第823話 ミジャー撲滅作戦

 バケツの中身を廃棄ダクトに捨てるだけで一時間はかかってしまった。いや、入りすぎ!


「入れることばかり考えて出すことを考えていなかったよ」


 格納庫の廃棄ダクト口が大きかったから流し込むだけで助かったが、小さかったと思ったら五分で挫折していたに自信があるわ。 


 ──ピローン!


 ん? 電子音? 打ち止めとか言ってなかったか?


 ──一万五千匹突破だよ! ミジャーを食べにゴブリンが集まり始めました。


 あ、コラウスのほうか。もう集まってきてんのかよ。結構な数が集まってきているようだな。


 ──でも、ミジャーを食べる前にゴブリンを駆除するのはいただけませんね。それだと作物の被害が大きなりますよ。あと、ロスキートの肥料はゴブリンを遠ざけるので使う場所は気をつけてください。逃げちゃいますんで。


 ん? この周辺にゴブリンがいないのって、ロスキートがいたからなのか?


 ──孝人さんとラダリオンが出会った方向からゴブリンは流れてきています。もう少し、あそこで粘ってくれたらゴブリンは減ってくれていたんですが……まあ、結果オーライ。未来は不変ということです。ガンバ!


 ガンバ! じゃねーわ! そんなんだから失敗してんだよ! 計画的にって言葉を知らんのか、ダメ女神が!


「クソが。なんであのダメ女神はいつも後だしなんだよ? 事前に知っておけば回避もできただろうによ」


 この怒りをどこかにぶつけたいが、ふと思考がロスキートの肥料がゴブリンを遠ざけるって言葉に飛んでしまった。


 ロスキートにはゴブリンを遠ざけるなにかがあるってこと。いや、そこじゃない。肥料だ。そこが大切なんだ。


 なんだ? 肥料のなにが気になるんだ? なんか名案的なことが浮かび上がったような気がしたんだが。


 ………………。


 …………。


 ……。


「そうか。ミジャーを肥料にしたらゴブリンは集まってくるってことか」


 正しいかはわからない。が、これはミジャーの被害を減らす効果もあるんじゃなかろうか? 試す価値はあるはずだ。


「マーリャさん。ちょっとホームに入ってきます。しばらく出てこれないと思うので、オレがどこかと尋ねられたらそう答えておいてください」


「わかりました。気をつけて」


 ルースブラックを入れたいところだが、まあ、ブラックリンで我慢しておこう。マナックは生産体制に入ったのだからな。


 ホームに入り、麻袋を大量に買い、アイテムバッグ化させたバケツをすべて玄関に並べた。


「金、どのくらいあったっけ?」


 この世界の金をいつでも使えるように、玄関と中央ホームの手提げ金庫に入れてある。


「銅貨が足りないな」


 銀貨を中心に入れておいたから銅貨が百枚くらいしかなかった。もっと細かくして入れておくんだったよ。


「ギルドにあるかな?」


 残りはギルドに置いてあり、管理もシエイラに任せてある。いくらあるか知らないんだよね。


「まあ、金以外にカロリーバーを渡せばいっか」


 コラウスには街以外に町や集落で暮らしている者もいる。収穫時期でなければ人手は割けられるはず。そこに麻袋にミジャーをいっぱいにしてきたらそれを銅貨一枚で買い取る。


 ミジャーは取り放題。元手タダで金儲けできるのだ、皆張り切るだろうよ。元の世界でも似たようなことあったみたいだからな。なんだったかは忘れたけど。


「タカト。どうしたの? 麻袋が山積みじゃない」


 タイミングよくシエイラが入ってきてくれた。


「ミジャーのことでちょっとな。今大丈夫か?」


 トイレにきたようなので、そちらから片付けてもらい、ミジャー撲滅作戦を伝えた。


「館に資金はあるか? ない場合は食料と交換とするが」


「資金は十二分にあるわ。商人たちからの寄付もあるからね」


「寄付?」


 なんで寄付されなきゃならんのだ?


「タカトが商人の味方だからよ。よりよい商売をさせてもらえるようギルドに寄付しているの。ただでさえタカトは商人からお金を取らないからね。寄付という形で返しているのよ」


「商人が自主的に動いてくれたほうがオレとしては楽でよかったんだがな」


 こちらとしては声をかけただけ。商売は自費でやってくれているんだからこちらとしては運ぶ手伝いをしなきゃ申し訳ないって感じなだけだ。


「まあ、資金があるなら問題ないな。職員には申し訳ないが、あとでボーナスを渡すとしよう。ここの金になっちゃうがな」


 金があっても使い道がない。いいものはゴブリン駆除報酬で買ったほうが優れている。ここの金を渡されても困るだけだろうけど。


「そんな必要ないわよ。ただでさえタカトは払いすぎなんだから」


「払いすぎって、見合った仕事には正当な報酬を、ってだけなんだかな」


「タカトの世界ではそれが当たり前でもここでは過剰なのよ。わたしも恵まれすぎてお金が無価値に思えてきて困っているんだから」


 価値観の違いは本当に面倒だよな。なんで恵まれていることで責められにゃならんのよ?


「とりあえず、タカトのやろうとしていることはわかったわ。ギルドとして進めておく」


「頼むよ。オレも一回コラウスに出るよ。カインゼルさんにも情報を伝えておきたいからな。雷牙が入ってきたらダストシュートしてもらうよ」


「わかったわ。巨人たちとゴブリン駆除に出ているから食事のときに入ってくると思うわ」


「そっか。じゃあ、それまでガレージの整理でもしておくよ」


 もちろん、せっかくの時間を有効に使うためにビールを飲みながら、な。

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