第814話 ミロット酒場

 屋台で買い物しながらミロットって酒場までやってこれた。


 なかなか大きな店で、酒場ってより料理屋に近いかもしれないな。


 中に入るとテーブルがいくつもあり、お客さんがちらほらといてカードゲームしていた。


 ……トランプかな……?


 百年に一回、異世界から駆除員を連れてきてるからか、異世界のものが広がっていたりするとタカトが言っていたっけ。


「いらっしゃい。食事ですか?」


 あたしより下くらいの獣人の女の子がやってきた。


「うん。肉料理と持ち帰れる料理を五人前くらいお願いできる? 銀貨二枚くらいで」


「大丈夫ですよ。ちょっと時間はかかりますけど」


「時間はあるから大丈夫。よろしくね」


 席に座り、店内を見回した。


 長いことここで商売しているようで、年月を感じる造りだ。並べてあるものも年季がありそうだ。


 しばらくして肉料理が出てきた。


「なんの肉?」


「羊の肉です。街に入れられなかった羊をシメたのでたくさんあるんです」


 へー。そういうことがあるんだ。


「じゃあ、追加でお願い。串焼きにしてくれる? 入れ物はこちらで用意するからさ」


 アイテムバッグがあるので腐ることもない。タッパーも安いし、大した出費にもならないわ。


「とりあえず、これでお願い」


 銀貨を一枚渡した。


「おねーさん、冒険者なの?」


「ゴブリンを駆除する者だよ」


「じゃあ、他の国からきたっていうのはおねーさんたちのこと?」


「そうだよ。ソンドルク王国って知ってる?」


 あたしはタカトたちと出会うまで全然知らなかったよ。


「名前までは知らないけど、森の向こうに国があることならウワサで聞いてるよ。遠いの?」


「そうだね。とっても遠いよ。あたしらは魔法の乗り物があるからやってこれたけど、歩くとなると何十日とかかるかもね」


 まず情報を得たいのならこちらの情報を教えるものだとアルズライズに教わったよ。


「商売は元に戻った?」


「まだまだだね。冒険者たちはゴブリンの片付けに出て、帰ってきてないから」


 ゴブリンの片付けはアルゼンス主導でやっている。拠点をいくつか作って泊まり込みでやっていたっけ。ご苦労様です。


「籠城するとなにが足りなくなるの?」


 上客と思ったのか、獣人の女の子は厨房に戻らずあたしの話を聞いてくれるので、アイテムバッグからビスケットを出して食べさせた。


「んー。足りなくなるって言うか、回らなくなるって言ったほうがいいかな? 仕事がなくなるし、治安が悪くなるし、外に出ることもできなくなる。長引いてたらどうなっていたことやら」


 そういや、アシッカも似たようなものだったっけ。どんなに頑丈な壁で覆っても街ってのは脆いものなんだ。まあ、だからって壁のない生活も大変だったけどさ。


「マヌカ! できたよ!」


 厨房から声がして、目の前の女の子が戻っていった。マヌカって名前なんだ。


「お待たせ。羊肉の串焼きだよ」


 意外と大きいんだね。入るタッパーあるかな?


 請負員カードを出して二十センチくらいある串焼きが入るタッパーを探した。これか?


 とりあえず買ってみて串焼きを収めてみた。いや、串から外せばいいだけか。あたし、頭悪すぎ。


「これならもっといけるな」


 あたしのアイテムバッグはダンプポーチにしてもらったので、結構大きいサイズのものまで入れられる。買ったタッパーもすんなり入るサイズ。容量もあるので、あと十はいける。


 とは言え、さすがに手持ちが残りわずか。あとは、女衆がきてからでいっか。


「ここってワイン──葡萄酒とかある?」


 あたしはまだ飲みたいって年齢ではないけど、女衆たちはお酒の味を知ってしまい、結構飲むようになった。肉料理ならきっとワインを飲みたくなるでしょうよ。


「うちは酒場だよ。あるに決まって──ないんだよね、これが」


 これがノリ突っ込みってヤツか?


「門が開いたことで弾けたんだろうね。もう我慢することはないってガバガバ飲んじゃって、安酒も残ってないんだ」


 あー。それ、アシッカでもあったな~。てか、タカトが酒を振る舞っていたっけ。まず溜まっていたうっぷんを晴らして気持ちを切り替えさせるって。


 ほんと、タカトって人の心を操るのが上手いよね。あれはもう才能以上の特殊能力なんかじゃないかと思うよ。


「じゃあ、持ち込みいいかな。お礼にいくつか店にあげるからさ」


「お酒、持っているの?」


「そこまで高いお酒じゃないけどね」


 ほとんどをルートさんに渡したけど、請負員カードで買えばいいだけ。安いワインなら大した出費じゃないしね。


 三百円のワインを買ってテーブルに並べた。


「女将さぁーん! お客さんがお酒売ってくれるって!」


 マヌカが厨房に向かって叫ぶと、恰幅のいいおばちゃんが出てきた。


「酒を売ってくれるのかい?」


「安いお酒だけどね。まあ、あまりここの貨幣を知らないからいくらとは言えないけど、食事一回分くらいの値段のヤツだよ。味見して」


 ここでの評価がわからないので飲んでもらった。


「これが安酒なのかい? かなり上物に思えるんだけど」


「あたしたちのところでは安酒だよ」


 値段が安いってだけ、ってことだけどさ。


「いくつ売ってくれるんだい?」


「三十本は大丈夫だよ」


 たくさん出すと貯められちゃうからね。十五日で消費できる量にしておきましょう。


「じゃあ、それで頼むよ。酒場に酒がないのは洒落にならんからね」


 契約成立。一本食事一回分の値段で売った。

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