第838話 竜人
「海の町、マクラエルは壊滅していたよ」
四号艇から見たマクラエルの町並みを見せてもらった。
確かに壊滅状態となっていて、多くの建物は瓦解していた。
町の規模からして軽く五万人はいたんじゃなかろうか? 城壁は二重となっており、第一と第二の間は百メートルくらい離れており、畑が作られていた。
「城壁に被害はないとなると海からやってきた感じか」
港は完全に崩壊しており、直すのも大変だ。
「ああ。ペンパールが襲ってきたようだ。と言ってもゴブリンの女王が率いたものでなく竜人だったそうだ」
「竜人?」
この世界、どんだけ種族がいんだよ? いくらなんでも多すぎないか? 種族間戦争とか起きるだろう!
「文字通り、人型の竜だな。知能も人間並みにある。海の民として人間とも交流していたが、ペンパールに乗った竜人は別のところから流れてきたようだ。言語が違った」
「言語が? この世界、皆同じ言語じゃないんだ」
古代エルフのエレルダスさんとも普通に話せたし、巨人、エルフ、獣人、ドワーフと、言葉に困ったことはないぞ?
「喉の作りが違う種族は言葉は通じないな。海の民の竜人は文字で意志疎通していた」
昔の人はよく言葉の通じない種族と意志疎通しようと思ったな。いろんな種族がいる故か?
「五千年前も竜人っていたんですか?」
「いえ、竜人なんていませんでした。わたしたちが生きていた時代は人間が増えてきているなと感じるていどで、巨人やドワーフはウワサでいると聞くていどでしたね」
「女神によればこの世界は三回やり直しているそうなので、今が四回目ってこでしょう。エルフの前はなんの種族が栄えていたかわかりますか?」
「恐らく、巨人だと思うわ。わたしたちエルフは巨人を破って栄えたと言われてますから」
「二回目が巨人で三回目はエルフ。一回目はドワーフか? それとももういない種族か?」
「少なくとも竜人ではないことは確かですね。エルフ文明は約五千年は続いていました。この星全土に広がりましたが、竜人なんて種族がいた記録はありませんから」
「別の世界から連れてきた種族ってことか。あの女神、いろいろ生態系を弄りすぎだろう」
地球は人間にとって都合のいい世界とか聞いたことあるが、この世界は生命体にとって歪すぎんだよ。自らハードル上げてないか、あのダメ女神は?
「生態系を弄ったというならわたしたちも非はありますね。たくさんの生体兵器を造り出し、種を翻弄し、環境を壊してしまったのですから」
「それはどの種が頂点に立っても同じですよ。オレの世界もたくさんの兵器を造り出し、種を滅ぼし、環境を悪化させているのですから。故に、知的生命体が一万年栄えることは難しいのでしょう」
知的生命体は文明を築いた時点で進化の頂点に立つ立ったんだと思う。そうなれば進化ではなく変化しなければならないんだろう。古代エルフが機械化したり新たな命を創ろうとしたりな。
「まあ、世界の生い立ちは今を生きているオレたちには関係ないことだ。今はそのペンパールに乗った竜人だな。今もマクラエルにいるのか?」
「いや、奪えるものは根こそぎ奪って海に戻ったそうだ。陸から見える範囲にはいない」
地平線の向こうに消えたか。厄介なのが海にいやがるぜ。
「マクラエルは復興できそうか?」
「無理だろう。たくさん死んでいて、食糧はすべて奪われた。アルゼンスに逃げようにも五十キロは離れている。飲まず食わずで逃げられる距離じゃない」
塩を運んでいるから道はそれなりに整備されているんだろうが、なにも持たずに横断できる距離ではない。最低でも一回は野宿しないとならない。魔物や虫が出る世界では絶望的な距離だろうよ。その日を生きるのに精一杯って状況ではさらに無理だろうな。
「申し訳ないが、オレたちにはどうにもできんな」
「それなんだが、ロンレアに運んでも構わないか?」
アルズライズらしくないことを口にした。
薄情ってわけじゃないが、他人にはドライなところはある。復讐のために生きていた人間だからそうなるのも無理ないが、同情で動くタイプではない男だ。
「構わないが、なにか考えがあるのか?」
「船乗りを確保しておきたい」
あ、船乗りな! それは考えていなかったよ!
「どのくらい生き残っているんだ? それはオレも確保したいよ」
ロンレアは大陸と交易していた。船乗りがいるならまた交易が再開されたり、漁ができたりする。生き残っているなら是非とも移ってもらいたいよ。
「まだはっきりとした数はわからないが、海を見ているヤツは結構いた。あいつらは漁師だろう」
町は壊滅してもそこに住む人間は全滅したわけじゃない。たくさん殺されたかもしれないが、五万人を殺すには並大抵な労力じゃない。略奪のときに殺したとしても数千人だろう。
竜人がいつ襲ってきたかはわからないが、それでも万単位で生き残っているはずだ。
「カロリーバーはいくらでもある。それを使って船乗りや漁師を集めてくれ。そうだな。誰か商人を連れていくか。壊滅しても残っている道具があるかもしれない。それを売ってもらうとしよう」
商売が再開されるのなら人は動くはずだ。将来を考えたらプレクシックを停泊できる避難港はあったほうがいいだろう。
「ビシャ。悪いが、ここをお願いできるか? オレとアルズライズはガーゲーに移るから」
「わかった。任せて。傭兵団としてたくさん経験させたいからね」
「それなら直属の部隊を創っておけ。ビシャがいつでも動ける部隊はあったほうがいいからな」
「女の部隊でもいい?」
「構わない。お前の手足にするんだからな」
なにがあったかは知らないが、ビシャの思うとおりにやればいいさ。
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