第18章
第830話 ナンバー2
話し合いは続き、隊商は四日ほど新要塞都市に滞在した。
「これをウィンウィンの関係っていうのかね?」
男たちは性欲を満たし、女たちは懐を満たした。この時代の価値観ではどちらも幸せになっている。
元の世界の価値観を持つオレには理解できないことだが、お互いが幸せになっているのだからオレの価値観を押しつける必要もない。よかったね、で終わらせておこう。
娼館の女性陣は新要塞都市に残ることにする。
旅慣れてない者には山脈を越え、途中に町もない旅は苦痛意外なにものでもない。これ以上、旅をするくらいならここで商売をするほうがいいんだとさ。カモもたくさんいるしな。
ルークスさんが率いる隊商も残ることになった。
ミヤム商会は輸送を商売とする商会で、旅慣れた集団でもある。このままロンレアに向かうより、新要塞都市とアシッカを結ぶ輸送を受け持つことになった。
それで儲けになるのか? と思ったが、もうミヤマランとアシッカを結び、路線として確立してしまったそうだ。
「山脈越えは骨ですが、アシッカから新要塞都市までの道は楽なものですよ。道はよく、ちょうどよいところに野営地がある。水の確保も容易ときている。隊商としては理想的な街道ですよ」
「その道の玄人にそう言われるとがんばった甲斐があるってもんですよ」
まあ、商人のロプスさんの要望を聞いただけなんだけど!
「ここは将来性があります。さすが五百年先の叡知を持っているだけはありますね」
「そんな叡知でもないですよ。五百年先でも輸送は経済の命。廃れることのない商売ってだけです」
「それは素晴らしい。五百年先も廃れないなんて。神託を受けたようなものですよ」
そんな大仰なものじゃないんだけどな~。まあ、はりきってやってくれるなら構わないか。さらに道が重要って認識してくれるんだからな。
「一番を目指すのはいいですが、独占だけはしないでくださいね。独占して栄えた業界はありませんから」
オレが知らないだけであるかもしれないが、オレが生きている間は独占などしないでおくれ。
「肝に命じておきます」
オレと同じ年代なのに謙虚な人だ。二代目ってことらしいが、ルークスさんで傾くことはないだろうよ。
「ミリエル。しばらくここに残ってラザルさんをサポートしてくれ」
本当にミリエルにさせるのは不本意だが、衛生観念を持っているのはミリエルしかいない。ここで性病大発生とかは困るんだよ。それを教えるためにもミリエルに残ってもらうしかないのだ。
「あの双子も呼ぶか?」
あいつらならミリエルに心頭している節がある。きっと支えてくれるだろうよ。
「大丈夫ですよ。あの双子にはいろいろ学んでもらいたいですからね。今は伯爵夫人の側にいさせます」
どんな教育方針なのか謎だが、そこは触れないでおこう。ミリエルは信頼できるセフティーブレットのナンバー2だからな。
ミリエルの肩を叩き、すべてを任せた。
「タカト殿。準備ができたので出発する」
ロンレアに向かうロンダさんがやってきた。
「はい。お気をつけて。オレは一足先に向かうので隊商がくることを伝えておきますね」
隊商には護衛として冒険者がついている。わざわざついていくこともないし、巨人のダンやロンレア方面大隊(モウラたちね)が見回っている。大型の魔物はいないだろう。いるとしたら狼や普通の熊くらい。それなら冒険者で充分だ。
「ああ。また会えることを願っているよ」
「ええ、三十日後くらいにはロンレアに向かうと思います。それまでいたら船に招待しますよ」
「船か。それはいいな。一度でいいから乗ってみたかったのだ」
「将来は海の向こうまで航路を伸ばす予定です。長生きして海の向こうを見てください」
「ふふ。タカト殿は本当に人たらしだな。あの公爵様が気に入っているのがよくわかるよ」
あのバケモノに気に入られるのも大変だけどな。要望に応えるだけで胃に穴が開きそうなんだからよ。
「では」
そう笑顔を残してロンレアへ向けて出発した。
「モウラ。またよろしくな。お前はそれなりの地位にするんだから女に溺れたりするなよ。いろいろ声をかけられるかもしれないんだから」
オレがモウラを買っていることはロンダさんや周りの者から伝わるだろう。オレに取り入ろうとして女性を差し出すかもしれない。
別にそれを咎めることはしない。それもモウラの地位を上げることに繋がるんだからな。だが、女関係でそれを無駄にされたら困るのだ。
「はい。お任せください。すべてはミリエル様のために」
「だからって自分を犠牲にするなよ。お前たちが不幸になったんでは意味がない。笑ってミリエルを支えてくれ」
そのために新要塞都市をモリスの民で固めたのだ。万が一、オレが倒れたとき、ミリエルの力となるべき存在がモウラたちであり新要塞都市なのだから。
オレの言葉にモウラは黙って敬礼で応えた。
すべてをわかっているようなのでそれ以上は言わないでおく。
うんと頷き、ブラックリンに跨がって飛び立った。
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