第831話 精神的強さ

 海を見ないで海の近くにある港町を目指す。


 なんのトンチかと思ってしまうが、地上ギリギリを飛べは問題はない。街道を飛び、港町の前に築いた巨人区に昼前に到着した。


 タイミングよくダンがいたので隊商がくることを伝え、迎える準備を進めてもらった。


「ゆっくりしたいが、他もあるんでここを頼むな。もし、コラウスに帰りたいと言う者は帰してやれ。前みたいに大変でもなくなったからな」


「大丈夫だよ。今年は帰れないって覚悟できているから」


 この時代を生きるヤツらの覚悟はオレが考えるより重い。それだけ命懸けってことなんだろうよ。


「そうか。コラウスはミジャーで大変だが、ミジャーを買い取ると教えたらさらに目の色変えて集めているよ。もう資金が足りるか心配なくらいだ」


「ミジャーなんて買い取ってどうするんだ?」


「ゴブリンを引き寄せるためのエサにするんだよ。ミジャーを求めてゴブリンが集まってくるって説明したろ。女神によればミジャーの肥料を撒いたら寄ってくるからやるなと注意された。なら、ミジャーの肥料を撒けば寄ってくるってこと。使わない手はないだろう」


「へー。それはいいな。皆もゴブリンを狩りたいって言っているからまたゴブリンを集めてくれよ」


「ああ。考えておくよ。今はゴブリンがバラけているからな、少し纏まるのを待つとしよう。纏まったほうが楽だしな」


 ちょっと首長やボス格を殺しすぎた。少し間を置いて群れを束ねるボスが生まれるのを待つとしよう。オレのために群れを纏めてくれ、だ。


「まあ、周辺のゴブリンを駆除するのは問題ない。街道沿いにそこそこいるから駆除してくれ。オレは一月後には戻ってくるから」


「了解。気をつけてな」


 ブラックリンにマナックを補給してガーゲーに向かった。


「やっぱりロンレア周辺にいるな」


 ロスキートの女王がいたせいか、ガーゲーに近づけば近くほどゴブリンの気配がなくなっている。いったいロスキートからどんな成分が出てんだか。濃縮して世界にばら撒きたいわ。


「まっ、ダメ女神のことだからロスキートを好む魔物とかいんだろうよ」


 グロゴールもローダーを食っていた。ロスキートを増やしたらグロゴールのような凶悪な魔物が増えました~、ってオチになるんだろうさ。


 一度、地上に降りてマナックを補給。一服していたら仔犬くらいの蜂が現れた。


「でっけー蜂だな。こんなもんまでいんのかよ」


 なにを食ったらこんなにデカくなるんだか。こんなのばかりだったら生態系狂うんじゃねーの? 


 まあ、襲ってくるわけでもなし。無駄な殺生はしないと見送ったが、ここは弱肉強食な世界。オレをエサと認識したようで襲ってきた。


 ファイブセブンを抜いてデカ蜂を逆に蜂の巣にしてやった。


「五メートルくらいなら余裕だな」


 いやまあ、誇れることじゃないが、ベレッタを撃っていたときから比べたら腕は確実に上がっている。人間、努力すれば三十歳からでも成長するんだな。


 虫を殺したらすべての虫が襲ってくる世界ではないようで、デカ蜂の仲間が集まってくることはなかった。


 人間の臭いを覚えられたら嫌なので、ホームに入ってM32グレネードランチャーに催涙弾を詰めて外に出て周囲に放ち、催涙ガスをばら撒いた。


 ホームに戻したらすぐに飛び立ち、ガスの散布具合を確かめる。


「お、巣が近くにあったんかい」


 上空まで羽音が聞こえてくるよ。凄い数だぞ、これは。


 生態系を壊しちゃったような気がしないでもないが、元々生態系が狂ったような世界。すべてはダメ女神が悪いのだ。オレしーらね。


 機首をガーゲーに向けてさよーなら~。暗くなる前にルースカルガンの発着扉から中に入った。


 ブラックリンはそのままにしてホームに入ると、アイテムバッグ化させたバケツの他にトレーラーに麻袋が詰まれていた。


「根絶やしにする勢いだな」


 休む暇もないと愚痴りながらトレーラーのを出し、続いてバケツを出す。


「こりゃ、徹夜か?」


 と覚悟していたらマリンとカレンがやってきて廃棄ダクトに入れるのを手伝ってくれた。


 ……こいつら、自我とか芽生えてないよな……?


 なんて心配になるくらい自主的に動いてくれるのだ。ゴーレムの反乱とか止めてくれよ。


 空になったバケツをホームに戻すと、リヤカーを引いて入ってきた。


「あ、タカト。ミジャーを持ってくるのが収まらないよ」


 本当に根絶やしにしそうな勢いだな。


「今空にしたからバケツを持ってってくれ。外はどうだ?」


「朝から晩までミジャーを持ってくる人でわちゃわちゃしてるよ。シエイラがカロリーバーを出してくれってさ」


「わかった。すぐに運び入れるよ」


 フォークリフトに乗り込んで外に出た。


 幸いにしてカロリーバーはコンテナボックスに入れられ、パレット積みで出てくる。フォークリフトで入れればあっと言う間よ!


 ってことにはならず、入れては出しての繰り返し。カロリーバー、人気すぎないか?!


「長期保存ができる食べ物は貴重だからね、皆欲しがるのもよくわかるよ。これ、そんなに不味くないしね」


 オレよりこの世界で生きた時間が長い雷牙さん。理解度はオレより高かった。


 ……現代人のなんて軟弱なことよ。歴代の駆除員は肉体の弱さに負けたんじゃなく精神的に負けたんだな。よくわかるよ……。


 ホームをあたえられただけオレはマシだったんだな。ダメ女神には感謝しないがな! 

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