第828話 おいくら万円?

「まあ、挨拶はこのくらいにしてまずは旅の疲れを落としてください。ここまでくればロンレアまであと少しですからね」


 あとはなだらかな下り道。巨人が固めてくれたけら通行しやすいはずだ。


「モウラ。仕事は中断して隊商の手伝いをしてくれ。風呂も沸かして旅の汚れを落としてもらえ。手動式洗濯機の使い方も教えてくれ」


 大まかな指示をしたらあとはモウラに任せた。


「ロンダさん。話は夜に酒でも飲みながらやりましょう。食料はあるので隊員にしっかり食べさせてやってください」


「ありがとうございます」


「ラザルさん。回復魔法が得意な者を連れてくるので身を綺麗にしておいてください。それまではうちの者を惑わせないでいただけると助かります」


「そのあとならいいの?」


「構いませんよ。そちらはそれが商売でしょうからね」


 金も持ってこないとダメだな。ここじゃ金など使わないと思って給料は払ってなかったからな。


 ではと、ホームに入り、玄関のホワイトボードに伝言を書いた。


「──あ、タカトさん」


 書き終わったらタイミングよくミリエルが入ってきた。


「よかった。ミリエルに頼みたいことがあったんだ」


 新要塞都市に隊商がきたこと、娼館の女性がきたことを伝えた。


「性病を広められたら困るからな、回復薬で治してやってくれ」


 十六歳の女の子に頼むことじゃないが、モリスの民に関わること。それにはミリエルを関わらせておきたいのだ。


「わかりました。任せてください。でも、回復薬、そんなにありましたっけ?」


 あ、そうだった。常にあるものだと思っていたよ。


 仕舞ってある棚を見たら中二個、大三個あった。


「まあ、百四回もガチャやっていればこんなに出るか」


 オレとしてはオフシールが出てくれると助かるんだが、欲しいものはなかなか出ないのがガチャというもの。出たものを愛しましょう。


「よほど重傷な性病でもなければ回復薬中でなんとかなるだろう」


 いや、なったことはないが、酷いならこうして旅なんてできない。多少なりとも感染している者がいるってくらいだろうよ。


「入ったお湯は必ず熱湯にして捨ててくれ。絶対、次には使わせないこと。感染したらもともこうもないからな」


「詳しいんですね」


「一般常識内の知識でしかないよ。回復薬なしで治せとか言われてもオレには無理だ。性病はなかなか難しい病気だからな」


 オレだってそこまで詳しいわけじゃない。雑談で聞いたくらいのレベルでしかないさ。


「空気感染するものじゃないが、ホームに入ったら熱めのお湯で体を洗え。服はすぐに洗濯だ。オレたちはまだしも種が違うとどうなるかわかったもんじゃないからな。念には念を、だ」


「わかりました。移ることを伝えてきますね」


「ありがとな。難しいことばかりミリエルにやらせて」


 頼れるのがミリエルしかいないってのも問題だよな。女性相手だとオレじゃどうにもできないし……。


「大丈夫ですよ。わたしにできることならどんどん頼ってください。では──」


 すぐ出ていってしまった。


 ミリエルはそう言ってくれるが、やはり人手は増やしておくに越したことはない。ラザルさんを引き込むか?


 まあ、ミリエルが戻ってくるまで金と避妊具を用意しておくか。てか金、足りるかな?


「なんだかんだと金はいるもなだ」


 とりあえず、一人銀貨三枚と銅貨十枚くらいでいっか。てか、一晩のお値段っておいくら万円だ? これまでいきたいとも思わなかったから考えたこともなかったわ。


「まあ、カロリーバーでも配っておくか。念のため入れてたのがあるしな」


 館に出した分の他にコンテナボックス十箱は残してある。栄養薬とか言ってだに渡しておくとしよう。


 必要なものを玄関に集めていたらミリエルが入ってきた。


「ルースカルガン二号艇にくるよう指示を出しました。海魚を捕まえたので皆さんに振る舞いますね」


「漁ができるようになったのか?」


「湾内でできるようになりました。まあ、湾内なので小魚くらいですが」


「そっか。オレはまだ海を見ないほうがいいか?」


 なんでオレが海を見たらプレクシックを転移させることにしちゃったか。不便で仕方がないよ。


「そうですね。巨人に埠頭を直してもらっているのであと一月は見ないほうがいいと思います。館に置いてあるプレシブスは三艇は運びましたので湾内での漁ができてます」


「一月か。まあ、中継地もあるし、それでいっか。じゃあ、ダストシュートさせるな」


「はい」


 ってことでミリエルをダストシュート。オレも持てるものを持って外に出る。


 女性陣は風呂に入っていると思うからあとはミリエルにお任せ。オレはモウラを呼んでもらって給料を払うよう指示を出した。


「それを女のために使おうとモウラたちの自由だ。ただ、足りないときはこれをくれてやれ。味はいまいちだが、栄養だけはある。非常食となるから気に入った女にくれてやるといい」


 恐らく公爵はモリスの民の女性を集めてくれたはず。でなければ、こうして隊商と一緒にさせることはないだろう。そのくらいやるのがあのバケモノだ。


「必要なときはさらに金を出す。ミリエルに言えないことはオレに言え。可能な限り応えるから」


 将来の保険のためにもモウラたちにはがんばってもらいたい。そのためなら出費くらいかき集めてくるさ。


「ありがとうございます!」


「感謝はミリエルに返してくれ」


 オレが道半ばで死んでしまったときに、な。

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