第808話 掃討

 森からゴブリンが溢れた。


「凄い数だ」


 一万匹なんて少ないと思ったけど、こうして集まると凄い数なんだと改めて思わされるよ。


 田畑が荒されるのは申し訳ないが、森の中にいられるのもこちらとしては困る。見通しのよいところで蹂躙するのが効果的な駆除を行えるのだ。


 都市国家と言うだけに田畑はとても広大で、城壁がある都市まで五キロはあるんじゃなかろうか。全力疾走していても到着するには一時間はかかるでしょうよ。


「後先考えないで走るとか、それほど飢えてんの?」

 

 戦略も戦術もあったもんじゃない。ゴブリンはわざと飢えさせて一致団結でもさせてるんだろうか? こーゆーの背水の陣って言うんだっけ?


 飢えてんのに全力疾走は止まらない。我を忘れて一目散に都市を目指している。


「都市国家もゴブリンのことは気がついているみたいだな」


 ロンダリオたちが教えたからなのかはわからないけど、田畑に人の姿は見てとれない。機首を城壁に向けたらたくさんの人間たちが矢を向けていた。


「マルグ。ゴブリンの先頭にグレネードを撃ち込んで」


 都市国家のヤツらに殺されたら儲けが減る。鼻っ面にグレネードをぶち込んでやるとしましょうか。


「了解!」


 巨人サイズにしたM32グレネードランチャーをハーネスでぶら下げているのでマルグでも撃つことはできるのだ。


 格納ハッチを開け、マルグが鼻っ面を狙えるように角度を調整。後方確認用のカメラで見ると、鼻っ面に向けてグレネード弾を次々と撃ち出した。


 巨大化したことで爆発も大きくなったけど、あの軍勢の前では止めることもできなかった。


「マルグ。稼ぎ時だよ。撃って撃って撃ち捲りな!」


 巨大化させたミニミもハーネスで固定してあるので二百発は一方的に撃てるだろう。


「ビシャ! 弾が切れた!」


「了解。一旦離れるよ」


 飛びながら箱マガジンを交換するのは危険なので一旦その場から離れ、安全な場所に着陸してあたしもM32グレネードランチャーの弾を交換。マルグも箱マガジンを交換したらまた戻った。


 十五分くらいして戻ると、ラダリオンねーちゃんらが横から攻撃をしていた。


 ゴブリンどもの一部が逃げるように横に移動したが、そちらからはアルズライズたちやとーちゃんたちが待ち構えていた。


 とーちゃんたちはEARを持っているので掃討戦みたいなもの。どんどんと駆除していってるよ。


 あたしには何匹倒したかアナウンスは入らないのでわからないけど、最低でも二千匹はいったはず。それでも三十人くらいでやっているからそこまで稼げているわけじゃないのが悲しいよね。


「ビシャ、弾切れ!」


 二百発ってほんと一瞬よね。まだ五分くらいなのに。


「いくら倒した?」


 ちゃんと数の数え方は勉強しているだろうから大体何匹倒したかはわかるはずだ。


「百はいったと思う」


 なら三十五万円は稼げたはず。


「上出来上出来。それなら前線基地に戻るよ」


「えー! もっとやりたいよ!」


「まだゴブリンはいるんだから次にしな。ミニミの掃除を覚えたらP90を買ってあげるから」


 あたしも結構稼がせてもらっているのでP90くらい余裕で買える。あとはラダリオンねーちゃんに巨人サイズにしてもらえたらいい。


 ……あの腕輪も不思議なもんで、巨人の誰が使っても規格は一緒なんだよね……。


 文句を言うマルグを宥めながら前線基地に戻り、次はマンダリンに跨がって皆のところに向かった。


 あたしは指揮官なので全体把握に勤めるけど、ゴブリンを追い込むためにマルダートを投げ落としてゴブリンが分散しないようにする。


 基本は他の人たちに稼がせるように動き、そろそろ陽が落ちてきそうな頃、ゴブリンが咆哮をし始めた。


 なんだ? と見てたら狂乱化しているだろうゴブリンどもが方向を変えて森に向かって走り出した。その際、死んだ仲間をつかんでいるところからして共食いするつもりだろう。ほんと、悪食なヤツらだよ。


 マンダリンを降下させ、着陸したらアイテムバッグから照明弾を出して空に打ち上げた。ここに集合って合図だ。


 疲れているだろうから水を出して待つとする。


 しばらくして近くだったとーちゃんたち、アルズライズたち、ラダリオンねーちゃんたちが集まった。


「ご苦労様。稼げた?」


「まあまあだな。五十万円と言ったところだな」


 やはり人数がいると稼げるのも少ないか。


「一人五十万円としてこの人数なら五千匹いったかいかないかくらいだね」


 まだ暗算できるほど勉強してないからざっとしか計算できません。


「まあ、半日でそのくらい稼げれば上々でしょ」


 一通り装備が揃えばそう使うこともない。弾薬はタカトが用意してくれるんだからね。


「全員、残る必要もないし、とーちゃんたちは前線基地に戻っていいよ。女衆を労ってやりな」


 駆除したとーちゃんたちのほうが労われる立場なんだけど、ニャーダ族は女が強い(精神的にね)。自分を支えてくれる女を満足させる男がいい男なのだ。


 その点、あたしもニャーダ族の女だと思うよ。満足させてくれるタカトをいい男とおもっちゃうんだからね。


「残りはここでキャンプね。そのうちロンダリオたちがくると思うし」


 今回のことは都市国家に入りやすくするためのもの。あたしたちが有益だと思わせるために、ね。

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