第810話 面会

「セフティーブレットの代表を連れてきた」


 まずはロンダリオに任せる。いきなりあたしが名乗りを上げても信じられないだろうからね。


「わかった。悪いが武器は預からせてもらうぞ」


 それは予想していたので武器はアイテムバッグの中やセフティーホームに置いてもらっている。まあ、だからってなにも持っていないのも疑われるから弾を抜いた銃やマチェットを兵士に渡した。


 兵士に囲まれて城らしき建物に案内された。


 城らしき建物のは王様が威厳を示すものではなく、業務をするための建物っぽい。働いている人らが入ってきた兵士に驚いているよ。


 広い部屋に通され、しばらく待っていると、身なりのいい四十くらいの男が入ってきた。


「お待たせしました。首長のところに案内します。部屋がそんなに広くないので三人でお願いします」


 なんだ、首長じゃなかったんだ。紛らわしいな。


「わかりました」


 あたしが答え、アルズライズとミシニーに目配せした。


「……こちらへ」


 あたしが答えたことに一瞬、訝しむもそれを顔に出すことはしなかった。


 案内人に連れていかれたのはあまり豪華な部屋ではなく、少人数で会議するような部屋だった。


 タカトが服や部屋で相手をどれだけ重要視しているかわかるって言ってたけど、なるほどよくわかる。あたしらを軽視しているよ、この首長さん。


「よくきてくれた。わたしは、アルゼンスの首長、マナベルだ」


「初めまして。あたしは、ゴブリン駆除ギルド、セフティーブレットのビシャです。派遣部隊を率いています」


「失礼だが、かなり若いように見えるのだが、何歳なんだろうか?」


「ニャーダ族の歳で言えば十四歳。人間の歳なら十六歳くらいです。首長が思うようにわたしはかなり若いですね。今回はギルドマスターから勉強してこいと送り出されました」


「そのギルドマスターはこないのか?」


「ギルドマスターは三つの領地の復興に協力して飛び回っています。幹部たちも各領地にかかりっ切りです。こちらに派遣できる者があたしだけなので、あたしが派遣部隊を率いてやってきました。これは、先日、爵位を継いだロンドク・ロンレア様からの書状です。お確かめください」


 手紙を首長に渡し、中身を確認した。


 長い内容が書かれていたわけじゃなく、首長は三分くらいで読み終えた。


「内容は確認した。わたしも書状をしたためるのでロンレア伯爵に渡して欲しい。それと、ゴブリン駆除の協力はさせてもらおう。商売の活動も許可する。他にあるかね?」


「ゴブリンの死体を片付けるのに協力して欲しいです。バデット化されてもそちらも困るでしょうしね」


「わかった。人を手配しよう」


「ありがとうございます。お互い、まだ理解し合えるほどの仲ではありませんし、まずは商人と銀印の冒険者たちだけアルゼンスにお邪魔させてもらいます。あたしたちは、ここから馬で一日の距離にいます。なにかあれば商人のルート殿に声をかけてください。一日に一回、物資を運ぶために城壁側まできますので」


「あの空を飛ぶ箱でか?」


「はい。魔法で飛ぶ乗り物です。ここまでやってこれた理由です」


 それだけの技術を持っていると主張する。ナメてっと痛い目に合うぞ、ってね。


 両脇からも痛いほどの圧を感じる。鈍感な者でも感じるくらいだろうよ。


 首長は察するのに長けているようで冷や汗をかいているよ。


 ……あたしもこの二人に睨まれたらおしっこ漏らす自信しかないよ……。


「今日はお会いできてよかったです。残りのゴブリンもあたしらで駆除しますので、死体片付けはお願いしますね」


 席を立ち、敬礼して部屋をあとにした。


「やっぱり、タカトみたいにはできないや」


「あれで充分だ。首長の底が見れたからな」


「駆除の邪魔をしないならあれで充分よ。あとは、ルートに任せたらいいわ。商人が都市に入れるウワサにもなるからね」


 二人の受け取り方は違うけど、どちらも間違ってはいないと思うし、こちらの要望は聞き入れられたんだからね。


「そうだね。次はロンダリオたちに場を譲って、他の都市国家も見てみようか? アルゼンスからなら道があるんだしね」


 道があるならパイオニアを走らせられる。アルゼンスの冒険者を雇ってアルゼンスの商人を名乗れば入れてくれるでしょうよ。


「それもいいな。ここはライバルが多くて稼げん」


「それ、賛成。譲り合いだと思い切り力が出せなくて不満が募るばかりだ」


「じゃあ、帰ったら居残り組と先行組に分かれようか。この調子なら他にもゴブリンの群れはいそうだし」


 タカトみたいにゴブリンの気配はわからないけど、獣人としての勘が他にもいると告げているのよね。


「ああ。おれもそう思う。これは、他にもいるはずだ」


 アルズライズもそう思っているなら間違いなく群れはいる。なら、あたしたちはそちらをいただくとしましょうかね。


「なんだか拗れそうだね」


「恨みっこなしのジャンケン勝負だね。ロンダリオたちには参加権はないけど」


 この場は譲るのだからジャンケン勝負に参加する資格はない。残る者で平等に分け合ってください、だ。


 皆が待っている部屋へ向かい、ジャンケン勝負をする前に商人ギルドへ向かうことにした。

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