第827話 男って生き物は
朝。少し曇り空で、今にも雨が降りそうだった。
「山脈で気候が変わるんだろうか?」
コラウスは乾燥してたのに、アシッカは少し湿った空気が満ちている。駆除員の流れてに気象庁の人はいなかったんだろうか? そういう知識を残して欲しかったよ。
古代エルフの人工衛星は地下に籠ってからのものだから気象を追うような機能がないんだよな。
「マリーダ。あとは頼むな」
引っ張り出してきたブラックリンに跨がり、見送りに出てきたマリーダたちに挨拶して飛び立った。
まず目指すは新要塞都市。まあ、まだ都市にもなってないが、アシッカとロンレアを繋ぐ重要都市になるところ。今から都市と名乗っても問題はないさ。
「ん? 熱源多数反応?」
反応する下を見ると、隊商の列が見えた。
「もう目指してんだ」
伝令は走らせているのでロンレアの情報を聞いて目指したんだろう。商人は行動力に優れた生き物だよ。
アシッカからまだ三十キロくらい。一泊目、って感じか。まだ先は遠いな。
隊商の少し上空を飛び越え、無事を祈るとばかりに手を振った。
見られたかわからないが、まあ、どちらでも構わない。新要塞都市のモウラに隊商が向かっていることを伝えておくとしよう。
アシッカから約百八十キロ。新要塞都市が見えてきた。
まだ砦くらいの大きさと言っていいが、物資補給はされ、PC01と軽トラダンプを置いてある。微々たるものでもないよりはマシ。多少なりとも楽ができるんだからいいだろう。
カラーン! カラーン! カラーン!
と、ブラックリンを認識したようで鐘が鳴らされた。
発着場にブラックリンを降ろすと、モウラたちが集まってきた。
「お疲れさん。皆元気そうだな」
「はい。快適に過ごしています」
「なにか足りないものはあるか?」
「ガソリンが少し足りないですね。あと、軽トラダンプからカラカラって音がしてきました」
「あー。そろそろオイル交換時期かもな」
買ってからオイル交換やってないしな。元々中古車だし。
「わかった。見てみるよ。五日後辺りに隊商がくると思う。水とか大丈夫か?」
巨人が井戸を掘ってくれたが、その後のこと聞いてないんだよな。
「問題なく出ていますね。飲み水には使ってませんが」
「それでいいよ。水質が安定するまでは体を洗うことに使ってくれ」
飲み水はタンクに入れて運んだり、ペットボトルで保管してたりする。足りているなら無理して飲むこともないさ。
「酒はどうだ?」
「飲みすぎなんで少し抑えさせています。ただちょっと、男ばかりなので不満は溜まっていますね……」
あーまあ、野郎ばっかりだしな。仕方がないちゃー仕方がないか。
「わかった。発散させるためのものを持ってくるよ。安全な小屋を建てておけ」
まずは軽トラダンプをホームに入れてオイル交換を開始し──する前に藁が邪魔だな。いくつか新要塞都市にも出しておくか。
「いや、雷牙、はりきりすぎ!」
出したら入ってくる藁の山。仕方がない。オイル交換は外でやるか。
巨人になって軽トラダンプを重ねたブロックの上に乗せ、オイル交換を始めた。
車にはそこそこ詳しいと思うが、整備士ほど知識や技術を持っているわけじゃない。簡単な点検だけしておく。壊れたら新しいのを買うとしよう。
あれやこれやをやっていたらあっと言う間に五日が過ぎ、カーン! カーン! と、鐘を強く叩く警報が出た。な、なんや!?
「マスター! 隊商です! 女がたくさんいました!」
隊商かよ! びっくりさせんなや!
「あ、あれか!」
「はい! どうしましょう!?」
「とりあえず小屋を封鎖して入られないようにしろ。あとは状況次第だ」
野郎どもの名誉を守るためだ。しばし封鎖するとしよう。
なんなん? とか訊くもんじゃありません。男には守らなければならないプライベートがあるんだよ。察してください。
「わかりました! 全員に通達します!」
一心同体となったときの男の団結力。理由が理由じゃなければ感動できたんだがな……。
野郎どもが迅速に動き、隊商を笑顔で迎い入れた。
……男って生き物は……。
まあ、提供したオレも同罪。タブレットに購入履歴が残らないタイプでよかった。
隊商が新要塞都市に入ってきた。
五日前に見た隊商であり、かなり長い列を作っていた記憶があるが、こうして入ってきた馬車の数を見ると、大移動って感じだな。よく食料があったもんだと思うよ。
「タカト様でしょうか?」
馬車の様子を見ていたら五十歳くらいの男と三十代の男、そして、年齢不詳の女がやってきた。
「ええ。一ノ瀬孝人です」
どうやらオレを知っているようだ。まあ、黒髪黒目で黒いプレートキャリアを装備しているからな、オレって。特徴を言うだけでオレってわかるだろうよ。
「マルズレ商会のロンダ・マルズレと申します。ミヤマラン公爵様の紹介で隊商を率いております。こちらはミヤム商会の後取りのルークス・ミヤム。こちらはミヤマランで娼館を束ねるラザルです」
「公爵様の紹介でしたか。随分と早く動いたものです」
「迅速に、とご命令でしたので」
「やはり敵にしたくない公爵様だ」
来年かな? と思っていたのに、数ヶ月で準備するとかどんだけできる人なんだか。ほんと、バケモノと仲良くするのは大変だよ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます