第826話 バブル

 結構村まで距離があった。


「うげぇぇぇっ!」


 二回ほどゲロりながらやって館に到着した。


 館の前には冒険者たちが集まっており、屋台でメシを食っていた。


「冒険者ギルドが引っ越してきたのか?」


 なんや? と思いながら館に入り、職員に指示を出しているシエイラに何事かと尋ねた。


「各町や集落に通達するために雇いました」


「あ、そっか。いちいち伝えないとダメだったな」


 メールが当たり前な世界からくると、伝達方法が疎かになるよな。そういう世界だとわかっていてもすぐ忘れちゃうよ。


「カインゼルさんの伝手で街方面はマルティル商会に仕切ってもらうよ。うちではコラウス全体を補うことはできないからな。協力できるか? できないならオレが出向くが」


「大丈夫ですよ。カインゼル様からマルティル商会の者を派遣してもらって職員としてますから」


「カインゼルさんも仕事が早い人だよな。あんな人が上司にいて欲しいもんだ」


「マスターが頂点なんだから部下を上手く使ってください」


 オレはトップって柄じゃないのによ。ハァー。


「わかったよ。バケツはすべて館に置いておく。溜まったらホームに運んでくれ。オレは戻るから」


 ここはシエイラが頂点として仕切っている。トップのオレがいても命令系統が二つになるだけ。下は混乱するだけなのでガーゲーに戻るとしよう。


「わかりました。お急ぎでないのならアシッカに藁を運んでもらえますか?」


「藁?」


「はい。ミジャーのエサになるので食べられるくらいならアシッカに運んで馬や家畜のエサにします」


 藁は館に集めてあるというので職員に案内されて向かうと、とんでもない量の藁が積み重ねられており、ブルーシートがかけられていた。


「ホームに運べるだけでいいそうですよ。ここならミジャーはきませんので」


 それはよかった。軽トラ五十台あっても運べない量を運んでたら夏が終わるよ。あ、今は真夏です。気温は二十八度しかないけど。


「パレットを出すからそれに二メートルくらい積んでくれ」


 ホームからパレット六枚とラップを出してきて、積むのは冒険者に任せることにした。


 冒険者たちも金が出ると聞いて喜んで積んでくれ、午前中には終わってしまった。


 報酬の払いは職員に任せ、フォークリフトでホームに運び込んだ。


「バイクでいくか」


 ブラックリンならすぐにアシッカにいけるが、バイクも乗らないと腕が鈍ってしまう。そう急ぐ用事もないんだからバイクで向かうとしよう。

 

 昼飯を食ったらX95装備に着替え、メルメットを被って出発した。


「ミジャー、スゲーな」


 村の表に出ると、空を覆うほどのミジャーが占めていた。


「なにも対策してなければコラウスは滅びていたかもな」


 そう思わせるだけの量であり、絶望的な光景だった。


 まあ、ミジャーは柔らかい植物を狙って寄ってくるので、来年に残す畑だけは網で覆い、他は呼び寄せるために犠牲にする。


 農民は文句の声を上げたが、そこは封建社会。上がやれと命令し、税金を免除すれば大抵の者は黙るしかないだろうよ。


 橋までくると、麻袋を積んだ荷馬車が渡ってきた。


「もう始まってんのかよ」


 今日の朝からだってのに、もう荷馬車一杯にミジャーを載せてくるとか早すぎんだろう。


 金を払って橋を渡り、ミスリムの町付近までくると、大勢の人がミジャーを捕まえようとして町の外に出ていた。


「こりゃ、ミジャーバブルになりそうだな」


 ここまで狂乱的になったらコラウス全土に広がるのもそう遠くないだろう。金、足りるかな?


 まあ、バケツに入り切れなくても涼しいところに置いておけば数日は腐ることはないだろう。仮に腐ったところでそのまま廃棄ダクトにほうり込めばいいんだから慌てることもないさ。


 がんばってくださいと、峠に向けてKLX230Sを走らせた。


 隊商が往来する時期ではないので止まることなく峠を越え、マイヤー男爵領に到着した。


 まだ十五時にもなってないのでそのまま街道を進み、暗くなっても走らせてアシッカを目指した。


 二十時前にはアシッカの支部に到着。支部長のマリーダに声をかけてからホームに入った。


 ラダリオンにしばらく戻れないことを伝えて早々に眠りについた。


 久しぶりにバイクに乗ったから腰が痛い。ミリエルに回復魔法をかけてもらった。


「ありがとな。ミリエルの回復魔法はよく効くよ」


「藁、ロンレアにももらえますか? 馬のエサがなくて困っていたんです」


「馬なんていたのか?」


「野生に還っていた馬です。今は調教しているところです」


 この世界の馬は逞しいんだな。魔物がいるところで十年以上繁殖し続けてんだから。


「雷牙。悪いが、藁をホームに運んでくれ。パレットに積んでな」


 フォークリフトは操れないが、ハンドリフトは使える。入れることは可能だ。


「わかった。じーちゃんに連絡してからやるね」


 よろしくとお願いし、今ある藁はアシッカに出した。


「マリーダ。藁を商人たちに配ってくれ」


「はい、わかりました。少し報告があるのでよろしいですか?」


「大丈夫だよ」


 さすがにロンレアまではバイクで走れる距離じゃない。体を休めるためにもマリーダから報告を受けるとしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る