第837話 移動
「チッ。魔力弾が通じないのもいんのかよ。なんの嫌がらせだよ」
似たような姿なのに魔力弾を弾くヤツが混ざっていた。
P90のマガジンを交換して撃つと、あっさりと貫通。柔らかい肉に撃ったかのようだった。
「ほんと、なんなんだよ」
オレには区別がつかないので、右手にプリジック。左手にクロック17を持って、魔力弾を中心に撃ち、ダメならすぐ9㎜弾を撃った。
マルーバ以外の獣人にはEARだけしか持たせてないので、物理防御に特化した虫が全面に出てきた。
甲殻系の虫はまだまだ尽きることはなく、逃げることもしない。グロック17だけにしつな撃つが、すぐ弾がなくなる。
「マルーバ! 弾はまだあるか!」
「もうありません!」
だろうな。拳銃なんてサブウェポンでしかない。百発も二百発も持つものじゃない。大事に使っても十分ともたないだろうさ。
「魔力壁展開! 陣を張れ!」
獣人たちを集めてEARの魔力壁を展開させて円陣を組ませた。
「少し堪えろ!」
MINIMIを取り寄せ、隙間から連射した。
二百発を撃ったら箱マガジンを交換。別の隙間から連射。尽きたら手榴弾を取り寄せて周囲に放り投げた。
「マスター! 弾を補充しました!」
「よし、撃て!」
マルーバと交代してマナイーターを取り寄せた。
「残り僅かだ! 最後まで気を抜くな! 魔力壁を解け! 抜刀しろ! 全力で守りたいものを守れ!」
そう叫んで駆け出し、立ちはだかる虫畜生にマナイーターを一閃させた。
「マスターに続けぇー!」
マルーバも叫び、虫畜生に突っ込んでいくのがわかった。
戦いの最後はいつだって肉弾戦。自らの命を使って戦うしかないのだ──と言っても勝算もなしに突っ込めとは言わない。ちゃんと数が減ったからやらせているのだ。
この一月近く、獣人たちを戦わせたから顔つきが引き締まってきた。街での温さは消えてきているってことだ。
最後の仕上げとして自ら戦ってもらう。精神的成長をしてもらうのだ。
姿は猫の獣人なのに組織的に動くに長けた種族であり、なんだか社会性を大切にしているっぽいのだ。
……言ってはならないことだが、ニャーダ族より使いやすい連中だよな……。
これまで見てきてリーダーに向いているヤツも何人かいる。ここにきたのは男だけでなく、女性や少年少女もいる。
恐らく、ビシャが集団行動が得意そうなのを選んだのだろう。あいつはよく人を見ているからな。直感も鋭いし。
ロンレアに連れていこうと思ったが、もうしばらくここで社会性を鍛えるのがいいかもしれんな。どっちにしろ、ここを任せる者が必要だ。町くらいには発展させたいな。
ビシャが連れてきた獣人たちは兵団として優れているっぽいな。まあ、社会性っていうか集団性を鍛えている感じだ。
「ふー。これで最後だな」
三時間くらいかかってなんとか殲滅することができた。
「マルーバ! 片付けは明日だ! バリアー内に退け! 前線基地組もだ。ルースカルガンを敷地内に入れろ!」
プランデットでルースカルガンに連絡を入れた。
ビシャもアルズライズも前線基地組の獣人に任せていたようで、戦いに参加することはなかった。監視役のニャーダ族が二、三人いるくらいだった。
マルーバに任せ、オレは水分を補給して体力を回復。皆が敷地内に入るのを見守り、虫が襲ってこないのを確認してから敷地内に戻った。
「ルスカルさん。バリアーを展開してください」
あ、敷地内にも虫がいたわ。水分を抜いておくか。
「タカト!」
虫から水分を抜いていると、ビシャとアルズライズが駆けてきた。
「応援、ありがとな。助かったよ」
「こっちもいい訓練になったよ。前線基地の周辺は虫とか獣を根絶やしにしちゃったからさ」
きっと自然界から見たらオレたちは最悪の敵だろうな。まあ、すべての文句はダメ女神に言ってくださいませ。オレらは悪くないんで。
「じゃあ、しばらくここで周辺の虫を駆除してくれ。オレはガーゲーにいかないとならないからさ」
中央館に戻ると、ミシニーやメビもいた。
「まずはオレから状況を説明するよ」
海のほうも気になるが、ダメ女神からのアナウンスはない。いや、ないのもそれはそれで怖いが、そっちまで気に停めていられない。優先順位を守って行動するまでだ。
コラウスのこと、新要塞都市のこと、ロンレアのこと、中継地の扱いを話した。
「前線基地から人をここに移動させられるか? 中継地の者をもう少し鍛えようと思ったが、かなりの数を連れてきたのなら前線基地にも同じくらい残してきたってことだろう」
「うん。思いの外集まりすぎて困ってたんだ。ここに移動できるなら助かるよ」
「それなら中継地にいたヤツをガーゲーに移すよ。あそこも人手が欲しいからな」
マリンとカレンがいるとは言え、マーリャさん一人だけってのは可哀想だ。人を置いてガーゲーを賑やかにするとしよう。
「わかった。明日から移動させるよ」
「食糧も運んでくれな。ここにも貯蔵庫も置きたいからさ」
来年に向けて食糧を確保しておこう。食糧危機だけは起こしたくないからな。
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