第867話 コラウス予備兵団

 出発準備していると、カインゼルさんたちが帰ってきた。


「お疲れ様です。大役ありがとうございました」


 カインゼルさんがいたから任せられた。ほんと、この人を捨ててくれたバカ領主には大感謝だよ。


「なに、そんな大役でもなかったよ。領主代理の全面的協力と潤沢な物資、ありあまるほどの人材を使えたんだからな。これで勝てないのならわしが無能というだけだ」


「無能はどんな好条件を用意されても失敗してますよ。ただ、カインゼルさんが有能だっただけです。傭兵団はどうです?」


「そのことなんだが、ミシャード様の提案で、コラウス辺境伯の予備兵団とすることになった」


「予備兵団、ですか?」


 どういうもの?


「コラウス辺境伯から金が出ている兵団ではあるが、セフティーブレット所属になる」


「領主代理が考えたのならオレは構いませんが、よくお金を出せましたね。ミジャーの損害もあるのに」


「そこは商人たちが出したそうだ」


「商人たちが? そこまでしていたんですか?」


「コラウスの商人たちは完全にタカトについたんだろう。お前は百年先を見越して動いているからな。商人としてはそんなことを考えられ、この短期間に証拠を知らしめた。なら、商人としては乗らざるを得ないだろう」


「そうですか。それならミジャーの被害もそう深刻になることもないですね」


 麦がたくさん食われたらしいが、セフティーブレットがミジャーを買い取ったことで、農民はそこまで深刻にはなっていない。道を整備する仕事もある。来年までなら食うに困ることはないだろう。


「そうだな。今から植えられるものもあるし、冬は越せるだろう」


「それはなにより。これから海に向かいますがどうします?」


「そうだな。まだやることがあるからウルヴァリンで向かうよ。走りたい気分だからな」


「わかりました。報酬はありますか? 必要なものがあるならこたらで用意しますよ」


「ガソリンが出ているのなら大丈夫だ。わしもそこそこ稼いだからな」


「わかりました。ガソリンはドラム缶で出しているので大丈夫です。コルトルスかロンレアで会いましょう」


 また出発準備を進めていると、ロンダリオさんたちの弟子みたいな五人組がやってきた。


 ミギス、ラズル、ボブス、リョウナ、ルカの少年少女パーティーだ。


「おー。久しぶりだな。元気にしてたか?」


 半年振りか? それなのに成長してんな! 十四、いや、もう十五歳か? この世界は成長が著しいな!


「はい。毎日腹一杯食べれてます」


 こいつらにはそれが大事なんだな。わからないではないけど。


「そうか。それはなによりだ。仕事はあるのか?」


「冒険者としての仕事は少なくなってますね。魔物もいなくなっちゃったので」


 まあ、ミジャーやらゴブリンやらで逃げ出したのだろう。魔物も生きるのに必死だからな。


「それなら別の土地にいくか? 今なら連れてってやれるぞ」


「いいんですか?」


「構わないよ。お前たちはまだ若いんだから他所を見ることも大事だしな」


 この歳になって思うよ。もっといろんなところにいっておくんだったとな。ドライブだって日帰りの距離のところしかいってなかったし。


「じゃあ、お願いします」


「荷物はそれだけか?」


 五人ともリュックサックは背負っている。カインゼルさんと同じく帰ってきたのか?


「はい。ゴブリンのことを聞きにきましたので」


「やっぱりコラウスからゴブリンはいなくなっているのか?」


「そうですね。ピタリと見なくなりました」


 嬉しいことではあるが、それで生きている者として深刻だな。


「まあ、他の仕事もやってみればいいさ。ロンダリオさんたちも若い頃はいろいろやったってしな。何事も経験だ」


 若い頃の経験は将来なにかと役立つものだ──って、なんか年寄り臭いな、オレ。まだ三十一歳なんだから若いヤツに説教たれるなんておこがましいわ。


 出発準備を手伝ってもらったら五人を食堂に連れていき、好きなものを食わせた。


 若いっていいよな。こんなにモリモリ食えるんだから。この世界にきてなかったら下っ腹が大変なことになっていただろうよ。


「銃の弾はあるか?」


 こいつらにはグロック17をくれてやったはずだ。


「はい。弾は常に揃えておけって言われましたから」


「もう銃の戦い方に慣れて弾代に消えてます」


 ほんと、若いっていいよな。飲み込みが早いから。このくらいの歳から使っていると戦いも洗練されていくんだろうな~。


「それならオレのお古を渡すよ。誰かアサルトライフルを使いたいヤツいるか?」


「──はい! あたしが使いたいです!」


 と、リョウナが真っ先に手を挙げた。確か弓を使っていた子だったな。


「じゃあ、リョウナにやるよ」


 ホームに戻ってステアーAUGとチェストリグ、マガジン四つ、弾を二百発くらい持ってきた。


「弾はこちらで用意してやるからオレといる間に慣れるといい」


「こんなにいいんですか?」


「構わんよ。試しに買ったヤツだからな。遠慮なく使い潰していい」


 どうもAUGは体に合わなかった。捨てるのもなんだし、リョウナが使ってくれるなら無駄にはならんだろう。


「ありがとうございます! 大事にします!」


「銃は消耗品だ。使えなくなったら捨てていいよ」


 AUG、中古品だしな。大事に使う必要はないさ。

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