第854話 所詮、素人は素人 *111000匹突破*

 七人を連れて少ない群れのほうに進んだ。


「プランデットの試験を行う。散会しろ」


 了解と七人が散会した。


 アルズライズに選ばれるだけはある。はいとすぐに動くんだからな。


「00から01へ。聞こえるか?」


「01。聞こえます」


 プランデットは装着者の魔力で動くが、すべての人間に動かせるだけの魔力があるとは限らない。海兵隊員でも動かせるだけの魔力保持者は数人しかいなかった。


 なので、オレの魔力を充填させ、通信だけに使うことにした。まあ、フル充填で三十分と持たないが、簡単な通信ならそれで充分。七人の気配はわかるのだからな。


 01から07まで確認。順調なのでそのまま向かった。


 途中で三十分の休憩を挟み、一キロ手前で集合する。


「ゴブリンは約五百。恐らく巣が作られているんだろう。お前たちは南から北に向かいながら目にしたゴブリンは駆除しろ。逃げたのは追う必要はない。熱中しすぎて仲間を撃ったりするなよ」


 さすがに人数分のプレートキャリアを買ってやることはできず、AK用マガジンのチェストリグを買え与えた。防御力なんてないに等しいので仲間撃ちをしないよう十二分に気をつけろよ。


「ゴブリンがいなくなったら警戒しながら集結してこの山の頂上に迎え。そこで合流しよう」


「マスターはどうするので?」


「オレは少し遅れてからお前たちを追う。オレも稼がないと弾が買えないからな」


 AKの弾は安いが、それでも二十二人分の弾となるとそれなりの出費になる。弾代は稼がせてもらうとしよう。


 EARとプリジックを装備し、戦闘強化服を着ているのでそう苦労はしないだろう。


「お前たちの気配は感じている。怪我をしたらすぐ援護に向かうからオレがいくまでは絶対に死ぬな」


 了解と頷く海兵隊員に敬礼で見送った。


 七人が三十メートル間隔で山を下りていき、二十分くらいして報酬が入ってきた。


 アルズライズのほうは人数が多いので、始めるのはもうちょいかかるだろう。


 ゴブリン駆除はこれが初めてだろうに、七人の気配に迷いはない。どちらかと言えば憎しみが混ざっている感じだ。


 オレはまだ大切な人を失った経験──いや、両親や友達なんかは失ったか。まあ、両親には宝くじが当たったし、社会人になって友達関係も希薄になった。仲のいい友達も自分たちの生活を送るのに精一杯でオレなんかすぐに忘れるだろう。


 両親には申し訳ないが、宝くじの金で豊かな老後を送れるだろうからそこまで気に病んでない。今の家族を失ったらどうなるかわからんが、死なせないための体制は整え、万が一オレが死んでしまったときの用意も整えつつある。


 だから海兵隊員の恨みは想像できても理解してやることはできない。ただ、その恨みを利用させてもらい、恨みを晴らしてやる手伝いをしてやるだけだ。


 銃声があちらこちらから聞こえてきてゴブリンが慌て始め、気配が乱れている。それでもオレに与えられた察知能力はゴブリンの位置を把握できていた。


「さて。オレも動くとするか」


 戦闘強化服のメルメットを取り寄せて装着。機能を起動させた。


 装着者の身体能力を約五倍まで高めてくれる。まあ、動くのは生身のオレなので、オレの性能が低いなら戦闘強化服の性能を百パーセント出し切ることはできないけどな!


「この力で山駆け下りるのこえー!」


 サポートする機能はないので自分でこの力をコントロールするしかない。って言ってる瞬間に転んでしまい、転がりながら落ちていき、木に激突してしまった。


 痛──くはないが、三半規管は無事ではない。なんだ、この優しくない戦闘強化服は? もっと中身を大切にした戦闘強化服を開発しやがれ!


「クソ。戦闘強化服を信じすぎた」


 いや、中身のオレを信用しすぎた。一年以上ゴブリン駆除に励んだからと言ってラ○ボーになれるわけじゃない。所詮、素人は素人。戦闘強化服を着たからってスーパーヒーローになれるわけじゃない。それを痛感したよ……。


「調子に乗らず、素人は素人なりにゴブリン駆除をやるしかないか」


 反省終了。初心に戻ってゴブリン駆除を開始した。


 察知能力は高性能なので、草木に隠れているゴブリンを撃ち殺していき、巣があったら手榴弾を取り寄せて巣穴に放り込んでやった。


 ──ピローン。


 お、もうか。順調でなによりだ。


 ──十一万一千匹突破! 順調順調大いに順調。残り約千二百匹だよ~! あと、ガーグルスがいるからご注意を。


 ガーグルス? なんやそれ?


 ──孝人さんの世界でいうならジャイアントモアですかね。結構しぶとい生物で二万年前から姿を変えていませんね。今生きているのはエルフが飼っていた生き残りでしょう。所謂絶滅危惧種ですね。殺すも生かすもご自由に。


 知的生命体以外の生き物にはどうでもいいってことかい。まあ、知ってたけど。


「動物愛護団体がいるわけでもなし。襲ってきたら殺すまでだ」


 薄情と言うなら勝手に言ってくれ。オレは自分の命と仲間たちの命のほうが大切だ。どちらかを選ばなくちゃならないのならガーグルスが死ね、だ。 

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