第807話 モットー

 女衆がやってきてから男たちの作業速度がアップした。


 なんでかは説明を省いておこう。いろいろあるんだよってわかる年齢になったからね。


 前線基地も大体できたと言っていいので、ゴブリン探索チームと都市国家潜入チーム、前線基地防衛チームの三つに分かれて行動することにした。


「ロンダリオチームとアルズライズチームは別のルートから都市国家に潜入ね。たくさん情報を集めてきて」


 潜入はやはり冒険者に任せるのが一番。ニャーダ族じゃ種族的にも能力的にも不向きだからね。忍んで行動するんじゃないんだから。


「とーちゃんたち探索チームはゴブリンの生息地を詳しく調べて。もし、千以上の群れがいたら間引きするのはいいよ。前線基地や都市国家に向かわないようにしてね」


「防衛チームは引き続き基地作りをお願い」


 わたしはリーダーなので防衛チームに入るしかない。ほんと、リーダーって面倒だよ。


 前線基地を作っていると、モニスが山黒の群れがいると報告してきた。


「山黒、ほんと多いね」


 稀な存在だってのに当たり前のように出会しているよ。


「モニスだけでは無理っぽい?」


「少なくとも十匹以上いたね」


「もう当たり前の魔物だね。ラダリオンねーちゃん、お願いしていい? ここの人数じゃ無理だからさ」


 あたしも一匹か二匹なら倒せる自信はあるけど、さすがに十匹以上は無理すぎる。十匹以上相手できるのはラダリオンねーちゃんしかいないよ。


「うん。わかった。モニス、解体手伝って。一人じゃ大変だから」


「一人でやるつもりなのか!? 無謀だ!」


「大丈夫。倒し方は知ってるから」


 ラダリオンねーちゃんに勝てないって思うところはなにを前にしても恐れないし、やると言ったら必ずやり遂げるところだ。自分の三、四倍はあるグロゴールにすら躊躇いなく突っ込んでいく人だからな。


「モニス。ラダリオンねーちゃんなら大丈夫。少し離れて見ててよ」


 下手に近づくと巻き込まれる恐れがあるからね。一キロくらい離れてたほうがいいんじゃないかな?


「じゃあ、いってくる」


 そう軽い感じで出ていき、次の日には帰ってきた。昨日、出ていった軽い感じで。


「お疲れ様。どうだった?」


「なかなか大きいのがいたけど、パージパールで一発だった」


 さすがラダリオンねーちゃん。パージパールは威力が高いからよく狙わないと周りまで被害を出す。メビですら狙ったとおりに撃てるまで三十個以上マナックを消費したくらいだ。


「山黒にパージパールはもったいなかった。SCAR-Hで充分」


 そんなこと言えるのはラダリオンねーちゃんだけでしょうね。アルズライズでも山黒を倒すにはバレットで十発は撃たなきゃ無理でしょうよ。


「問題は山黒は追いやられてた感があった。恐らく山黒が逃げ出すほどのゴブリンが一ヶ所に集まっていると思う。そうなれば明日にも移動する」


 タカトと一緒にゴブリン駆除をやってきた人の見立てだ。そう外れることはないだろう。ラダリオンねーちゃんの勘はタカトの予想並みに当たるのだ。


「目指すは都市国家でしょうけど、都市国家はどう備えているんだか」


 別にあたしらだけでもなんとかできるでしょう。けど、それではダメだ。都市があるなら交流を持てるくらいの関係になりたい。食糧生産拠点はいくらあってもいいからね。


 まだ都市国家の情報は人工衛星からの映像だけ。ロンダリオたちはまだ潜入したまま。帰ってきてないからわからない状態なんだよね。


「ラダリオンねーちゃんとモニスは、都市国家にゴブリンが群がったら側面から攻撃して。アルズライズたちならそれに呼応してくれるはずだから」


 作戦は皆が帰ってきてから、と思ったけど、思いとおりにならないのがいつものこと。タカトはそれすら予想して動いていたのだからあたしもそのくらいやらないとセフティーブレットの一員となれないのだ。


 あたしにもプライドはある。タカトたちに助けられ、タカトたちの側にいたいならこのくらいできなくちゃ他に示しがつかない。


 ってまあ、仲間たちの特性を知っていればなんら問題ない。一つを動かせばあとはそれに合わしてくれるだけの才覚の持ち主ばかりだからね。


「わかった。配置に向かう」


「モニスはラダリオンねーちゃんの支援。ラダリオンねーちゃんはモニスに稼がせてやってね」


 そう言って二人を見送った。


「メビ。悪いけど、とーちゃんたちに伝えて。都市国家に向かえって」


「了ー解」


 バビュンと飛び出していくメビ。とーちゃんたちがどこにいるかわかってんのかな?


 まあ、あの子もあの子で鼻がいい。とーちゃんたちの居場所くらい問題なく見つけるでしょうよ。


「ミレンズおばちゃん。あたしも出るから前線基地を頼むよ」


 女衆の代表で、防衛リーダーでもある。下手な男より強いから注意だよ。


「マルグ。いくよ」


 まだ四メートルもないマルグは寝そべれば格納デッキに入れるので、ルースカルガンの後方砲台をやってもらう。この子、狙い撃つのは得意なのだ。


「うん!」


 あたしの仕事は指揮であり、皆を無事に帰すこと。安全第一。命大事に。ゴブリン根絶やしがあたしのモットーだ。

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