第821話 クソったれな世界

 ラダリオンのところまでくると、襲撃はなかったようでロスキートから魔石を取り出していた。


「ラダリオン、ご苦労さん。ホームに入って一休みしてこい」


 疲れた様子は見て取れなかったが、これからカチコミするのだ、万全でいくことにしよう。


「オレも支度をしてくる。それまで休憩しててくれ」


 一分でも多く巨人で戦えるよう食事と栄養剤を補給しよう。


 指揮はエレルダスさんに任せてラダリオンとホームに入った。


「虫の巣にはいるから防護服を着ておけ。変な毒とかあったら困るからな」


 カブトムシやミミズくらいなら触れるが、だからと言って好きと言うわけじゃない。カマキリみたいなものの体液や肉片を浴びるとか嫌である。


 防護服を着たら魔法が施されていないMINIMIを選び、箱マガジンを二つ持った。サブとしてファイブセブンを装備して換えのマガジンは二つだけにした。


 なるべく巨人でいられる時間を考えたらこんなものだろう。精密機器系や高度な魔法系は本当にエネルギーを消費する。もっと燃費よくしてもらいたいもんだ。使う場所が限定すぎんだよ。


 用意ができたら外に出て方向を確認。百メートルまで……近づけなかった。ロスキートが待ち構えていた。


「薙ぎ払え!」


 一度は口にしてみたいセリフを叫んだ。


 機動歩兵のミサイルが発射され、待ち構えていたロスキートどもを吹き飛ばした。


「皆、撃て!」


 アリサたちもEARを構えて一斉射撃。次々とロスキートを薙ぎ払っていった。


 すべてを撃ち切ったら巨人になる。


「ラダリオンは右手! オレは左だ!」


「わかった」


 泡で覆われた巣から十メートルサイズのローダーが出てきた。


 MINIMIを構え、左側のローダーに大砲並みになった弾丸を放ってやった。


 さすがのローダーもこれだけの威力になればボロ雑巾のようゆ千切れていき、なす術もない。これならP90でもよかったかもしれんな。


 百発を撃ったら箱マガジンを交換。二十秒くらいかかったのに、ローダーはこちらを恐れてか襲ってくることはなく、泡の中に隠れてしまった。


「エレルダス! 泡の中心に砲弾を放ってください」


 爆発するものじゃないが、戦車の砲弾並みに飛ばせるもの。堅いものに守られてない限り、有効打となるはずだ。


「ラー!」


 咄嗟だと誰もラーって答えるんだな。


 その間に箱マガジンを交換。バレルが熱を帯びているが、まだ破裂するような感じではない。それより一匹でも多くローダーを倒すのが先だ。


 泡の中に向けて弾丸を吐き出した。


 弾が切れたら巨人を解き、バレルを外して土の上に置いた。


「二人か三人になって生き残りを始末しろ! ただし、泡には近づくな! ラダリオン、先に補給してこい!」


 オレはファイブセブンを抜いて泡のほうに向けて警戒する。


 しばらく待つが、EARの発射音が耳に届くくらいで、ローダーの鳴き声などは聞こえない。ただ、硝煙が視界を悪くしていた。


 五分十分と時間は流れ、十五分くらいしてラダリオンがAAー12を装備してきた。


 ラダリオンがうんと頷き、MINIMIをつかんでホームに入った。


 防護服のヘルメットはバイザーが上がらないタイプなので、水を飲むことができない。長時間活動できるよう生命維持装置もついているから相当動かないと水分不足になったりしないんだよな。


 水が力の源みたいなところがあるオレにはやや不利なものだな。疲れ難いが、エネルギーを補給することができない。故に、栄養剤も飲めないのだ。


 ベネリM4をつかみ、ダンプポーチがついたベルトをして弾は適当に詰め込んだ。


 弾を詰め込んだら外に出て、ラダリオンを見ると、了解とばかりに頷いて泡に向かって歩き出した。


 直感力でラダリオンに勝る者はいない。大丈夫と判断して泡の中に入った。


「タカト、大丈夫!」


 しばらくして泡の中からラダリオンの声がした。


 なら、問題ないとオレも泡の中に入った。


 バイザーは曇ることもなければ水滴がつくこともない。白い泡の世界を抜けると、ローダーやらロスキートが死んでおり、デカい木についていた卵が割れて幼虫らしきものが落ちていた。


 モザイク処理が必要なくらいグロい。この世界にきた頃だったら虹色のものをリバースしていたことだろうよ。


 ……まったく、オレも精神的に強くなったもんだぜ。気持ちワリーってくらいにしか思わないんだからよ……。


「タカト。あれ……」


 ラダリオンがAAー12で差す方向に、ブヨブヨしたローダーが崩れ落ちていた。


「……あれが女王か……」


 ただ、卵を産むだけの存在なんだろう。とても歩けるような体格ではなかった。


「ラダリオン。念のため、何発か撃ち込んでくれ」


 死んだかどうかわからないのだから用心のために撃ち込んでおくべきだろうよ。


「わかった」


 頭から下に向かって鳥撃ち用の弾をぶち込んでいった。


 他に生き残りがいないかを探し、形が残っているものは遠くから撃って死んでいるかを確かめていった。


「やっていることは押し込み強盗だよな」


 平和に暮らしているところに押し入り、魔石を奪っていく。まあ、弱肉強食なこの世界。弱い者に生存権はないってことだ。


「クソったれな世界だよ」


 ダメ女神の本質が出てい感じだぜ。

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