第842話 クーズルース

 プレクシックに乗る……タラップ? 梯子? 的なものがないんで、一号艇に乗り込んで船尾にある発着甲板に降りた。


「ルースカルガンは固定しておいてください」


 船内に収容はできるが、まだ魔力炉を起動させてないのでワイヤーで固定しておこう。


 ルースカルガンに搭載されているワイヤーを出して甲板の固定具にロックした。


「魔力炉の起動はお願いします。オレは船内を確認してきますんで」


 情報としてはあるが、やはり起動は専門家(ライズさんは最初、プレクシックに配属されたんだってさ)に任せるとしよう。


「ラー」


「ミリエルは上部デッキを確認してくれ。オレは下部デッキを確認するから。デジカメでも残しておいてくれ」


「わかりました」


 発着甲板で別れ、オレは下部デッキに向かった。


 このプレクシックは貨客船。人と物を運ぶための船。人はともかくなにか載せていたはず。いったいなにを積んでいたのやら? 


 まあ、ダメ女神が排除している可能性もあるが、それならそれで構わない。魔力炉搭載型になったのならルースカルガンに魔力を充填できるってこと。なら、移動基地──空母として使えるってことだ。


「この船、クーズルースって名前なんだ」


 下部デッキを目指していたら壁に現在位置番号のプレートがあり、船の名前も刻まれてあった。


「白骨死体はないな」


 運用は四人だが、百メートル以上もあるのだからたくさんの人を乗せていたはず。なのに、白骨死体がまったくない。沈む前に逃げたのかな?


 階段を降りて貨物デッキに出ると、コンテナが二段になって積まれていた。


 コンテナにはなにも書かれていないが、手動式なので扉を開けてみた。


「灰色のコンテナボックス? EARか?」


 マイセンズは色別するのか、灰色はEARが収められていたっけ。


 留め具を外して中を見ると、サブマシンガンタイプの銃が入っていた。


「ミールプラスティカ・ラー──ESGでいいや」


 なんでか知らんが、なぜか銃の名前が長いんだよな。短く纏めてくれよ。


「戦争でも始めようとしていたのか?」


 横のも開けてみたら同じくESGが入っており、刃物タイプのラットスタットまであった。


「アルセラと戦うものじゃないな。生身の相手に使うものだ」


 都市戦争をしようとしていたのか? なんかアルセラの反乱とか、ほんと酷い時代だったようだな。


 クーズルースが動かない間にフォークリフトを持ってきてコンテナを上げ──られないか。コンテナがデカすぎる。


「イチゴ、どこだ?」


 コンテナボックス一つ十キロくらいある。さすがに一人だと時間がかかり過ぎる。イチゴがいないとパレットに積むのも一苦労だよ。


 それでもパレット一つ分積んでホームに運び込んだ。


 ──ガコン。


 と、船体が揺れて船内灯が点いた。


 プランデットを外し、改めて船倉を見て回った。


「ルースミルガンか」


 二人乗り用の飛行艇で、パトロール用の乗り物だ。だが、これは武装されており、左右に十六発のミサイルポッドがつけられていた。


「機首下にガトリングまでついてんのかい」


 武装ルースミルガンが……百機(艘ってより機のほうがしっくりくる)以上ある。最前線に運ぼうとしていたのだろうか?


「ルースミルガンならホームに入れられるか?」


 長さ五メートル。幅三メートル。高さ二メートル。これなら一機は入れられるはず。


「──タカト。船橋にきてくれ」


 と、船内放送。確認作業を中断して船橋に上がった。


 船橋は意外と広く、席は菱形に配置されており、一段高くなっているところが船長席。右側が船体コントロール。左側は通信やレーダー。前が操舵か。


 前方に三十インチくらいのモニターが三面と左右後方と二枚ずつ。席には小さなモニターがついていた。


 天井にも大型のモニターがついている。完全密封型のようだ。まあ、水中にも潜れる仕様だしな。窓をつけないほうがいっか。


「魔力炉はどうです?」


「マイセンズは魔力炉搭載のプレクシックがあったのか? 条約違反だぞ、この船は」


「そこは女神の判断です。大陸全土どころか他の大陸のゴブリンを駆除しろってね。一地域でも精一杯だってのに迷惑な話です。搭載兵器はないのですよね?」


「いや、なぜか搭載されていた。プラニング砲が一門とバルニグが二門だ」


 プラニング砲? あ、大砲か。バルニグ砲はバルカンだな。


「女神が取り付けたんでしょうね。必要になる魔物がいるんでしょうよ」


 まったく、ゴブリン駆除がなんで海に出なくちゃならないのか。業務外のことが多すぎんだよ。クソったれが!


「ライズさんは、撃ったことあるんですか?」


「ないな。エウロンは中立都市を謳っていた。映像の中でしか知らんよ」


 オレも大砲なんて映像の中でしか知らない。つまり、撃ってみないとわからんってことだな。


「ライズさんが船長席に座らないんですか?」


「おれは船長って柄じゃない」


「わたしもです」


 ライズさんだけじゃなく、ラオルスさんも否定した。


「この中で戦闘経験豊富なのはタカトだ。状況判断も優れている。船長として座ってくれ」


 オレ、そんなに戦闘経験豊富じゃないんですけど。


 とは思ったが、操船技術はないんだから操舵は経験者に任せるしかないし、船体コントロールはラオルスさんが上だろう。ミリエルに船長をやらせるわけにはいかないんだからオレがやるしかないか。


 ハァーとため息を吐いて船長席に座った。

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