第859話 鉄の鉱山

 朝になったらすぐに外に出た。


「マスター、おはようございます」


 マリーダがルースブラックの前に立っていた。


「おはようさん。なにかあったか?」


「ミヤマランの商人が乗せていって欲しいそうです。荷物も」


 その商人は領主代理と話し合いがしたいそうだ。


「構わないと伝えてくれ」


 と、やってきたのは五十前後くらいの男性で、名はミズイック・ルクスルと言い、貿易商とのことだった。


「貿易?」


 貿易って、違う国と商売することだよな? 内陸部のミヤマランの商人が他国と商売することなんてあるのか? それともこの世界では意味が違うのか?


「疑問に思うのは当然です。我が商会はミヤマランの商人でありますが、店は王都で店を構えております。マガルスク王国と商売しておりました」


 マガルスク王国? あ、ドワーフたちがいた国か。あんな国とよく商売しているな。悪いことしか聞かなかったぞ。


「なにを貿易していたんです?」


「マガルスク王国は鉄が取れます」


 あー。鉱山とは言ってたが、鉄だったんだ。イメージ的に石炭だと思ってたよ。


「その鉄を貿易している商会がなぜコラウスに?」


「コラウスでも鉄が採れます。マガルスク王国から入ってこない以上、別のところから仕入れるしかありません」


 あ、あったな、鉱山。マルスの町に。でも、石炭じゃなかったけ? 鉄が採れるとか聞いたことないぞ?


「コラウス、採れるのは石炭ではなかったでしたっけ?」


「石炭の他に鉄も採れますよ。コレールの町の近くで。ただ、人が集められなくて地領に流れることはありませんが」


 言われてみればコレールの町で煙が上がっているの見たことあるな。巨人の町にも鉄を打つ工房があったっけ。


 ……やたら鉄製の武器が売ってのもそのせいか……?


「領主代理ではなく、領主に話をしなかったんですか?」


「あの方はダメです」


 なんともはっきり言っちゃう人だ。だが、それだけの領主ってことだろう。カインゼルさんを首にするくらいのアホだから。


「鉄の採掘は周辺の自然を壊します。コラウスに害を為すような掘り方をするなら協力はできませんよ」


「詳しいのですね?」


「オレの世界ではそれで滅んだ村や町が万を超えますからね。百年先まで害を及ぼすようなことはさせませんよ」


 この人は悪い商人ではないっぽいが、その後ろに誰がいるかわからない。害を及ぼすような商会なら潰させてもらいます。


「どこまで約束できるかわかりませんが、コラウスに迷惑をかけるなと公爵様から厳命されております。それと、タカトさんとは絶対に敵対するなとも厳命されています」


「公爵様が一番敵対したらダメな人なんですがね」


「わたしどもからしたら公爵様もタカトさんも同じです。あのヒャッカスと戦い、潰した方ですからね」


「やはり有名な組織なんですね」


 この国には厄介な組織多すぎないか? オレはゴブリンを駆除したいだけなのに。


「謎に包まれながら有名である恐ろしい組織です。狙われて生き残った者はいません。ましてや公爵様ですら壊滅できなかった支部をあなたは壊滅させた。商会が敵対しろと命令されたら寝返らせてもらいます」


 この人、なかなかの猛者だな。このくらい胆が座ってないと交渉役は任せられないんだろうな~。


「わかりました。コラウスに連れていきます。領主代理も敵対したくない人なので注意してください」


 一、二を争うくらい敵対したくない人だ。舐めてかかると痛い目に合うぞ。


「はい。心に刻んでおきます」


「では、荷物を運び入れてください」


 同行者に目配せすると、すぐに荷物を運び入れた。


 積み込まれた荷物はかなりの量だが、今のコラウスだと食料も持っていったほうがいいんじゃなかろうか? コラウスがミジャーに襲われたこと知らんのか?


 まあ、それはミズイックの力量に任せるとしよう。決めるのは領主代理だしな。あの人なら正しく判断してくれるだろう。


 荷物を固定し、ミズイックさん以下五人には床に座ってもらって出発した。


 コラウスまでは約百五十キロ。空荷ならルースブラックでもギリギリ飛べる距離だが、荷物を積んでいるので途中で降りて補充。一時間もしないでコラウスに到着した。


 ……長距離を一人で飛ばすのは面倒だよ。マナックの自動補給とかできんものかね……?


「コラウスに伝手はあるんですか?」


「関係ある商会に頼ろうと思います」


「それまでセフティーブレットで世話をしますよ」


 荷物降ろしは同行者に任せ、ミズイックさんを連れて館に入った。


「シエイラ。少しいいか?」


 今日は出かける用もないので館で仕事をしているシエイラにミズイックさんを紹介。空いている長屋に案内してもらった。


 オレはミジャーを真空パックした麻袋をルースブラックに積み込んだ。


 一汗かいたのでホームに入り、シャワーを浴びて外に出ると、マルデガルさんとアツコ(イチゴとは違うタイプのアルセラね)、そして、金髪のエルフがいた。


「お久しぶりです。稼げたようですね」


 金髪のエルフはマルデガルさんの仲間だろう。なら、セフティーホームに入れるはず。一万匹だっけ? いや、二万匹だっけ? どうだったっけ? まあ、かなりの数を駆除したんだろうよ。


「ああ。女神の温情で五人までは仲間にできるようにしてもらった。あとは、五万匹を倒したら一人増やせるよ」


 ダメ女神と交渉するとかスゲーな。オレもがんばればダメ女神と絶縁できるかな? 

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