第865話 海の魚

「……どんだけだよ……」


 一対千だったにも関わらず、僅か五分で一対五百くらいになってしまった。


 マルデガルさんの猛攻はそこから本番とばかりにバールを振り、姿を消してしまった。え?


 どこに消えた? と思ったらゴブリンの気配が十匹単位で消え始めた。


 その状況を受け止めるまでに百匹くらいの気配が消えてしまった。チートタイムほどでもないのにチートタイム以上の戦果を出している。これが技術や経験の差か……。


 わかっていてもこうして目の当たりにすると何度でも痛感させられるよ。


「あ、ミジャーの粉を撒かないと!」


 さすがのゴブリンもマルデガルさんの狂気に触れたようで、狂乱化が解けそうになっていた。


 一番集まっている上空に飛び、アポートウォッチでミジャーの粉(麻袋)を取り寄せた。


 そのまま自由落下で落ちていくのをプリジックで撃ち抜いてやった。


 粉が降り下ろされ、風に乗って広範囲に広がっていった。


 さらに取り寄せてプリジックで撃ってミジャーの粉を降らせて回った。


 運んできたものをすべて降らせ、とりあえずその場から撤退。降らしたところができる山まで向かい、頂上に降りたらマナックを補給。様子を見守った。


 三時間くらい過ぎ、一向に変化がないから昼にでもしようと思っていたら遠くからゴブリンの気配を感じ取った。


「あんな遠くからミジャーの臭いがわかるのか? ゴブリンの嗅覚、どんだけだよ?」


 嗅覚が鋭いのはわかっていたが、十キロ先からめ嗅ぎ取れんのかよ。それともここに住むゴブリンの特性か?


「まあ、とりあえずマルデガルさんに知らせるか」


 ホームからロケット花火と空瓶を持ってきて打ち上げた。


「──アツコよりタカトへ。聞こえますか?」


 伝わったかな? と思っていたらアツコからの通信が入った。え? そんなことできたの?


 いや、イチゴができるんだからアツコもできるか。そこで頭が回らなかったよ。


「こちらタカト。ゴブリンが集まってきている。数は二千から三千だと思われる。約二時間後にはこの周辺までやってくると思われる。マルデガルさんに伝えてくれ」


「ラー」


 アツコもラーって答えるんだな。


「マスターより伝言。手出し無用とのことです」


「了解。こちらはコルトルスに戻る。武運を祈ると伝えてくれ」


「ラー。マスターに伝えます」

 

 とりあえずホームに入り、昼飯をいただいて戦闘強化服を脱いで通常装備に着替えた。


 そう急ぐこともないのでガレージでのんびりコーヒーを飲んでいると、ラダリオンが入ってきた。


「ご苦労様。出港か?」


「うん。アルズライズが食料を運んで欲しいって」


「了解。リヤカーに積み込むよ」


 アレクライトに厨房はないが、なぜか冷蔵庫はあったりする。かなり大きいものを入れていたみたいで、十畳くらいの広さがあるのだ。


 加工食品や飲み物、野菜なんかを買ってリヤカーに積み込んだ。


「パンはラダリオンのアイテムバッグに入れておいてくれ」


 アイテムバッグに入れていても十五日後には消えてしまうが、入れていれば腐ることはない。満杯にすれば島に着くまで持つだろうよ。


「エルガゴラさんにアイテムボックスを作ってもらわないとな」


 てか、エルガゴラさん、どこだ? 都市国家だっけ?


 あの人も自由で、実力があるからどこにでも移動できる。満足できる報酬を得たらガーゲーに戻ってそうな気がする。基本、引きこもりな人だからな。


 三回ほど運び出したらオレも出してもらった。


 アルズライズはルースブラックで荷物を運んでいるようで姿はなく、ダンとモニスが膝のところまで海に入り、投網で漁をしていた。


「魚、捕まえられているのか?」


「結構捕まえている。昨日は魚を調理したって」


 巨人にしたら小アジサイズだろうが、結構捕まえているなら腹一杯は食べられているだろう。


「コラウスにも運んでやるか」


 館の料理人なら上手く捌いて出してくれるだろうからな。


 ダンとモニスが投網を引いて戻ってきたので、どんな魚かを見せてもらった。


「結構な種類の魚がいるんだな」


 一メートルくらいの魚から五センチくらいの魚まで多種多様だ。


「クラゲとかいないんだな」


 プロプナスがいたからクラゲもいるんだろうと思ってたが、この世界の海ではそうではないのだろうか? イカやタコみたいなのもいないな。


 海兵隊員やコルトルスの漁師が集まっていたので、発泡スチロールを買ってきて食べられる魚を入れてもらった。


 氷を入れたら蓋をしてリヤカーに積んでもらった。


「あ、館に誰もいなかったっけ」


 雷牙は前線基地だし、ミリエルはアシッカだ。ここには、オレ、ラダリオン、ミサロがいる。シエイラに運び出せる量じゃねーや。


 どうしたものかと悩んでいると、ルースブラックがやってきて、ラオルスさんが降りてきた。


「タカト。悪いが、コラウスまで運んでくれるか? 仲間の様子を見にいきたいんだよ」


 渡りに船、ってことでルースブラックで運ぶことにした。一号艇は少し遅れてやってきました。


 発泡スチロールをルースブラックに積み込んでもらった。


「ダン、モニス。悪いが、もう少し待っててくれ」


「構わないよ。漁が楽しいからな」


「お前には支部長になってもらうんだから漁師に心を奪われないでくれよ」


 なんて冗談を言い、ルースブラックに乗り込んでコラウスに向けて離陸した。

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