第861話 三大魔女

 金髪エルフさん──ルシフェルさんは銀印の冒険者で、マルデガルさんとは昔からの一緒に依頼をこなす仲だそうだ。


「ミシニーとも仕事をしたことあるわ」


 しゃべり方や態度からしてミシニーより遥か下って感じだ。それ以上は危険なので考察したりしないけど。


「よくゴブリン駆除なんて仕事をやろうと思いましたよね」


「美味しいお酒が飲めるからね」


 あんたもかい! エルフはどんだけ酒好きなんだよ! 


「まあ、それだけでもないわ。快適なセフティーホームに住めるならゴブリン駆除も嫌ではないわ」


「こいつは綺麗好きだからな。それで依頼を選り好みしていつも金欠さ。金印にもなれる強さをしてるんだがな」


 うん。それだけ長生きしているってことか。コラウス、強者が集まりすぎ!


「強くてもお金があっても汚いのは嫌よ。わたしは、綺麗な家で綺麗に暮らしたいわ」


 潔癖症か? ルースブラックのガードバーを素手で握ってはいるが?


「掃除はできるんですか?」


「借りていた部屋は毎日していたわ。セフティーホームもわたしが毎日しているわね」


「おれとしては少し散らかっているくらいが過ごしやすいんだけどな」


 それなら仲間にしなければよかったのに。ってことが顔に出たんだろう。


「こいつにはたくさん貸しがあるのよ。初めての仕事のときは付き合ってあげたしね」


 完全に子供扱いだな。マルデガルさんとしてはやり難くかろうよ。


「ハァー。とんだヤツに声をかけちまったもんだよ」


「それならセフティーブレットで働きますか? 綺麗な家に住み、酒に困らない生活を送るなら別にマルデガルさんと行動をともにする必要はないでしょうしょうしね。ちなみに酒は食堂でも飲めますよ」


「それはいいわね。わたし、冒険ってあまり好きじゃないのよね」


 よくそれで生きてこれたな。てか、なんで冒険者になったんだ、この人は?


「でも、なにをすればいいの? 受付?」


「副館長としてシエイラを支えてもらえますか? シエイラを休ませたいので」


「随分と待遇がいいわね。他の職員に文句言われない?」


「言うヤツなんているかよ。灼熱の魔女なんかに」


「灼熱の魔女?」


「コラウスには三大魔女ってのがいてな、ルシフェルはその一人だ。死滅の魔女はミシニーで、最後のはうちのばーちゃんだよ」


「ライザさんが!?」


 どう見ても良家のご婦人って感じだったけど!?


「あれでも現役時代は鮮血の魔女と呼ばれていたよ」


 まったく想像がつかない。鮮血ってなによ?


「あ、あの人も駆除員の子孫でしたね……」


「ライザは強かったわよ。今のマルデガルでも勝てないくらいにね。人間にしておくのはもったいないわ」


「ばーちゃんは今でも強いよ。山黒くらいなら瞬殺できるだろうよ」


 なんだ、そのチートは? 駆除員の血ってどうなってんだよ? 人間じゃないものを造り出そうとしてんのか、あのダメ女神は?


「そんなにでしたか。まったく見抜けませんでした」


「見抜けないのも仕方がないさ。それだけばーちゃんは強いんだからな」


 ま、まあ、ミシニーやルシフェルさんを見抜けてないんだからオレの目もまだまだってことなんだろう。いや、三人の強さの次元が違うってことか。


「わたしは、他の二人ほど強くないわ。銀印だしね」


「よく言うよ。それは仕事を選り好みしているからだろう。三日を越える仕事は受けないんだから」


「水浴びは三日に一回やらないと気持ち悪いんだから仕方がないじゃない」


 この時代、五日に一回水浴びをすれば綺麗好きなほうらしい。


 ……人が出せる臭いじゃなかったっけ……。


「館にはいつでも入れる風呂がありますよ。蒸し風呂もあるはずです」


 オレはサウナは好きじゃないが、ここの人は風呂より蒸し風呂のほうが好まれている。作ってあるとは聞いているよ。


「なにそれ、貴族の家じゃない」


「貴族以上だと思います。風呂上がりには冷えた酒が飲めますから」


 まあ、酒は有料だけど。


「うん。副館長でもなんでもやるわ! いえ、やらせてちょうだい!」


 視界の隅でマルデガルさんがホッとしている。これは相当ストレスになっていたようだ……。


「ありがとうございます。館を守る人が欲しかったんですよ」


「任せなさい。そんないいところ潰せたりはしないわ」


 それは頼もしい限りだ。


「じゃあ、アシッカで降ろします。マンダリンがあるのでアツコに送ってもらってください」


 アツコはマイセンズ系のアルセラ。なら、マンダリンを操縦できるはずだ。ルースブラックにマナックを補充しているしな。


 降りることなくアシッカに到着。アシッカに置いてあるマンダリンでルシフェルさんがコラウスへと戻っていった。


「助かったよ。あいつがきてから落ち着く暇がなかったからな」


「一人よりいいのでは?」


「あいつがいるくらいなら一人のほうがいいよ。おれは元々誰かとつるむのは苦手だからな」


「それで仲間が欲しいんですか?」


 五人もいたら面倒では?


「なに、若い嫁さんもらって気ままにゴブリン駆除をやるさ」


「嫁とか欲しがる人だったんですね」


 そんな人には見えないんだが。


「なに、そんな暮らしもしてみたかっただけさ」


 四十年も生きると思うこともあるんだろうと、それ以上訊くことはしなかった。

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