第850話 乗組員

 朝日を浴びるなんていつ振りだろうか? 久しぶり過ぎて目眩がしてきたよ。


 ……決して飲みすぎからではごさいませんのでご注意を……。


 おいっちにーさんと体を動かして眠気を吹き飛ばし、船内に入ってシャワーを浴びに向かった。


 完全に心身ともに目覚めさせたらホームに入り、休息するときの装備に着替えてきた。今日は戦闘するわけじゃないし、ニャーダ族もいるところに向かうからな。


 船長席に座ったら出発。交代で朝飯をいただきながら東に舵を切ってコルトルスの町を目指した。


「そろそろ一号艇を出すか。ラオルス」


「ラー」


 三時間くらい過ぎた頃、先行として一号艇を出した。


 一号艇が飛び立ってから四十分くらいして町が見えたと報告が入った。


「海に巨大魔物はいないみたいですね」


 通信・レーダー席に座って海底の反応を調べた。これ、魚群探知にも使えないか?


「……釣り、やってみたかったな……」


「五千年前にも釣りなんてあったんですか?」


 そんなことする社会体制ではなかったのでは?


「たまに水路を遡って魚が現れるときがあってな、廃材を使って釣りをさしたっ話をよく聞いたよ。おれは立場的に注意するほうだったからやりたくてもやれなかったんだよ」


 ライズさんはかなり地位の高い役職を任されていたそうだ。若い者に譲りたかったみたいだが、乗り物の操縦から戦闘までできたから却下されたんだってさ。


「しばらく滞在しますし、釣り道具を用意するんで試してみるといいですよ」


 ライズさんたちにも休みは必要だろう。そこまで切羽詰まった状況でもないんだからな。


「それはいいな。是非やりたいよ」


 港町なら漁師や釣りをできるヤツもいるだろう。いくらか渡して釣りを教えてもらうとしようかね。


 生きたものはホームに運べない。なら、寄生虫も入れないはず。刺身で食ってみるのもいいだろう。ダメなら回復薬を飲めばいいんだしな。


 刺身で一杯なんて話してたらコルトルスの町が見えてきた。


「あまり大きな町じゃないみたいだな」


「そうですね。千人もいない町だったみたいです」


 ペンパール上陸や崖崩れでロンレアとの道を閉ざされ、五百人くらいまで減ったそうだが、復興した話が冒険者などから伝わらり六百人まで増えたとミサロが言っていたよ。


「今は漁業より農業に力を入れてるそうです」


 主にミサロが、だけど。


「ライズさん。コルトルス周辺は遠浅な感じですね。沖合いに停泊させたほうがいいかもしれません」


「そうか。それなら誰か残しておいたほうがいいんじゃないか?」


「それならガーゲーから連れてきますよ。ブラックリンなら明日には連れてこれますので」


 スピードならルースミルガンのほうが速いが、マナック消費量は断然ブラックリンだ。補給もすぐなのでブラックリンで向かうことにする。


「コルトルスにはまずラオルスさんにいってもらってください。ミサロは農作業していると思うんできたことを伝えてください」


「ラー。気をつけろよ」


 はいと船尾甲板に向かい、ブラックリンを引っ張り出してきてガーゲーに向かって出発した。


 山崎さんからもらったアンダーシャツを着ているので寒さは感じない。まあ、夏ってこともあるが、時速は百キロで飛べば体は冷えるもの。保温機能もあるこのアンダーシャツはまさに万能と言っていいだろう。山崎さんにアンダーシャツを生産してもらうとしようかね?


 あ、戦闘強化服を十着くらい渡しておくか。あとESGも。少しでも魔王退治に役立つものを送っておこう。 


 ただまっすぐ飛ぶだけなのでいろいろ考えてしまう。


 ロンレアの港町が見えてきて、魔力量も六割を切ってしまったので一旦地上に降りてマナックを補給。また飛び立ってガーゲーに向かった。


 百キロあるかないかの距離なので最大速で飛べば一時間くらいで到着できた。


 修復がさらに進んでいるようで、山の上から塔みたいなのができていた。なんだ、あれ?


「こちら孝人。管制室、聞こえますか?」


「はい、聞こえます」


 あの人は管制室の主か? ノータイムで返ってきたぞ。完全に引きこもりになってないか? そこ、あなたの個人的部屋じゃないんだよ?


「扉を開けてください。ブラックリンで入ります」


「ラー。開きます」


 ルースカルガンの発着口から入った。


 格納庫にはアルズライズが使っている三号艇が固定されていた。中継地にはいないのか?


「マスター」


 ブラックリンをホームに片付け、ルースブラックの発進準備を進めているとマルーバがやってきた。


「長いこと留守にして悪かった。船の乗組員になりたいヤツがいたら十二人集めてくれるか。いなければいないで構わないから」


「男女関係なしにですか?」


「ああ、構わないよ。長いこと帰ってこれなくなるからそのこともな。あ、マルーバにもきてもらいたいからここを任せられる者を残してくれな」


「わかりました」


「タカト」


 と、アルズライズとなんだかごっつい野郎どもが二十人くらいやってきた。


「お疲れさん。どうした?」


「こいつらを使って欲しい。腕っぷしはある」


「わかった。じゃあ、三号艇で運ぶから出発準備をしてくれ。武器とかはいらない。こちらにあるから持っていくのは身の回りのものだけでいいよ」


 請負員カードを渡したのだろう。全員から気配を感じる。てか、気配が多すぎて鬱陶しな。これ、なんとかならんか?


「いいのか?」


「いいよ。やることはたくさんあるからな。こいつらを運んだプレシブスを運んでくれるか? 二艘だけでいいから」


 ガーゲーにもプレシブスはあり、格納庫まで揚げられるようにもなっているのだ。


「わかった」


「オレはホームに入るから出発準備を進めておいてくれ」


 そう言ってホームに入った。

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