第809話 アルゼンス

 夜になってロンダリオたちがやってきた。


「ご苦労様。どうだった?」


「首長に会えたよ」


 都市国家の長は首長って言うんだ。ゴブリンの首長とごっちゃになるな。


「随分とすぐに会えたんだね」


 偉い人と会うには結構な時間がかかると思ったのに。


「おれたちがロンレアからきたことを告げたらすぐだったよ。前はロンレアと交流があったそうだ」


 へー。かなり離れているのに交流してたんだ。あたしらでも徒歩移動は大変だろうに、よく移動したものだ。途中に村すらないのに。


「明日、ビシャを紹介するよ」


「あたしを? なんで?」


「お前がセフティーブレットを代表してきてるからだろう。タカトはきてないんだから」


「そりゃそうだけど、あたしでいいの?」


 都市国家と交流するのは計画の内だけど、そこの長との交渉は商人のルートさんかタカトがやるんだと思ってた。


「お前がやるんだ。タカトもお前に経験を積ませるために極力出てこないんだろうからな」


「でも、あたし、獣人だよ。嫌われない?」


「それならそれで都市国家を切るのがタカトだ。タカトの目標としてはコラウスからロンレアまでの道を築くこと。その周りはオマケみたいなもの。他種族を排斥するような集団とは繋がりを持つ気はないだろう。持つとしてもセフティーブレットが有利になってからだ」


 タカトならあり得る。どの種族にも気を使っているからね。


「まあ、問題はないさ。都市国家には獣人がそれなりにいた。と言ってもグワン族と言って、耳が頭の上にある獣人だったがな」


「頭の上に耳があんの!?」


 どんな人体構造してんの、それ? いや、そんな魔物もいるから不自然ではないか。種族によって耳の形は違うんだからな。


「ああ。おれも初めて見たときはびっくりしたな。世界は広いんだなと思ったよ」


 あたしたちの暮らすとこなんて小さいところだとはタカトも言ってたけど、確かにそうだよね。山を越えただけで生態系が変わるときだってある。二百五十キロ以上離れていたら違う種がいたって不思議ではないか。


「首長は人間だが、役所では獣人も働いていた。そう無下にされることもないだろう。アルズライズとミシニーが補佐として控えれば問題ないはずだ」


 まあ、アルズライズとミシニーは金印の冒険者。アルズライズにいたっては見た目が厳つい。この見た目に突っかかれるヤツがいるなら見てみたいものだわな。


「わかった。首長に会うよ」


「ああ。それなら少しいい服を着ろ。セフティーブレットの代表が汚れていたんじゃ格好がつかんからな。アルズライズとミシニーもだぞ」


「わたしもかい? そういうの柄じゃないんだけどね」


「都市国家にも冒険者ギルドはあるし、階級も同じだ。銀印ですんなり話を聞いてもらえたんだ、金印を無下にはできん。問題なくゴブリンを駆除できるために協力しろ」


 なんだかロンダリオのほうが金印っぽいな。貴族の子息はさすがだ。


「じゃあ、三号艇をここに持ってくるよ。なんかお土産持っていったほうがいいでしょう」


「そうだな。酒でも持っていけ。あと、ラダリオン。タカトにロンレア伯爵の書状を書いてもらうように言ってくれ。ロンレアの状況、新しく爵位を継いだことをな。それがあるだけで首長の対応も変わってくるからな」


「わかった」


「他にやっておくことはある?」


「商人のルートさんも連れてきたほうがいいな。商人ギルドもあったから」


 ほんと、ロンダリオたちのパーティーは優秀だよな。必要な情報を集めてんだから。


「わかった。じゃあ、休んでおいて。あたしは三号艇を運んでくるから」


「ビシャ、マンダリンを載せてきてくれ。おれも四号艇を持ってくる。中で寝れるしな」


「そうだね。外で寝るのも危険だしね」


 明日のためにも見張りは少なくしておいたほうがいいだろう。ルースカルガンを見張る要員も必要だしね。


 まずはマンダリンで前線基地に戻り、三号艇で帰ってくる。マンダリンをアルズライズにと、なんやかんやで眠りについた。


 朝になり、三号艇の中で体を洗って綺麗にし、よさ気な服を選んで買った。


「似合いそうじゃん。ねーちゃん、案外お洒落さんだよね」


「うるさい」


 メビのからかいを一蹴して外に出た。


 都市国家に入るメンバーが揃っており、ラダリオンねーちゃんが伯爵からの書状を渡された。昨日の夜なのによく書いてくれたものだ。


「じゃあ、ミーティングしようか」


 と言っても今日の予定を大まかに話すくらい。終わればラダリオンねーちゃんが出してくれたパイオニア四号とマンダルーガー二台に分乗して都市国家に目指すことにする。


 走るとすぐ城門が見えてきた。


「都市国家アルゼンスか」


 都市国家はアルゼンスだけじゃなく他にもあるそうで、城壁に囲まれた都市が一つの国として成り立っているそうだ。


「城壁があるってことはよく魔物に襲われるってこと?」


「ああ。なんでそんなところに都市を造ったんだってくらい襲われるようだ」 


「それに見合うなにかがあるってこと?」


「だろうな。土地も豊かそうだし、他に移る気にもならないんだろう」


 なんだろうね? 人間は利益があるなら多少の危険は無視するからな~。あたしにはよくわからんよ。


 城門は開いており、その前にはたくさんの兵士たちがいた。


「警戒されてんね」


 まあ、仕方がないことだけど。

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