第840話 地下倉庫
「タカトさん。そろそろロンレアにきてもらっていいですか?」
あーいかなくちゃな~って思っていたらミリエルがガーゲーに呼びにきてしまった。
「ああ、そうだな。移住させたヤツらはどうだ?」
中継港に沈んだプレクシックを引き揚げるための準備をしていたら四日ほどホームに入れなかったんだよね。
「今のところ問題なく過ごしています。ただ、湾内の漁なので大きな魚は捕れていませんね」
「なんだっけ、古代エルフが防衛用に造り出した生体兵器?」
「プロプナスです。今も近海にいることを確認しています」
「五千年も前なのにしぶとく生き残っているもんだ」
よくあんなのがいる海を渡っていたものだ。人類、よく五千年も続けられたもんだよ。
「倒す方法があるんですか?」
「まあ、プロプナスがどんなものか知らないが、生体兵器なら倒し方はいろいろあるさ。五千年の間、この環境に適していたら特にな」
生体兵器はエルフ同士の戦いから生まれたもの。五千年もの間、この環境に適応してきたなら生態環境を崩してやればいい。それでも死なないならお手上げ。オレ、知らねー、だ。
「……タカトさんにかかれば魔王も倒せそうですね……」
「さすがに軍を相手なんかできないよ。個だから相手できるだけさ」
こちらは常に近代兵器と数で圧倒している。いくつもの王国にちょっかいをかけられる魔王軍となんて戦えないよ。
「マーリャさん。オレは、ロンレアに向かうのであとはお願いしますね」
ウルトラマリンにかけていたプランデットをかけ、管制室にいるマーリャに連絡を入れた。
「わかりました。続きは警備兵にやらせますね」
「よろしくお願いします」
「このプレクシック、直せるんですか? かなり錆びているようですけど」
「マーリャさんによれば直せるそうだ。まあ、完全に直すには三ヶ月くらいはかかるみたいだがな」
魔力炉が稼働しているから可能なことで、そうでなかったら修復不可能だそうだ。
「マルーバ! オレが帰るまで指揮は任せるな!」
館からプレシブスを運んできてマルーバたちに練習させているのだ。
「わかりました!」
乗り物系に特化したようなヤツらで、陸海空と駆け回っているよ。ほんと、なんなんだ、この獣人たちは?
ミリエルをウルトラマリンに乗せて岸壁に向かい、一旦ホームに入って着替えたら、ミリエルが運転してきたパイオニア四号でロンレアを目指した。
「すっかり道ができたな」
モニスは巨人の村か? 一月以上見てないけど。
「そうですね。もうちょっと平らだと一時間でこれるんですけどね」
ミリエル、意外とスピード狂だよな。悪路な道を七十キロくらいで走っている。タイムアタックじゃないんだから安全運転でお願いしますよ……。
ガーゲーから一時間半で港町に到着。誰かの運転はヒヤヒヤするものだ。
「このまま港に向かいますね」
「了解」
港に近づくと、潮の香りがしてきた。
「ちらほらと人の姿があるな」
人間からしてロンレアの民か?
「隠れていた人たちですね。ロンレアには地下倉庫があるそうで、そこで生き抜いていたみたいです」
へー。そんなのがあったんだ。
「人間はしぶとい生き物だな」
それが人間の強みなんだろうよ。オレもなんだかんだ生き残ってんだからよ。
港は巨人が直しているようで、海に浸かりながら崩れた岸壁を直していた。
「船もそこそこ残っているんだな」
三メートルくらいの小舟だが、それでも二十艘くらいはある感じだ。
「大きい船はすべて竜人に壊されたみたいです。追ってこないようにしたのかもしれませんね。ロンレアは軍艦を持っていましたから」
「軍艦なんて造れるんだ」
「駆除員が二人いましたからね」
教会と城下町は別の駆除員らしく、城下町のほうが六百年前まで教会は五百年前らしい。
「やけにこの国に集中してんな」
「その当時、ゴブリンだけじゃなく虫も溢れていたみたいですよ。城下町を築いた駆除員は巨大虫と戦って死に、教会を築いた駆除員は毒殺されたようです」
「可哀想に」
他人事と思えないから泣きたくなるよ。こんな拠点をもらっても五年以内に死んでしまうんだからよ……。
「でもまあ、先人のお陰でオレは生きられてんだから感謝しかないよ」
一つの失敗が命取りの世界。自分にできない失敗を見せてくれたのだから感謝しなければ罰が当たるってものだ。
「タカトさんのように駆除員同士で受け継いくことを思いつけば死ぬこともなかったでしょうね」
「そうもいかなかったんだろうさ。右も左もわからない世界で百年後の駆除員のために動くなんてな。オレはミリエルたちがいてくれたから過去を見れて百年先を見れるんだよ。ありがとな、オレといてくれて」
それ故に、絶対に守らなければならない存在であり、オレがいなくなっても不自由しない場所を築く必要があるのだ。
「ありがとうはこちらのセリフですよ」
なぜか硬い表情をするミリエル。あれ? 不愉快なこと言っちゃったかな?
「あ、タカトさん。見えてきました」
前を向くと、海が見えてきた。
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