第829話 秘密結社
夜になり、ロンダ・マルズレさん、ルークス・ミヤムさん、ラザルさん、モウラ、オレで会合をする。
「あまり酔うと話しにならないんで、そう強くない酒にしましょうか」
と言っても飲み慣れない酒を出しても困るだろうからワインを出すんだけどね。
一人各一本出し、ツマミはソーセージやチーズ、簡単に摘まめるものを出しておいた。
まずは乾杯と、各々注いだワインでグラスを鳴らした。
「美味い葡萄酒ですな」
「気に入ったなら帰りにお土産に出しますよ。ただ、十五日後に消えてしまうのでそれまでに飲んでくださいね」
公爵から聞いているかもしれないが、一応、伝えておくとしよう。
「それはありがたい。公爵様からいただいた酒が美味くてまた飲みたいと思っていたのです」
「そう畏まらなくていいですよ。オレは一ギルドの長であり、貴族でもないんですから。年上の方にそう畏まれるほうが気を使いますよ」
年功序列主義ではないが、自分の親みたいな年齢の人から敬われるとか慣れてないから背中がむず痒くなるわ。
「ふふ。おもしろい男ね」
「マスターに手を出すと怖いのが出てくるから注意しろよ」
誰とは訊かないでおく。オレも命が惜しいので……。
「わかっているわよ。さっき冷たい目で忠告されたからね」
誰にとは訊かないでおく。心を守るために。
「それはともかく、ロンダさんはなにをロンレアに運ぼうとしているんです? 今のロンレアに出せるものは塩くらいですよ」
「その塩だよ。ミヤマランも内陸部だ。塩がないと命取りになる。公爵様は優秀すぎて敵が多い。まだ塩を人質にされてないが、この先を見据えるならロンレアと繋がりを持っていたほうがいい」
「あー。そこまでは気がつきませんでした。あまりにも商売が盛んだったもので」
「それはタカト殿のお陰だな。魔石を売ってくたことで味方に回すことができた。それで塩も手に入れられたよ」
そんなこともあったようななかったような? 去年のことなのに遠い昔過ぎて思い出せんわ。
「それはなによりです。塩は戦略物資ですからね」
「戦略物資か。異世界からきたと聞いたが、あちらはかなり進んでいるそうだな」
「そうですね。軽く五百年は先をいっているんじゃないですかね? オレはしがない工房の作業員だったので、世界史とか経済史とかはそこまで詳しくありませんが。ただまあ、商売はほどほどが一番だと思いますよ。もちろん、他に勝るものはないって技術や先を見通せる目があるなら別ですが、そうでないのなら時代に合わせられる規模がいいと思いますよ。百年二百年って続く商会はそうありませんからね」
あまり儲けると敵視されるし、時代時代で戦争に巻き込まれている。よほどの集団でないと生き残るのは大変だろうよ。
……まあ、オレは秘密結社的なものを創ろうとしてんだけどな……。
「なかなか耳が痛いものだ。ミヤマランでも百年続く商会はないからな」
「一般的なことですが、初代で創り、二代目で傾き、三代目で潰れるって聞きますね」
たぶん、そんな言葉だったと思う。うろ覚えだけど。
「……実際、そうだな。三代目で潰していたよ……」
へー。この世界でもそうなんだ。
「世界は違えど後継者選びは難しいってことですね」
能力がある者に譲れたらいいが、それができないのが人間。失敗して潰れていくんだろうよ。
「後継者は早めに決めて育てるしかありませんね」
できたら苦労しねーよ、って、言われそうだがな。
「まあ、生まれたり消えたりするのは自然の摂理。摂理に飲み込まれたくないのならがんばるしかありませんね」
「そうだな。次に渡せるようがんばるとしよう」
隊商が持ってきたものを教えてもらい、新要塞都市で必要なものを買わせてもらうことにした。
「ここは発展しそうか?」
「そうですね。十年後には一万人くらいの都市にしたいですね。この周辺は川もありますし、開拓すればそれなりの田畑を作れるでしょう。食うものが増えれば徐々に街道沿いを開拓していく。三十年後は人も増えるでしょう」
オレが生きていれば六十歳。まだ現役でいれるはずだ。そこまで発展したらゴブリン駆除も楽になるだろうよ。
「そんな先まで見ているんだな」
「一応、五十年先までは見ています。後継者もまだ生きているでしょうからね」
そのためにはエルフと仲よくしておく必要があり、そのための秘密結社だ。そして、オレが死んだらまたダメ女神が駆除員を送り込んでくるだろう。
ダメ女神はクソだが、人選は間違ってない。性格的にマシな者を選んでいる節がある。なら、次のヤツにゴブリン駆除ギルドを託す。女神の使徒なら求心力はあるし、仮にクズでもチート能力を与えられてないなら排除もできる。
「ゴブリンが根絶やしにならない限り、女神は駆除員を百年毎に送り込んできます。百年後も商会を残したいのなら十年先、五十先を読んで動くことです。目の前の儲けに気を取られないことですよ」
オレでは五十年先までしか読むことはできない。その先は後継者に託すしかないんだよ。
「……公爵様がタカト殿をバケモノと言った理由がわかったよ……」
「オレはタダの臆病者ですよ」
臆病者故に保険を用意しておかないと不安になる。自分を安心させるためにもたくさん保険をかけておく必要があるんだよ。
────第17章終わり────
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