第816話 ブレット一家
悪ガキどもを一列に並ばせ、両膝を地面につかせた。
「ここを仕切るヤツ、出てこい! 出てこなければここはあたしらがここを仕切らせてもらう。嫌ならさっさと出てこい!」
タカトならどうやっただろう? なんてことを頭の隅で考えながら叫んだ。
とーちゃんたちには隠れてもらっているので、ナメたヤツらがわらわらと出てきた。
……ほんと、野生をなくした獣人どもだ。あたしらも気をつけないとな……。
「なんだガキ! 殺されにきたか!」
そんな脅しに投げナイフで返してやった。
まともに膝に直撃。情けない悲鳴を上げた。脆いな。とーちゃんたちなら筋肉で弾いているぞ。
「獣人って、ここまで弱くなるんだな」
病気や加齢で弱くなるけど、三十くらいの男がここまで弱いとは思わなかった。退化ってヤツ?
「やるなら覚悟を持って挑んできな。容赦はしてやるから」
集まってきた十数人が棒やらナイフやらを構えた。そんな武器しかないの? よく挑んできたものだ。温すぎる。
一斉にかかってくるが、とーちゃんたちはもう男どもの後ろに現れていた。
一秒もかからないうちに男ども伸してしまった。手加減するのも大変だ。
伸びた男どもを後ろ手にインシュロックで固定してやった。
「外に誘き出してからのほうがよかったかもね」
「夜に運び出せばいい。あそこならルースカルガンを降ろせんだろう」
確かに。いい感じの広場だ。あれなら問題なく降ろせるな。
「まだ抵抗したいヤツがいるならさっさときな! こっちは暇じゃないんだ、こないならこっちからいくよ!」
女衆を待たせてんだ、暗くなる前に終わらせるよ。
「とーちゃん。いい家に突入して引き吊り出してきて」
ボロ屋が並ぶところでいい家に住んでいたらそいつがボスだ。違ったら違ったで構わない。誰がボスか教えていただきましょう。
「了解。二人は残れ」
八人で向かい、しばらくして十五人くらい連れてきた。
「どいつがボス?」
「こいつだ」
と、白髪の男があたしの前に出された。
年齢は五十くらいだろうか? 強そうな感じではない。頭で仕切っているのか金で従わせているのか、街で集団を作るにはこういうのがいいんだろうな~。
「二度は問わない。あたしたちに従うか、敵対するか、好きなほうを選ばせてあげる。どっちを選ぶ?」
投げナイフを抜いて男の額に突きつけた。
「……し、従った場合、わしらはどうなるのだ……?」
「女老人に関係なく仕事を与え、望む者は傭兵団の一員とする。まだここの価格を知らないからなんとも言えないけど、傭兵には三食腹一杯食わせてあげる。給金は一日銅貨五枚。努力次第で給金は上げる。従わない場合は、強引に連れていって若いヤツは全員傭兵にする。女や老人には食事の用意をさせる、だね」
もちろん、働いたら給金は出すよ。あたしたちはゴブリンじゃない。強引に仕事を与えてしっかりと給金を与えさせてもらいますよ。
「……どちらも同じだろう……」
「自らやるか、他者から強要されるか。だいぶ違うじゃない」
まったく違うもの。成果だって違うものになる。
「ここで獣人がどう扱われているか知らないけど、ここを見る限り、そう恵まれてはいないのはわかる。あたしらも獣扱いされ、誇りを踏みにじられ、不当に殺されてきたからね。でも、今は違う。あたしらの誇りを取り戻し、抗える力をくれた人がいる。獣から人にしてくれたんだよ。これは獣人に与えられた好機だ。獣ではなく人になる機会だ。自ら選べ。誇りを取り戻せ。そのまま獣でいたいなら一生地べたを這いずり回っていろ」
やっぱりあたしはタカトようにはやれないや。利で説得できない。精神的なことしか言えないや。
「……わかった。お前に従おう……」
「それが人の言葉なら信じよう。でも、薄汚い獣の考えだったとき、あたしはゴブリンとして迷わず駆除するよ。それがあたしたちの存在理由だからね」
とーちゃんたちに目配せして男を解放させた。
「あたしは、ビシャ。ゴブリン駆除ギルド、セフティーブレットの一員。都市国家方面派遣部隊を任された者だよ」
「……マグッス一家を仕切るロベスだ」
「他にも一家はあるの?」
「あるにはあるが、一番デカいのはうちのマグッス一家だ」
つまり、他は有象無象ってことね。なら、放置しても構わないか。一番大きいところを抑えたらあとは合わせるしかないんだからね。
「じゃあ、これからはブレット一家って名乗ること。で、あたしが家長。ロベスは代理家長だ。とーちゃん、あたしは三号艇を持ってくるから必要なものを聞いておいて。女衆をこちらに向かわせるから」
とーちゃんたちだけでは心許ない。女衆にきてもらうとしよう。こーゆーとき、頼りになるのは女だからね。
「あと、病人がいたら回復薬を使って構わないから。タカトから一瓶もらってるからさ」
万が一のときのためにと、回復薬中を渡された。必要なら使い切っても構わないとも言われている。ここを掌握できるなら安いものだ、ってタカトは言うでしょうね。
「わかった。場所は空けておこう」
よろしくと、ミロット酒場に向かって走り出した。
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