第863話 改名アレクライト

 暗くなる前にコルトルスに到着できた。


 ダンはとっくに着いており、浜辺にタープを設置して休んでいた。


「モニス。降りたら早めにテントを設置しろ。料理を運んでくるから」


 ルースブラックを発着場に降ろした。


「オレたちは荷物を届けてくる。明日までゆっくりしておいてくれ」


 料理を運んできたら腕輪で巨大化してもらい、終われば腕輪を返してもらった。


 すぐにルースブラックに乗り込んで海兵隊員たちがいる場所に飛んだ。


「マルデガルさん。この粉を撒けばゴブリンが集まってきます。今は……三百匹くらいですかね? 一晩待てば千匹くらいは集まってくるんじゃないですかね?」


 オレたちが暴れたせいで逃げ出したんだろう。撒いても集まってくるまで時間がかかるんじゃないか?


「それはいいな。今は千匹でも欲しいところだ。セフティーホームで暮らすにもゴブリンが必要だからな」


 維持にもゴブリンが必要なんかい。ダメ女神、容赦ねーな。オレより過酷じゃねーか。


「じゃあ、山にでも撒いてください。ここだとオレらも参加しなくちゃならないですからね」


 オレも稼ぎたいところだが、マルデガルさんも活躍してくれないとオレの苦労が増すだけ。オレの負担を減らすためにもマルデガルさんには稼いでもらうとしよう。


「悪いな」


「構いませんよ。まずは五袋くらい撒いてみてください。集まってきたら狂乱化させるために空から撒いてやりますんで」


 集まってしまえばこちらのもの。逃げないためにも狂乱化させたほうがいいだろうよ。


 袋を担いでセフティーホームに入り、出てくると山に向かっていった。


 木々の間に消えるまで見送り、アルズライズたちに振り返った。


「ご苦労さん。遅れて悪かったな」


「構わんよ。こちらは大して忙しくなかったからな。で、これからどうするんだ?」


「ガーグルスを捕まえるよ。まだいると女神が言っていたからな。運ぶのはダンに任せるよ」


「生け捕りにするならミリエルがいたほうがいいんじゃないか?」


「大丈夫だよ。モニスも連れてきたから。ラダリオンと二人ならな。アルズライズは海兵隊員にナイフでの戦い方を教えてくれ。竜人がどんな強さか知らんが、最後は肉体勝負だろうからな。心臓に止めを刺せるくらいにしてやってくれ」


 オレも教わりたいところだが、やるべきことがありすぎて自練することもできないよ。まあ、あっても休んじゃうんだけど!


「今日は休息日だ。酒を飲むのも許す。料理も運んでくる。オレが見張るからぶっ倒れるまで飲んでいいぞ」


 周りに大きい熱源はない。ゴブリンが何十匹かいるくらいだ。ミジャーの粉を撒けばあちらに移動するだろうよ。


 ホームからワインやホテルのビュッフェを買ってきた。


「アルズライズも飲んでいいんだぞ」


 食い物には手を伸ばしたが、酒には伸ばさなかった。どうした?


「二時までおれが見張る。お前は休んでこい」


「お前、がんばりすぎてないか?」


 がんばっているってより責任感で動いている感じか?


「それはお前だろう。いいから休んでこい」


 言っても無駄とため息を吐き、ありがたく休ませてもらうことにした。


 明日のこともあるのですぐにホームに入り、シャワーを浴びて夕飯を食べたらすぐに眠りについた。


 午前一時にミサロに起こしてもらい、戦闘強化服に着替えた。見張りにはこっちのほうがいいんだよ。センサーの感度がいいんでな。


「お待たせ。休んでいいぞ」


 ルースブラックの上で見張っていたアルズライズに声をかけた。


「なあ、クーズルースの船長になっていいか?」


「構わんよ」


 なにか言い難そうにしてたからなんだと思っていたらそんなことかよ。


「……お前はいつも即答だよな……」


「そうか? 重要なときはじっくり考えてから答えているぞ」


「そんな簡単に許していいのか?」


「いずれ誰かに船長を任せようとしてたからな、アルズライズがやってくれるのなら助かるよ。いつまでもライズさんやラオルスさんにやらせておくわけにはいかないからな」


 あの二人は借りている立場だ。いずれエレルダスさんに返す必要がある。そのとき、船長を誰にするか考えていたんだよな。


「船長をやるならマルーバたち獣人も面倒見てくれな。あいつら、何気に乗り物を乗りこなせる才能があるからな」


「あの船は何人で動かせるんだ?」


「やろうと思えば一人でも動かせれるが、四人はいたほうがいいな。二十四時間動かそうとしたら四チームは欲しいな。マルーバたちにやらせようとは考えていたよ」


「四人で四チームか。少ないんだな」


「この世界の船って何人で動かすんだ?」


「船の大きさにもよるが大型船なら最低でも三十人は欲しいところだな」


 それだと外洋には出れないな。まあ、大型魔物がいる海に出れる船なんてないだろうがな。その技術もないようだし。

 

「結構たくさんの人で動かすんだな。てか、アルズライズは船に乗ったことはあるのか?」


「小さな舟ならな。船に乗るのは息子の夢だったんだ」


「確か、アレクライト、だっけ?」


「ああ。海の英雄からもらった」


「じゃあ、お前が船長になったらアレクライトに改名するか。変えたところで文句を言うヤツはいないんだしな」


 船名を登録する決まりもなし。なら、改名したって問題はないさ。


「……お前のそういうところが卑怯だよ……」


「そうか? そりゃ悪かったな」


 ワインを取り寄せ、アルズライズに渡してやった。

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