第822話 ルースブラック(五号艇)

「エレルダスさん。火炎放射で泡を払ってください」


 山火事になるほど乾燥しているわけじゃない。どちらかと言えば湿っている。火炎放射しても問題はない。魔石もちょっとやそっとの炎で燃えたりもしない。魔石、結構硬いんだよ。


「わかりました」


 エレルダスさんが汚物を消毒している間に、アリサたちに水をかけてもらい、防護服についた汚物を洗い流してもらった。汚物まみれでホームには入りたくないからな。


 綺麗になったらホームに入り、防護服からX95装備に着替え、水が入ったポリタンクを五つくらい外に出した。


「ラダリオン。防護服を洗うな」


 防護服を着ているので小さくなれる腕輪を使うことができないのだ。


 水魔法でラダリオンの防護服を洗ってやり、水分を飛ばしたらホームに入ってもらった。


 ぐぅ~と腹が鳴る。あ、巨人になれる指輪をしたままだったよ。


「アリサ。悪いが皆で交代で巨人になってこの辺を拓いてくれ。ルースカルガンを持ってくるから」


「わかりました。装備は外したほうがいいのですよね」


「ああ。栄養剤を持ってくるから試しながらやってくれ」


 ホームに入り、栄養剤やマチェット、スコップを持って出た。


「エレルダスさん。中継地に戻りましょう。ロスキートの生き残りがいるかもしれませんから中継地を守ってください」


 中継地では技師さんが一人で残っている。古代の技術を知っている人になんかあったら大変だ。エレルダスさんを戻しておこう。


「やはり、護衛できる者を連れてくればよかったですね」


「まあ、いざとなれば一号艇で逃げ出してください。命さえあるばどうとでもなりますからね」


 いつでも逃げられるようわざと人を連れてこなかった。でも、ここを片付けたら開拓してもらう者を連れてくるとしよう。都市国家なら仕事に溢れているヤツはいるだろうからな。


 機動歩兵のバックパックに乗せてもらい、中継地に戻り、五号艇──ルースブラックでとんぼ返りした。


 順々に巨人となって拓いてくれたんだろう。ルースブラックが降りられて、キャンプできるくらいの広さを確保してくれていた。


「アリサたちは休んでくれ。ラダリオン。ホームから料理を持ってきてくれ。オレは水分を飛ばしてくるから」


 まだ魔力は残っている。あるうちにロスキートやローダーから水分を吸い取って乾燥させておこう。


「あ、酒も頼む。アリサ、悪酔いしないていどに飲んで構わないから」


 ルースブラックの中で寝れば見張りもいらないからな。まあ、用足しに外に出なくちゃならんけど。


「手伝うことがあればやりますよ」


「大丈夫だ。明日に備えて休んでくれ」


 明日は死体漁り。心身ともに休ませておいてくれや。


 残り火がないかを確認しながら水分を吸い取って遠くへ飛ばしていった。


 暗くなるまで続け、ルースブラックに戻って皆とビールで乾杯。ほんと、エルフって酒好きだよな。


 明日もあるのでほどほどに。女は操縦室で。野郎は格納デッキで眠りについた。


 誰もトイレにいかなかったようで、朝にはトイレラッシュ。我慢しないで出ればいいじゃないの。


「魔物が現れた感じはないな」


 ルースブラックの周りを歩き、魔物の足跡は見て取れなかった。てか、魔物が襲ってくることがなかったっけ。いや、ロスキートの巣の近くに中継地を築こうとしたオレが間違っているだけか。


「朝飯食ったら魔石を集めてくれ。ラダリオンは死体集めな。オレは死体をガーゲーに運んで肥料にしてくるよ」


 アイテムバッグ化したバケツは五つある。


「キャンプ用品は置いていく。休み休み無理しないていどにやってくれ。そう急いでいるわけじゃないからな」


「わかりました」


「マスクと手袋、なにか異常があれば回復薬を飲めよ」


 アリサたちの防護服も持ってくるか。いっぱいあるんだからな。


「わかりました」


 巨大バケツをルースブラックに入れ、ガーゲーに向かって飛んだ。


「飛ぶと一瞬だよ」


 百キロなのに、飛んでいる時間は三十分も過ぎてない。もっと魔力を消費させたら十五分で飛ぶことも可能だ。


「便利なものに慣れすぎだな」


 まあ、だからって不便な頃に戻りたいとは思わないけど。


 自動化がされて格納庫に入るのに管制とやり取りする必要はない。ボタン一つでルースブラックが行ってくれる。下手に手動だと事故が起こるそうだ。


 格納庫に入ると、マーリャさんとマリン、そして、カレンが迎えてくれた。


 エルガゴラさんがマリンとカレンを置いていくと言ったので、マーリャさんのメイドにしてもらったのだ。一人じゃ大変だからな。


「お帰りなさい。順調ですか?」


「はい。ちょっと邪魔は入りましたけどね。ここに魔物の死体を肥料にできる施設があるとエレルダスさんに聞いたんですが、そんなものありましたっけ?」


「ああ、廃棄ダクトのことですね。あそこに入れると自動的に肥料にしてくれますよ。食料になることもありますが……」


 マーリャさんも魔物が食料になるのは嫌そうだ。


「食料にならない方向にできます?」


「できますよ。そう設定を変更しますね」


「よろしくお願いします」


 設定変更はプランデッ卜で可能らしく、変更許可が出たら廃棄ダクトにロスキートの死体を放り込んだ。

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