第866話 能ある鷹は爪を隠す
なんだか脱線してばかりだが、これも生存圏を築くために必要なこと。ゴブリンは請負員が駆除してくれているのだから目の前のことを一つ一つ片付けていくとしよう。
マナック補給員がいたお陰でコラウスには二時間くらいで到着できた。
「もっと速度が欲しいですね」
「やれないこともないが、魔力消費が激しくなるだけだ」
「航続距離も延ばせないですか?」
「昔はそんなに飛ぶこともなかったからな。と言うか、ルースカルガンだって必要としなかった。あの二艇も起きたときように同盟都市から極秘に手に入れたものだ。改造するにはマイセンズが動かないと無理だろうな」
マイセンズかー。オレが生きている間に復活させるのは無理だろうとエレルダスさんが言っていたそうだ。そうなると改造は無理ってことか……。
「楽を覚えるとさらなる楽を求める。ほんと、人間とは愚かな生き物ですね」
「そうだな。欲に溺れないようにしないとな」
この世界にきた頃を考えたら遥かに楽になっているんだ、これ以上望むことは贅沢ってものだろう。魔力だけは無限に手に入れられたんだ、あるものを活かして寿命で死んでやるさ。
職員を呼んで発泡スチロールを降ろしてもらった。
「ん? あれ? 職員、増えたか?」
三十代が多かったのに、十代後半の男女がセフティーブレットの制服を着ていた。
「はい。人員が足りないので二十人ほど雇い入れたした。今は見習いとして働かせています」
職員に訊いたらそんな答えが返ってきた。
「よくいたな。人手不足だろうに」
今のコラウスは好景気になっていて人材の確保は加熱している。そこで二十人も確保できるって凄くね?
「館長が伝手を使って集めました」
「シエイラが?」
「はい。館長は顔が広いですからね。コラウス中に伝手を持っているんですよ」
そ、そうなんだ。もしかして、シエイラって冒険者ギルドの裏マスターだった?
「……オレ、とんでもないヤツを受け入れちゃった……?」
いや、シエイラがとんでもなく凄いのはわかっていたが、とんでもない方向がオレの理解する方向じゃなかったようだ……。
「館長よりマスターのほうがとんでもなかっただけですよ。まあ、自然の流れだったと思いますよ、館長を受け入れたのは」
「そ、そうか?」
「そこは自分で考えてください。館長が怖いので」
このルイスも冒険者ギルドの本部にいた者。年齢もシエイラより上だからいろいろ知ってそうだ。
それ以上追及するのは藪蛇っぽいので流しておくことにする。
「ロンレアの支部町に巨人のダン。副支部長にミジックにする。通達を出しておいてくれ」
「わかりました。また職員を募集しないといけませんね」
「そうだな。あまり広がると纏めるのが大変になるのが問題だよな。ゴブリン駆除の報酬を分配するのも厳しくなっているし」
ゴブリンがいなくなってくれるのはありがたいが、職員を稼がせることが難しくなっている。
「まあ、ゴブリンなんて半年も放置していたらすく増えますよ。ゴブリンの被害は昔からありましたからね。急激に増えたのも魔王軍が原因です。それに、職員はゴブリンの報酬がなくとも満足ですよ。セフティーブレットは待遇は貴族以上ですからね。わたしは、ゴブリン駆除の報酬がなくなっても辞めませんよ。セフティーブレットに入れたお陰で家庭も持てましたからね」
「結婚したんだ?」
冒険者ギルドから引き抜いたのは独身者が九割だ。妻帯者でも子供が成人した者だったはずだ。
「はい。若い嫁をもらいました。十九歳です」
「ルイス、三十五歳だったよな?」
なにそれ? 犯罪はダメだよ。
「はい。嫁をもらうなど夢のまた夢だと思ってましたが、セフティーブレットに入れたお陰で大店の娘をもらえました」
「……そういう職員って多いのか……?」
「コラウスに残った職員はあちらこちらから声がかかっていますね。支部の者には声を出さないようにしています。コラウスだけで独占したら恨みを買いますからね」
なんだか商人の間で協定が結ばれている感じだな。
「まあ、商人がこちらの味方になってくれるのなら構わないか」
オレが利用されているのか商人を利用しているのか、それは細かいことだ。ウィンウィンの関係が結ばれているならいい関係になっているってことなんだからな。
「そういう考えができるから商人たちもマスターと仲良くしておきたいと思うのでしょうね」
「数百年先まで権力、金、人材を支配した者が勝者だ。コラウスが中心となりロンレアまで掌握できたら王国が敵になろうと怖くはない。商人たちにはこれからもがんばって欲しいものだ」
商人が職員たちを抱え込もうとオレは否定するつもりはない。ズブズブの関係になるなら手を引くこともできなくなるだろう。オレは切るべきときは恨まれようと切る。守るべきものがあるんだからな。
「ふふ。商人たちには伝えておきますよ。機を見るのに聡い人たちですからね」
「出世がしたいときは言えよ。王都にも足がかりは必要だからな」
「おれは辞めておきます。ここでの暮らしが気に入ったますからね。王都に足がかりを作るならおれから商人たちに伝えておきますよ」
ルイスは冒険者ギルドでは閑職にいた男だ。だが、こういう男は能ある鷹は爪を隠すってタイプが多い。そう思って許可を出したあのときのオレ、グッジョブ。
「うん。お前はそれでいい。表に出るような日がこないことを切に願うよ」
「わたしも表に出る日がこないようがんばってみますよ」
情けなく笑うが、その目は鷹のように鋭かった。
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