第834話 生息地

 さらに獣人が追加された。


「三十四人か。こんなものか?」


 移住するには少ない人数だな。故郷を離れるのに抵抗があるのか?


「前線基地も開拓しているからこんなものだね。連れてきたのはわりかし大人しい連中かな?」


 ビシャはそういうこともわかるか。やはりこいつはリーダー向きなんだよな。


 ビジネスホテルのビュッフェを買い、獣人たちに振る舞ってやった。


「こんな味を知ったら他のものが食べれなくなっちゃうね」


「次も食えるようがんばってもらうさ」


 さすがに毎日は出してやれん。稼いだときやめでたいときに出してやるさ。


 屋根がないのは可哀想とテントを買って張り方を教える。職人がいないのが残念だな。


「やっぱり街暮らしはサバイバル術が身についてないか」


 オレもサバイバル術なんてなかったし、今もないから非難するつもりはない。そうなるとニャーダ族のような扱いはできない。そうなれば農業をさせるのも無理だろう。


「まずは開拓で体を慣らしてもらうか。一月も経験すれば精神的にも成長するだろう。そっちにいるヤツらはなにをさせるんだ?」 


「武闘派揃いだからね、鍛えてブレット兵団を創るよ。人数だけはいるからね」


「ブレット兵団か。なら、前線基地は獣人の町にするか。ロンレアと都市国家の間をゴブリンの生息地にする」


 計画していることをビシャに語った。


「それ、女神に怒られたりしない?」


「女神の目的は知的生命体が一万年生きること。ゴブリンの根絶やしじゃない。知的生命体の害にならない数なら文句は言ったりしないよ。言っているなら百年に一回なんてペースで異世界人を連れてきたりはしないさ」


 一年もしないで死んだ者も多々いる。いや、五年以上生き抜いてない者ばかり。残り九十五年でどれだけゴブリンが産まれていると思う。それなら一ヶ所に閉じ込めて、生かさず殺さずオレたちの糧にしたほうがいい。ゴブリン駆除の歴史や技術も積み重なる。セフティーブレットの価値も受け継がれるってことだ。


「次の駆除員が連れてこられるまで九十八年。そいつにセフティーブレットを継承させる」


 そうしなければ無駄に命が失われる。これ以上、ダメ女神に同胞を不幸にされて堪るか。その負の連鎖はオレが変えてやる。


「ゴブリンの生息地を作り、そこにゴブリンを追いやっていく。場所が決まれば稼ぐのも楽だからな」


「タカトは壮大なこと考えるよね」


「オレは老衰で死にたいからな。それまでの道筋はしっかりと用意しておかないとならんのさ」


「そういうところが勝てないよね」


「それは経験の差だ。ビシャもいろんなことを経験したら見えてくる。いっぱい失敗して学ぶといい。挽回できる失敗ならいくらでも失敗していい。失敗の中にこそ学びはあるからな」


 凡人は失敗してこそ成長できるもの。それをカバーしてやるのが大人の仕事だ。


 その夜は前線基地のこと、都市国家のこと、ビシャの思いを聞いてやり、朝になったら獣人たちに中継地の周りを拓くよう命じた。


 慣れない仕事に最初は戸惑っていたが、獣人の血が目覚めていき、環境に慣れていった。


 十日も過ぎるとかなり拓けてきた。


「マスター! 虫の大群です!」


 さすがに虫の森。拓く度に出てくるよな。


 この十日間、平和に拓いていたわけではなく、ちょくちょく虫が現れていた。


 王蟲かな? なんて団子虫や十メートルもの長さもあるムカデ。ロスキートなどなど。今回はあの子犬くらい蜂が群れで現れたよ。


 ……あのときの復讐だったらごめんなさい……。


「撃ち殺せ!」


 ちゃんと交代で見張りは立たせてあり、EARを持たせてある。慣れてもきたので獣人たちも慌てることなく撃ち始めた。


「他からもくるかもしれない! 注意しろ!」


 オレもベネリM4をつかんで多いほうに向かった。


「一ヶ所に集中するな! 全体を見て攻撃しろ! 上からくるぞ!」


 どうも指揮された動きだな。女王蜂でもいるのか?


 獣人たちが撃ち漏らしたものをカバーしながら事態を見守っていると、中型犬サイズの蜂が現れた。


「指揮官か?」


 女王蜂って感じはしない。恐らくアレがこの群れを率いているんだろうよ。


 他のヤツも気づいて撃つが、魔力壁みたいなのを展開してるっぽかった。


「ああいうのがいるからEARだけに頼れないんだよな。マルーバ! ファイブセブンで撃て!」


 魔力壁は魔力を弾くだけで、物理は通してしまう。貫通力の高い5.7×28㎜弾なら充分効果はあるだろうよ。


 五発くらい当てて指揮官蜂は地面に落ちた。


 やはり指揮官だったらしく、他の蜂が散り散りになってしまった。


「無理に追うことはない。撃てるものだけ撃ち殺せ」


 各個攻撃で次々と撃ち殺していき、飛んでいる蜂はいなくなった。


「お疲れ! 蜂から魔石を取り出せ。死体は集めて燃やせ。警戒は怠るなよ」


 長生きする虫なのか、結構魔石を持つ虫が多く、風属性の魔石を育てていた。


 子犬くらいの蜂からも緑色の魔石が出てきた。まあ、ロンレアを動かす燃料となるんだからなんでも構わないんだがな。


「一応、売るためにいくらか残しておくか」


 資金調達には魔石を売るのが手っ取り早いからな。

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