第815話 未来を預ける
バン! と、柄の悪いヤツらが入ってきた。
あたしと同じくらいの年齢だろうか? 獣人の男の子なんて久しぶりに見たわ。
ゴブリンどもが襲ってきたとき、血気盛んな年代は無謀にも突っ込んで殺されてしまい、あたしより下しか生き残れなかった。
今は集落──イチノセに町を作ると言うので各集落から集まっているけど、セフティーブレットにはいない。大体がとーちゃん世代ばかりだ。
……今年か来年には新しい世代が産まれるだろうけどね……。
「マヌカ! 酒はあるか!」
「あるけど、今までのを払ってからにしてよね!」
よくくる悪ガキどもなのか、ズカズカと入ってきた。
どこにでもイキるヤツはいるけど、イキる意味を履き違えたヤツばかり。そこに種族や場所に違いはないんだな~。
マヌカをつかもうとした手を払い、間に入った。
「なんだテメー! 邪魔すると痛い目にあわ──」
その先は言わせない。やると言うなら先手必勝。悪ガキの腹に一発噛ましてやった。
「痛い目がなんだって?」
気配や動きから相手の技量を推し量ることはできる。こいつら、全然ダメだ。本当に獣人なの? これなら五歳(ニャーダ族年齢)の子でも勝てるぞ。
「野郎!」
技量もなければ戦い方も知らない。こんなんじゃゴブリンですら倒せないぞ。
五人が一斉にかかってくるのもいただけない。数で押し切れるのは連携があってこそ。考えなしの突っ込みなど脅威でもなんでもないよ。
一発も当たることなく一撃で悪ガキどもを沈めてやった。
アイテムバッグからインシュロックを出して悪ガキどもを後ろ手で固めてやった。
「こいつら、どこに突き出せばいいの?」
「……まだ、なにもしてなかったから注意で終わるかも……」
言われてみれば確かに。なにかする前にあたしが痛い目に合わせちゃったね。
「こいつら、親とかいる?」
「貧民街の不良たちだからいないかも」
「じゃあ、二度とこの店に手を出さないようお話してくるか」
店に迷惑もかけられないしね、あたしに攻撃が向くようにしておくとするか。
悪ガキどもをロープで繋いでいると、女衆がやってきた。もう買い物が終わったの?
「ビシャ、どうした?」
「悪ガキを懲らしめただけだよ。今から二度と反抗できないように教育してくるよ」
「それはいいな! 皆、おれたちも教育してやるとしようじゃないか」
買い物で鬱憤でも溜まっているのか、やる気満々であたしの声も聞こえなさそうだ。
「じゃあ、悪ガキから場所を聞いておいてよ」
さすがに女衆を連れていくと貧民街が血で濡れる恐れがある。ここで待っててもらうとしよう。
「マヌカ、女将さん。悪いけど、うちの者に料理を出してやってよ。代金はお酒で払うからさ」
とーちゃんにお酒を出させ、女衆にはここで待っててもらうようお願いした。
「とーちゃん。殺しはダメだからね。教育するだけだよ」
「わかっている。殺していいのはゴブリンだけ。人は殺さず有効利用しろ、だろう」
それはタカトの教えであり、セフティーブレットのモットーでもある。
「そう。あたしたちは人だ。ゴブリンに堕ちるわけにはいかない。タカトに恥じぬ人でなくてはならない、だよ」
これはニャーダ族の総意。タカトはニャーダ族の誇りを守るために同族を殺した。自分の罪悪よりあたしたちの誇りを優先してくれたのだ。それは返し切れない恩である。
故に、ニャーダ族はタカトの誇りを絶対に守らなければならない。あたしたちが破るわけにはいかない。タカトと生きるために新たに得たニャーダ族の掟であるのだ。
「だが、どうするんだ? おれたちのように強い体を持っていないようだが」
「ないのなら鍛えてやればいい。腐っても獣人。野生を目覚めさせたらいいだけさ」
街での暮らしに慣れ切ったから鈍っただけ。なら、自然の中で思い出させてやればいいさ。
「タカトに傭兵団を用意する」
「傭兵団?」
「そう。大きな戦いになったとき、タカトの力としてあたしたちが用意しておく。ニャーダ族だけではどうしたって足りない。獣人って括りで纏め上げる」
タカトは言わないけど、万が一、王国と戦うことも視野に入れている節がある。そうなったときのためにもあたしたちも戦力を増やしておく必要があるのだ。
「あたしたちはタカトの牙であり爪。先陣を進むのはあたしたちだよ。エルフやドワーフ、巨人には譲れないよ」
そう言うと、とーちゃんたちの気配が変わった。
「やはりお前はタカトに選ばれるだけはあるな。もうちょっと先にしようかと思ったが、今からお前がニャーダ族の長だ。これは、ニャーダ族の総意でもある。お前にニャーダ族の未来を預ける」
「はぁ!? なに言ってんの?!」
いやいやいや、あたし、まだ十五になったかならないかだよ? 長とかあり得ないでしょっ!!
「これは皆で考えていたことだ。本当はライガにしようかと考えたが、おれたちはライガは忌み子として当たっていた。とても長になってくれとは言えない。だが、お前はタカトからの信に厚い。これからもニャーダ族がタカトの側にいるためにはタカトに近い者が長になったほうがいいのだ」
「そうだ。おれたちはお前を長と認め、どんな命令にも従う」
「まあ、お前はタカトの教えを受けているから無茶な命令はしないだろうがな」
「それでもタカトを守るためならおれたちに死んでこいと命令しろ。おれたちは全力でお前の命令に従おう」
歴然の男たちの目があたしに集中していた。
とーちゃんたちの考えがわからないではない。一族の未来がタカトにかかっているとわかっているから近くにいるあたしを長にしておきたいんでしょうよ。
「ハァー。わかった。でも、あたしは生きろと命令するよ。死ぬくらいなら逃げるからね──」
「──安全第一、命大事に。それがセフティーブレットのモットー、だろう」
わかってんなら絶対に従ってもらうからね!
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