第813話 買い物

 前線基地に戻り、女衆に買い物しないかと誘ったら全員がいきたいと声を上げた。


 とーちゃんたちが稼いでいるから暮らしにも困らないし、物にも不自由してない。誘っておいてなんだが、なんか欲しいものでもあるの?


「買い物するのが楽しいのよ!」


 尋ねたらそんな答えが返ってきた。


 ちょうど帰っていたとーちゃんたちにどういうことだと目を向けるも、関わりたくないとばかりにあたしの視線から逃れてしまった。


 ……男はこーゆーとき役に立たないよな……。


「じゃあ、明日。朝に出発するね」


 そのためにもラダリオンねーちゃんにロンレア産の塩を運んできてもらい、三号艇に積み込んだ。


「ビシャ。あたしは中継地にいくからしばらく塩は運べなくなるから」


「なんかあったの?」


「タカトが中継地にバッテリーを設置するから手伝って欲しいって」


 あー。そう言えば中継地も築いていたっけね。皆きてるから忘れてたよ。


「そこにゴブリンはいるの?」


「主に魔蟲がいる感じ。ゴブリンは少ないっぽい」


「魔蟲か。あたしはあまりいきたくないな」


 別に嫌いってわけじゃないけど、毒とかあるから極力触りたくはないね。


「あれは潰すとおもしろい」


 ……たまにラダリオンねーちゃんって残虐性を見せるよね……。


「タカトが迎えにくるの?」


「いや、こちらからいく。簡単な道を作ってくれっていわれてるから」


「こっからでも百キロは離れてない?」


 巨人の足でも百キロは相当だよ。


「問題ない。オタク爺に身体強化の魔法をかけてもらったから」


 ラダリオンねーちゃんに身体強化って、もはや無敵じゃない? グロゴールですら単独で殺せそうだよ……。


「そ、そう。気をつけてね」


「うん。しばらく中継地にいるからなんかあったら呼びにきて」


「わかった」


 軽く柔軟体操をしたらワイヤーカッターみたいなのを振り回しながら森の中に消えていった。


「……重機も真っ青だね……」


「ビシャ! 用意できたよ!」


 おっと。女衆を都市に連れていくんだったっけ。


「じゃあ、お金を渡すよ」


 銀貨を五枚。銅貨を二十枚ずつ女衆に任せた。


「とーちゃんたちもいくの?」


「荷物持ちでな」


 それはご苦労様です。がんばってくださいませ。


 皆を乗せたら出発。すぐに到着して、見張りをミシニーにお願いした。


「飲みすぎないでよ」


「酒は飲んでも飲まれたことはないよ」


 ほんと、あれだけ飲んで体を壊さないんだからエルフの体ってどうなってんのかしらね? ってまあ、壊れたところで回復薬で治るんだけどね。


「なにをいくらで買ったか覚えておいてね。これは物の価値を知るためなんだから」


「大丈夫よ。これでも金の使い方くらい学んだからね」


 確かにもう狩りで生きることはなく、駆除の報酬だけでは生きていけない。商人から買う必要があるからお金の使い方はわかるだろうけど、貨幣価値が違うんだから騙されたりしないでよ。


 心配になるが、まあ、とーちゃんたちもいる。好きにさせるか。ニャーダ族はもっと街での暮らしを学ばなくちゃならないんだからね。


 門番のところにいって入れるかを訊くと、都市の出入りは自由のようだ。外から攻めてくる国もないので、悪さをしない限り止める法はないんだってさ。


「中で悪さをしたら檻に入れられる。それを忘れるなよ」


「悪さをされたら抵抗してもいいの?」


「殺したり過剰にやり返したりすると捕まると思え」


 へー。しっかりとした掟があるんだ。確かに、都市は綺麗で悪そうなヤツは見て取れなかった。表立って悪さをするヤツはいないみたいだ。


「都市の情報とか誰に聞いたらいいの?」


「ミロットって酒場にでもいっておしゃべりなヤツに聞くといい。真っ当な商売をしているところだから」


「随分と親切なんだね?」


 あたしが訊いたことを教えてくれてるよ、この人。


「お前たちのお陰で救われたからな、その礼だ。あのままだったらおれたちも戦いに駆り出されていたからな」


 一万ものゴブリンが都市を囲んだら総力戦か。アシッカでも一般人が弓を射っていたし。


「ありがと。ミロットにいってみるよ」


「ああ、気をつけてな」


 門番と別れ、まずは市場みたいなところに向かってみた。


 オートマップでアルゼンスの配置は頭に入れてあるので迷うことはないんだけど、脅威が去ったことで商売も活発になり、屋台がたくさん出ていた。


 それに興味を持った女衆が吸い込まれていく。


「とーちゃん。あとは頼んだよ。あたしは、ミロットって店を探すからさ」


「一人で大丈夫か?」


「タカトじゃないんだから厄介事には遭遇しないよ」


 あたしって、そういうのにまったく遭遇しないんだよね。ってまあ、だからって油断するつもりはないよ。セフティーブレットのモットーは安全第一、命大事に、だからね。


「プランデットはオンしておいてね。ミロットって店を見つけたら信号を送るから」


 いい店だったらセフティーブレットの拠点宿にするといいかもね。アルゼンスにも支部を作りたいってタカトが言ってたし。


「じゃあ、女衆を頼んだよ」


 ゴブリン駆除より大変だけど、まあ、がんばってちょうだいな。

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