分暮らしていける分は稼げているようだな。オレもそんな生活を送りたいものだ。


「ホームから荷物を運び出すから建物に運んでくれ」

「助かります。崖崩れが起こったと聞いて、誰かアシッカに向かわせようと考えていたところです」


「こちらにも物資を運ぶようにするから麓の広場に人を置くようにしてくれ」


「わかりました。そのように進めます」


 荷物を運び入れたら建物に入り、ライグから報告を受けた。


 これと言った問題はなく、ゴブリン駆除以外にも隊商の護衛もしているようで、そこそこ稼げているようだ。


「誰か麓の広場に向かわせてくれ。ゼイスとログスがいるんでな」


「わかりました。二人ほど向かわせます」


 そろそろオイル交換をしなくちゃならないので支部に置いたパイオニア二号と四号を交換した。


「また任せるようになるが、いざとなれば迷わず逃げろよ」


「はい。誰一人残さず逃げるとします」


 よろしいと、支部をあとにして城に向かった。

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