第852話 料理好き
農作業している人たちに挨拶し、ミサロの様子を尋ねたらやはり歓迎されているようだった。
「肌の色なんて関係ないよ」
「ああ。いい子だよ」
主におば様連中からの評判がいい。ミサロはおば様に愛されるキャラなのか?
「あの巨大亀はどうです?」
「町を破壊されたときは怒りもしたが、あの亀がいることで魔物も寄ってこないし、糞は土をよくしてくれている。漁に頼らなくても農作物で生きられそうだよ」
「漁ってそんなに不安定なんですか?」
「十年前から魔物が現れて近くでしか捕れなくなったよ。若い者は出ていって、年寄りしかいなくなったけど、ミサロちゃんががんばってくれたお陰で若いのも戻りつつあるよ」
海の魔物は広範囲に現れてんだな。
「隊商がきたりするので?」
「いや、行商人がくるくらいだね。それでも物を運んできてくれるから助かるよ」
「コルトルスからはなにを出すので?」
「豆だね。亀の糞のお陰で早豆が豊作で、高く買い取ってくれたよ」
なるほど。空気清浄機みたいな能力だけじゃなく土壌回復もする亀なんだ。古代のエルフはテラフォーミングする技術まで持ってたんだな。壊したのはエルフだけどさ。
カロリーバーをツマミに話を聞いていると、トラクターがこちらに向かってきた。
「お疲れさん。種蒔きか?」
「ええ。ここは雪が降らないみたいだから豆を蒔いてみたわ」
豆はそう手間をかけずに育てられるものらしい。
「他にもトラクターを運転できるのか?」
いつまでもここにいるわけにもいかない。いや、いたいと言うなら残ってもらっても構わない。コラウスにはシエイラや雷牙がいる。ミサロがコルトルスにいるならそれに合わせた体制にすればいいだけだからな。
「今、三人に教えているわ。トラクター、ここに置いてもいい?」
「構わないよ。女王を倒したから必要ならもう一台買ってもいいぞ。七十パーオフシールはあるんだからな」
来年に向けて生産性が上がるならトラクターを買うくらい惜しくはない。ここはロンレア伯爵領だっていうからな。
「ほんと!? 小さいのを二台でもいい?」
「ああ。五百万円までなら自由に使っていいよ」
「ありがとう!」
と、ミサロに抱きつかれた。どんだけトラクター愛が強いんだか。
「今日の夜に海のほうで海鮮バーベキューをするから町の者を集めておいてくれ。ニャーダ族はなにしている?」
「ロンレアまでの道を切り開きながらゴブリンを駆除していると思うわ」
ペンパールにいたゴブリン女王、ライプスが集めたゴブリンだろうか?
「確かにいるな。かなり遠いからはっきりしないが」
いる気配は感じるが、察知範囲外だからうっすらとしか感じない。だが、これだけ離れているのに感じるってことはそれなりに集まっているってことだ。生き残りが増やしてんのかな?
「リン・グーは?」
「町で働いているわ。屋台をやっているわ」
あいつが? 女王ではないにしろ女王を補佐していた立場にいたヤツ。そんなヤツが屋台をやっているだって?
「本人は満足しているわよ。あの人も料理好きだからね」
ゴブリン百パーセントの存在だからオレは人と見ることはなかなかできない。そのせいか、まったく興味が持てないんだよな。だから料理好きとか言われても理解できないんだよな。
「少し見てみるか」
興味はないが、確認だけはしておくとしよう。
千人くらいの町だったので、そう広くもなく繁華街があるわけでもない。一番家が集まっているところが中心地って感じだった。
「あれか」
リン・グーがやっている屋台はすぐに発見できた。
「繁盛してんな」
ってか、たこ焼きかい! 他にもなんかあったよね!
「たこ焼きの屋台って売ってんだ」
異世界に元の世界のたこ焼き屋なんて持ってこなくてもいいやろ。場違いにもほどがあるわ。
「儲かってますか?」
大阪の人ごめんなさい。東日本なのでテンプレ的なことしか知りません。
「ぼちぼちね」
あなた、前世は大阪の人? この世界に生まれたヤツの返しじゃないよね?
「楽しいか?」
なんか憑き物が落ちたような顔をしているが。
「楽しいわ。ミサロには感謝よ。こうして太陽の下に出て人と変わらない生活を送れているんだからね」
ゴブリンにはゴブリンの苦労があるようだ。ダメ女神に罪悪感を消されているからなんも同情はできんけど。
「そっか。商売を始めたいならミサロに言え。用意させるから」
「気前がいいのね」
「別に優しさから言っているわけじゃない。自分たちの食い扶持は自分たちで稼げ。あと、セフティーブレットにいくらか入れろ。人が増えすぎて金が足りないんだよ」
魔石を売ったり商人たちからの護衛費、コラウス、アシッカ、ロンレアからの優遇でやれているが、これからも人を増やしていくなら給料を出さなくちゃならない。ゴブリン駆除の報酬以外に金を稼がなくちゃならないのだ。
「貧しい子供を雇い入れて手駒にしろ。人件費が安く済むからな」
「いいの? わたしに力を与えても」
「変なことするなら駆除するまでだ。オレはゴブリンだけは罪悪感を取り払われているからな」
ゴブリンなら容赦なく、なんの感情もなく殺せる。それどころか五千円の儲けとなる。オレに損はない。いや、評判は落ちるか。まあ、それはそれだ。こいつを殺せない理由とはならんさ。
「……そう。なら、やってみるわ……」
「ああ、がんばれ」
たこ焼きを買い、海に向かった。
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