第860話 常識人

 うん、まあ、ダメ女神が許すわけないか。ハァー。


「コラウスでは稼げないようだから他にいきたいんだよ。どこかいいところに連れてってくれ」


 魔境にゴブリンの女帝がいるが、そっちにいっても仲間を募ることもできない。都市国家はロンダリオさんたちがいる。ロンレアやアシッカは請負員が。となればコルトルスに連れていくしかないか。


 となれば、海兵隊員は海に連れていくか。あいつらは竜人に復讐したいヤツら。無理にゴブリンを駆除させる必要はないか。


「今のところゴブリンが溢れたところはないので、オレがまだいったところがない場所をお願いしますよ。仲間を募る必要もあるでしょうからね。と言うか、あの狭いセフティーホームに五人も入るんですか?」


 八畳くらいしかなかったんじゃね?


「女神に広くしてくれとお願いしたよ。今は五人が入っても余裕だ」


 どんなものかとデジカメに撮ってきてもらうと、二十畳くらいある広さになっていた。


 ……あのダメ女神、マルデガルさんに優しくね……?


「部屋はないんですね」


「あとはゴブリンを駆除した数で拡張しろだとよ」


 うん。全然優しくなかったですね。ゴブリンで拡張とか、ハードモードすぎんだろう。仲間を増やすのに五万匹とか必要なのによ……。


「てことは、報酬はもらえないってことですか」


「ああ。悪いが、食料や酒を売ってくれ」


 なんの拷問なんだか。過酷すぎないか?


「まあ、食料は買えばいいだけさ。おれはこの世界で四十年も生きてんだ、贅沢なんてたまにするくらいがちょうどいいんだよ」


 さすがこの世界に生まれ、生きてきた人の言葉は含蓄がある。


「わかりました。エルフの遺産もあるのでそれもわたしますよ」


「ほどほどで構わないぞ。広くなったとは言え、そこまで収納できるわけじゃないからな」


「それならアイテムバッグを渡しておきますよ。駆除員の子孫で付与魔法を使える人と出会いましたから」


「駆除員の子孫か。意外といるものなんだな」


「そうですね。この辺にいるゴブリンを根絶やしにするために連続で送り込んだみたいですよ」


「……なんかいるのか……?」


 さすが金印の冒険者。オレの言葉に違和感を覚えたようだ。


「魔境にはゴブリンの女帝がいるようです」


「……誰も倒せなかったのか?」


「もしかしたらいたのかも知れませんね。昔、国を一つ滅ぼした駆除員がいましたからね。女帝を殺すためのものだったかもしれませんよ」


「国一つか。イカれたヤツがいたものだ。タカトはやらんでくれよ」


 オレ、イカれた野郎だと思われている? オレ、誰よりも常識人だよ?


「やりませんよ。オレはダメなら逃げますし」


「それでいい。勝てないなら勝てる算段を取る。ダメなら逃げる。己の命を犠牲にしたりするなよ」


 本当に含蓄がある人だよ。飄々としていても生き死にを誰よりも見てきたんだろう。この人は大丈夫だなと思えるぜ。


「酒はなににします?」


「とりあえず、これで買えるだけ売ってくれ」


 と、金貨を十枚渡してきた。


「こんな大金じゃなくてもいいですよ」


 返そうとしたら断られてしまった。


「いや、やるよ。ゴブリンを譲ってもらったからな。そちらも人が増えて金が必要だろう。それに使え。おれはこの百倍は資産があるからな」


 金印ってどんだけ儲けれんだ? アルズライズ……も、かなりの金を持っていたな。使い道もないからと冒険者ギルドに預けているそうだ。


「わかりました。酒の他に必要なものはありますか?」


「生活必需品を頼むよ。そういったものはすぐなくなるんでな。請負員から買っていたよ」


「それならこれを渡しておきますよ。請負員にして生活必需品を買ってください」


 請負員カードを三十枚くらい発行して渡した。


「一年は消えないので見所のあるヤツを請負員にしてください」


「なるほど。買い物要員か。それはいいな」


 駆除員にできる数は限界がある。なら、請負員を増やしてちょっとずつ買えばお互いに不利になることはないだろうよ。


「もっと欲しいときは近くの支部に言ってください。と言っても人手不足で支部はそんなに増やせませんけどね」


「冒険者をやっていれば不便なことは日常茶飯事だ。必要なら帰ってくるよ」


 やはりこの世界の人だよな。オレだったら不便に気が狂いそうになるよ。


 ホームに入り、酒や生活必需品を出してきて、必要なものをセフティーホームに運んでもらった。


「駆除員を増やしたら誰か一人コラウスに残すのもいいかもしれませんね。魔王と戦う方はそうしてますから」


「魔王か。いるとは聞いてたが、タカトの口から聞くとこの世界が心配になってくるな」


「まあ、山崎さんなら大丈夫でしょう。オレと違ってチートみたいな能力を持ってますから」


 仲間にも恵まれているし、オレも可能な限り支援をしている。克つのは難しくても負けることはないだろう。


「お前らの世界、どうなってんだ? バケモノばかりかよ」


「オレは普通ですよ」


「お前が普通ならよけいにお前らの世界が怖いよ」


 うーん。この時代からしたら確かに怖い世界かもな。五百年先はいっているんだからな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る