第870話 家畜化開始

 オーグが出て警戒してたが、これと言った問題もなくロンレアの半島が見えてきた。


 まあ、海沿いの街道なのでしばらく前からは見えてはいたが、城が見えてきたことでロンレアに到着したって感じだな。


 港町まで二キロくらいってところでニャーダ族の男たちと出会った。


 ……そう言えば、街道整備してるんだっけな……。


「ご苦労さん。いい道だったよ」


 すっかり土木作業員みたいな感じになってんな。そんなに気に入ったのか?


「それはよかった。海を眺めながらの仕事はいいもんだな。魚もすぐ釣れるし、焼いて食うと美味い。もうちょっとで終わるのが残念だよ」


「まあ、長いこと帰ってないんだから一旦コラウスに帰るといい。これまでの給金を出すから」


「ゴブリンはいないのか?」


「探せばいるていどだな。もう千匹単位ではいないと思う。増えるのは冬前だろう」


 年に何回産むかは知らんが、二、三回は産んでいる感じがする。冬の前に妊娠するのは確かで、春、秋の前、って感じか? 二、三匹は産むからすぐ増えるだろう。それでよく人類が滅びなかったものだよ。エサがなく餓死でもしてたのか?


「それまではゆっくりしているなり土木仕事をするなり好きにしているといいさ」


 恐らく魔物も増えるだろうが、それは冒険者に任せたらいいさ。そちらまでオレたちが仕事を奪うこともないさ。


「ゴブリンがいなくなるのも問題だな」


「駆除したいなら魔境にいくのもいいかもな。魔境にはゴブリンの女帝がいるみたいだ。かなりの数がいるんじゃないか?」


 ダメ女神は駆除しろとは言わないのが不思議だが、人類が入っていかないから見逃しているんだろう。オレは言われるまでいく気はない。


「魔境か。あそこはニャーダ族でも暮らすのが困難な地だ。ゴブリンがいるからっていきたくはないな」


 まっ、そんなところにいくのはチート持ちくらいか。下手に魔物を刺激してこちらにこられるのも面倒だ。人類に駆逐されるまでは健やかに生存してくださいな。


「ゴブリン駆除は副業的なものにして、本業を作るのもいいかもな」


「本業か~。おれたちは狩りで生きてきたからな~」


「海で漁をするのもいいんじゃないか? ニャーダ族って泳げるよな?」


 獣的血は流れているが、水を怖がったり嫌がったりはしない。風呂も毎日のように入るヤツもいる。ビシャとメビは風呂好きだぞ。


「……漁、か……」


「コルトルスの町はセフティーブレットの息が強くかかったところだ。ロンレア伯爵領でもある。ニャーダ族が虐げられてもロンレアの名で戸籍も与えられ、ロンレアの法で守ることもできる。山も近いんだから狩りもできるぞ」


 ニャーダ族も増えるならバラけたほうがいいだろう。一つに固まると病気なんかで滅ぶこともあるんだからな。


「まあ、ゆっくり考えたらいいさ。住むとなれば家族を呼ぶ必要もあるんだからな」


 ロンレアが復活するには何十年とかかり、コルトルスの人口が増えるのも何十年とかかるだろう。存在を示しておけはすんなり入れるだろうさ。あそこはミサロの存在が強いからな。


「オレはガーグルスを巨人に預けたらまたコルトルスに戻るよ」


 まだ道は続くので、ホームから物資を運んできて渡した。


 二キロなんてすぐなので三十分もしないで巨人の町に到着。ここは本当に発展が著しいよな。家だけではなく畑まで作られていたよ。


「なに植えてんだ?」


「豆だよ。すぐ生るからな」


 飢饉食なんだろうか? どこでも豆を植えるよな。


「ガーグルスも豆を食うからもっと畑を広げないとダメかもな」


「植えるほどの豆はあるのか?」


「ああ。豆はコラウスからたくさん持ってきているし、ラグの親父さんが戻ってくるとき豆を運んでくるから大丈夫さ」


 豆ってそんなにあるんだ。


「あ、待てよ。カロリーバー、エサにならんか?」


 カロリーバーがなんの材料から作られるかは一生の謎のままにして、ホームから持ってきて出してみた。


「……なんの躊躇いもなく食ったな……」


 食わしておいてなんだが、大丈夫なのか? まあ、栄養の塊だし、問題が出たら出たで構わないか。ダメなら肉にしたらいいんだしよ。


「巨人で面倒見てくれ。卵は火を通して食えよ」


 まだ堀は掘ってないが、巨人なら一日で掘ってしまうだろうさ。


「卵か。それはいいな。鳥の卵なんて滅多に食えないものだからな」


 ガーグルスの卵ならSサイズの卵くらいだろう。たくさん産めるようになれば一日一個は食えるようになるだろうさ。


「エサは出していくから世話は頼むな。モニスがまた捕まえていたら連れてくるから」


「ああ。たくさん捕まえたなら連絡してくれ。こちらからも人を出すから」


「了解」


 ホームにあるミジャーの粉をすべて出し、カロリーバーも出せるだけ出した。


「ミギス、ルカ、コルトルスに戻るぞ。疲れてないか?」


 飛ばせば五十キロなんて一時間で到着できる。充分明るいうちに戻れるだろうよ。


「大丈夫です」


「全然疲れてません」


 ほんと、若いって羨ましすぎる。オレは早くビールが飲みたいってのにな。


「よし。戻るか。暗くなる前に帰るぞ」


 はい! と元気に返事をする少年少女たち。この世界の未来は明るいと感じさせてくれるよ。

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