第811話 卑怯

 ゴブリンどもに拐われ、タカトたちに助けられてゴブリン駆除の請負員となり、今はこうして派遣部隊のリーダーとして都市国家にいる。


 十四歳ながらなかなか波乱な人生よね。でも、知らない場所にくるのはワクワクしたりもする。カメラでぱしゃぱしゃ撮り捲りだわ。


 ちなみに運転はメビにやらせている。パイオニアは好きなのに空を飛ぶ乗り物には興味を示さないんだから不思議な子だよ。


 まずは追い出される前に二手に別れてアルゼンスの地図作り。その途中で馬車が置ける宿を発見。貨幣は違っていたので塩で支払いを済ませた。


 なんでも海との交易が春先から途絶えて塩が不足しているそうだ。


「海側に町なんてあったの?」


 女神はそんなこと言ってなかったよ?


「そう大きい都市ではなかったけど、塩はそこで作っているんだよ」


 ってことは滅びたんだろうね。あるなら女神はそこを言っているはずだし。


「そっちを調べたほうがよさそうだな」


 アルズライズもあたしと同じ考えをしたんでしょう。調べることを口にした。


「ミシニーがきたら相談しようか」


 ミシニーはルートさんの護衛をしてもらいながら商人ギルドを探してもらっているんだよ。聞き込みはロイズたちに任せてます。


 連絡は取れるけど、あたしたちもマップを広めたり市場調査があるので、夜を待って皆で話し合った。


「商人ギルドはありました。アルゼンスでの商売もできるようで、まずは塩を売りました」


「宿も塩で払ったよ。やっぱり足りてない感じなの?」


「市場には出回っていないようですね。人も多いので消費も早いのでしょう。言い値で買ってもらいましたよ」


「女神のアナウンスがなければアルゼンスは滅びていたね」


 タカトは女神を毛嫌いしているけど、女神がアナウンスしなければ滅びていた都市はいくつもある。まあ、直接助けてよって気持ちはなくないが、あたしたちは神の人形ではない。なにからなにまで女神の力は借りるわけにはいかないのだ。やることやってから神に願うしかないのよ。


「海の都市には申し訳ありませんがね」


 そこを助けていたらロンレアは滅びていた。実力だけではなく運も大切ってのがよくわかるよ。


「神の視点では小を切って大を助けたんだろうな」


「そうね。神からしたら知的生命体の存続が優先みたいだから」


 神は個の神ではなく知的生命体全体の神、ってことなんでしょうよ。


「それで、誰が海にいく?」


 ルースカルガンを操縦できるのは三人。あたし、アルズライズ、ヤカルスクだ。


「おれがいく。都市が滅びたというなら海の魔物かグロゴールみたいな魔物だろう。メビ。ついてきてくれ」


「了解」


 アルズライズに信頼されているのが嬉しいのか、ビシッと敬礼して答えた。


 まあ、パージパールを完璧に使えるのはこの二人だ。グロゴールが二匹現れても倒しちゃうでしょうよ。


「それならおれもいこう。ルースカルガンを操縦できる者がいたらマンダリンも出せるしな」


「そうだな。小回りが利くのもあったほうがいいな。ミシニー。ビシャを頼むぞ」


「任せて」


 海にいくメンバーが決まったので、三人は前線基地に戻ることにした。


 アルズライズが指揮をするならなんら心配することもない。あたしたちはアルゼンスでの活動に集中することにした。


「計画通りにはいかないもんだね」


 先行することが中止になってしまったことをミシニーに愚痴った。


「人生、そんなもんだよ。でもまあ、考えようによっては時期じゃないってことさ。海のことを蔑ろにしてアルゼンスが滅びたら拠点を失うことになるからね。女神もそう思ったからアルゼンスを目指すようなことを言ったんだと思うよ」


「つまり、ここを足がかりにしろってことか」


「そういう考えができるからタカトはビシャを推すんだろうね。わたしやアルズライズには考えつかないよ」


 いや、充分できていると思うけど。


「人を束ねるってのは才能なんだよ。身につけようとしたらそれこそ何十年とかかる。わたしらはそれを行ってきた。今からできるのは才能のある者を支えることだけだよ」


 ミシニーは仲間を殺す破滅の魔女として群れるのを極力しない。アルズライズは家族を殺された恨みで生きてきた。それを受け入れたタカトの凄さがよくわかるよ。あたしには無理だ。


「ビシャにはその才能がある。相手を種族や異性ではみないし、本質で相手しているからね。タカトになぜビシャを推すのか訊いたら、ビシャだけがライガを忌み子として見てなかったから、って返されたよ」


「それだけ?」


「タカトにはそれが大事だったんだよ。ビシャなら任せるに値するってね。正直、わたしにも最初はわからなかったよ。剣が得意な女の子にしか見えなかったからね。でも、接していくうちにわかったよ。タカトがビシャに期待する理由がね」


 その理由は口にしなかったし、問い正すこともしなかった。聞いたら余計に気が重くなると思ったから。


「まあ、そう思い悩むことはないよ。タカトが言ったとおり、失敗してもいい。間違った判断をしてもいい。それはわたしたちがどうにかする。ただ、短慮になってはダメだ。考えることを放棄してもダメだ。最良と思ったことをするんだ。それでダメならタカトがなんとかしてくれるよ。そのためにタカトはビシャをここに寄越したんだからね」


 その期待が重いんだよね……。


「下を向くな!」


 バンと背中を叩かれてしまった。


「わたしらが横にいることを忘れない。大人は頼られるためにいるんだよ。どうしようもないなら遠慮なく助けを求めなさい」


 今度は優しく頭を撫でられた。これだから大人は卑怯だよ……。

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