第868話 どこでも部屋

 準備ができたら出発する。


 ラオルスさんが残る代わりにルセラクさんという生物学全般を任されている博士で、エルフ再生計画の責任者でもある人だ。


 専門家を中心に眠ったようだが、再生計画のために精子を冷凍保存していたそうだ。


 その再生には魔力炉が必要なので、装置をガーゲーに運ぶ必要があるそうだ。


 今になったのは眠った者たちが今の環境に慣れ、大気成分を調べる必要があったそうだ。


 ルセラクさんの助手でもあり、母胎提供者でもあるライリカルさんは技術補助員でもあるのでルースブラックにマナックを補給できる知識もあるので降りることなくガーゲーへと飛べた。


「博士」


「元気そうね。マーリャ。再生計画を始めるからよろしくね」


「はい。用意はしております」


「タカトさん。ありがとうございました」


「はい。新しい子が無事産まれること願っていますよ」


 オレには手伝うこともできないのでカロリーバーと容器に入った水をルースブラックに積み込んだ。


「おータカト。ここにいたか。探したぞ」


 さて、出発するかと思ったとき、エルガゴラさんが現れた。


 ……ほんと、この人もチートを受け継いでいるから神出鬼没なんだよな……。


「お疲れ様です。どうしました?」


「屋敷が欲しいんだが、どうにかできんだろうか?」


「屋敷ですか? またどうして?」


 ガーゲーに場所を用意したでしょうに。


「ここでは住み難いんだよ。街も遠いしな」


 引きこもりが街にいったりするんか? オタクって引き籠れるなら場所は問わないのでは? あ、偏見ですみません。 


「街に住みたいってことですか?」


「いや、街から適度に離れていて、騒がしくないところがいい。あと、車があるとありがたい」


 なかなか難しい注文をしてくれるな。そんな場所あるのか?


「じゃあ、コラウスに住んでみますか? セフティーブレットの本部があるところは街から離れてますし、ちょっと離れたら騒がしくもないです。車も職員が触れたらいいでしょう。巨人に頼めばそう時間もかからず屋敷を作ってくれると思いますしね」


「そう、だな。タカトの近くにいたほうがいろいろ便利か。うん。コラウスにいくとするか」


「今ガーゲーにきたばかりなのでもう少し先でいいですか? ここの部屋も片付けもあるでしょうし」


「ああ、それなら大丈夫だ。いつでも引っ越せるようにしてあるから。少し待っててくれ。一緒にいくから」


 そう言って走っていき、二十分くらいで戻ってきた。そんな時間で片付けられる量ではなかったですよね?


「忘れ物はありませんか?」


「ああ、大丈夫だ。引っ越しは慣れているからな」


 ずっとミジア男爵領に住んでいたわけじゃないんだ。意外とふっ軽な人?


「そうですか。なら、出発しますか。ミギス、皆を呼んできてくれ」


 ガーゲーが珍しくて探索に出た他の連中を呼びにいかした。


「なにか仕事はあるか? 屋敷を用意してもらう分の働きはするよ」


「それは助かります。コルトルスにいったらお願いしますよ。あと、どんな屋敷にするかも考えててください。そい言えば、他のメイドはどうしたんです?」


 マリンとカレン以外のメイドゴーレムを連れてなかったっけ?


「仕舞ってある。やはり生身のメイドのほうがいいからな」


 この人はいったいどこを目指しているんだろうか? いや、オタク活動をエンジョイしているだけか。なんとも羨ましい限りだよ。


 少年少女たちが集まったので出発。もう夕方になっていたが、ロンレアでマナックを補給したらコルトルスはすぐ。完全に陽が落ちる前に到着できた。


「ミギス。コルトルスに宿がないからルースブラックの中に泊まれ。食事は食堂があるからそこで食うといい」


 屋台をやっているリン・グーがお世話になっているのがその食堂だ。


 ……あいつもあいつでどこを目指しているかわからんよな……。


「エルガゴラさんも今日はここで休んでください」


「ああ。わしは大丈夫だから心配するな。ちゃんと部屋は用意してあるからな」


 部屋は用意した?


 どーゆーこと? と見ていたら鞄から扉を出した。どこで◯ドア?


「どこでも部屋だ。異空間に部屋を作ったのさ」


 うん。駆除員の子孫でオタクだものね。突っ込むだけ無駄だね。


「それがあるなら屋敷なんていらないのでは?」


「野営するときのもので暮らすものじゃない。異空間は空気がないから開けっ放しにしておかないとダメだからな」


 中を見せてもらうと四畳くらいしかなく、ベッドと荷物が置いてあるくらいだった。


 ……完全に寝るだけの部屋だな……。


「これを作るだけで魔石をかなり使ったよ」


「やはり異空間を作るのは大変なんですか?」


 ミシニーも異空間を開けるだけでかなりの魔力を使うって言ってたし。


「そうだな。異空間は女神の領域らしく、開くだけで莫大な魔力を消費するよ」


 そうなんだ。確かにちょっと広げるだけで金がかかっていた。あれはそんな理由だったから?


「オレは職員と話をしたらホームに入ります。今日はゆっくりしてください」


「ああ。わかった」


 パソコンとポータブル電源を出すエルガゴラさん。この人はブレないな~。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る