第856話 名犬再び
とんだ重労働になってしまった。
八人でやるにはガーグルスはデカすぎた。血抜きした小さいのは簡単に切り落としてホームに運び、ミサロに捌いてもらってコルトルスに運んでもらうことにした。
「なんの肉ですか?」
運び込んでいるとミリエルも入ってきた。
「ガーグルスってデカい鳥だよ。ミリエルも運び出していいぞ。てか、今どこだ?」
「アシッカです。今は城にいます」
「そうか。伯爵の奥さん、妊娠してたな」
「もう産まれてますよ。回復薬小を飲ませておいて助かりました」
あー。そういやそんなことあったな。ミリエル、ナイスじゃん。
「回復薬の効果を一番知っているのはわたしですからね。過剰回復はよくありませんからね、よほどの大怪我や大病でもなければ徐々に回復させたほうが体に負担はかかりません」
そ、そうなんだ。オレ、そんなこと全然考えもしなかったよ。
「妊婦以外なら回復薬大でも問題ありません。そこまで慎重になる必要はないかと思いますよ」
「そ、そうだな。妊婦はなるべくミリエルにお願いするよ」
オレには荷が重い。そこまでの知識もないしな。
「はい。じゃあ、肉はもらっていきますね。皆、魚ばかりで肉に飢えてますから」
「魚を生で食いたいときはホームに入れるといいぞ。寄生虫は入れないからな」
「生で食べる人はいませんよ。海のほうで暮らす人は危険だと身に染みてわかっていますからね。わたしもタブレットで買った魚以外は生で食べたりしません」
文化の違いか。まあ、オレもこの世界のもの、あんまり食わんしな。特に肉は。なにを食っているかわからん魔物を食うの怖いよ。
「肉はたくさんあるからどんどん持ってってくれ。まだ四分の一も運び込んでいないからな」
アルズライズのほうはまだ手付かずだ。こういうときニャーダ族がいてくれたらと思うよ。
「わかりました。皆も喜ぶと思います」
リヤカーに積んだ肉はそのままミリエルが引いて外に出ていった。
「ラダリオンにきてもらうか」
さすがにこのままでは肉が腐敗してしまう。一応、巨人になれる指輪をアルズライズに渡して血抜きをしてもらっているが、まだまだ時間がかかりそうだ。ラダリオンの手を借りるとしよう。
何度か運び入れていると、雷牙が入ってきた。
「あ、タカト。ゴブリンは見なくなったよ」
「それはご苦労さん。あとは片付けだけか?」
ゴブリンの報酬が入ってこないところをみると、マルデガルさんが活躍したようだな。マナ・イーターを持っているからバデッ卜化はしないだろう。あ、こっちもやらなくちゃならんかったわ!
「うん。巨人たちに集めてもらって埋めているところだよ」
「それなら場所を移ってくれるか? 雷牙にはビシャのところにいって欲しいんだよ」
「いいよ。もうやることないから。じーちゃんに言ってくる」
雷牙が出ていき、入れ替わるようにラダリオンが入ってきた。
「ラダリオン」
「トイレ」
あ、うん。それはごめんなさい。
そのまま中央ルームに入っていくのを見送り、今のうちに外に出て肉を運び込んだ。
「あ、タカト。じーちゃんに言ってきたよ」
「カインゼルさん、なにか言ってたか?」
「二十日もしたら館に戻るってさ」
まだ先か。それならもうしばらく海兵隊員の訓練をできるな。
ラダリオンがトイレから戻ってきたら雷牙をダストシュートしてもらい、また入ってきてもらった。
「ビシャ、いなかったよ」
「ラダリオン、今どこだ?」
「前線基地。ミジャーの粉を撒いたらゴブリンが集まり出した」
そっちに移ったのか。
「悪いが雷牙と交代してくれ。構わないか?」
「大丈夫。あたしは見てるだけだから」
マーダたちが稼いでんのかな?
「じゃあ、雷牙と交代な。雷牙。この肉を外に出して皆に食わせてくれ。もうちょい熟成させたら食えるから」
「わかった」
なんだかちょっと背が伸びたような雷牙が、五十キロはありそうな肉塊を抱えて外に出ていった。
「ラダリオン。ダストシュートするな。あ、武器は置いていっていいぞ。解体して欲しいからな」
「わかった。任せて」
ガーグルスが食えると判断したのだろう。やる気が顔に出た。
ラダリオンをダストシュートさせ、十秒後に出た。
「アルズライズたちが倒したガーグルスはこの方向、約三キロのところだ」
ラダリオンは方向感覚も嗅覚も名犬級。おおよその方向さえわかれば辿り着けるヤツである。
「生きてるヤツいる」
「ガーグルスか?」
「うん。二匹はいる」
プランデットで探すが、それらしき反応はない。だが、ラダリオンがいると言うならいるのだろう。魔力反応で探したら二時方向、約八百メートルのところに二つの反応があった。
「生け捕りしてくれ。巨人の家畜としよう」
飼い慣らせるはわからんが、ガーグルスは最大でも四メートルくらい。なら、巨人の腰くらいしかない。そう脅威にはならんだろう。
見た目は肉食だが、胃の中は草が入っていた。それなら試してみるのもいいだろう。
「わかった。死んだらごめん」
「そのときはそのときだ。無理なら殺してくれて構わないよ」
時間もない。ダメなら殺して肉にするだけさ。
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