第804話 都市国家 *96000匹突破*

 夜間飛行訓練も三日続けていると地形は完全に頭に入った。


 三号艇にはアルズライズや獣人姉妹も同乗しているので、操縦を交代しながら朝まで飛んだ。


「二日くらい休むとしよう。ルースカルガンを操縦したいならそれでも構わないから」


 オレは少し休むとしよう。空を飛ぶからとビール一缶しか飲んでなかったからな。フロムザバレルを二瓶くらい空けるとしよう。


 ──ピローン!


 狙ったかのように鳴る電子音。取り消しボタンはどこですか? え、ありませんか。ならいいです。


 ──九万六千匹突破だぜぇい! 


 いつもに増してノリノリだな。嫌な予感しかしねーよ。


 ──いいねいいね! 十万匹までもうちょっと。そこでお得情報を一つ。海岸線を約二百五十キロ。内陸部に約五十キロ。そこに五万人ほどの都市国家が一つ。その周辺ではゴブリンが爆増中。一万匹を突破したところ。なにもしなければ都市国家は今年中に消滅するでしょう。


 ってことは北か。国はないと聞いてたんだがな?


 ──十万匹突破した暁には臨時のセフティープライムデーを二十四時間だけ開きましょう。八十パーセントオフ。がんばって~!


 ほぼ強制に膝から崩れ落ちてしまった。


 プライムデーはありがたいが、また激務の日々が始まるってこと。このままやけ酒に走らなきゃ気が狂いそうだわ……。


「タカト、どうした!?」


 突然のことに驚くアルズライズに抱えられ、寛ぎ空間にした食堂に連れていかれた。


 出していた余市十年をアルズライズに取ってもらい、一気に半分くらい飲んだ。すべてを飲み干したいところをグッと我慢してダメ女神からのアナウンスを教えた。


「都市国家か。そんなのがあったんだな」


 人界未踏の地ではないのか? あちら側は発展しているとかなんだろうか? あまり拡大するのも困るんだがな。


「ビシャ。お前が指揮官となって準備をしろ。人選もビシャに任せる。オレとアルズライズが補佐として支えるから思うようにやってみろ」


 ロンレアのこともあるのに都市国家にかかりっきりとはいかない。ましてや一万匹以上だ。請負員として稼ぎ時期ってことだ。


「ただ、コラウスから人は引っ張ってくるなよ。アルズライズ、ビシャを補佐してくれ。オレはミリエルやシエイラに報告してくるから」


「わかった。ビシャ、まずはおおよその計画を立てるぞ」


「あ、あたしでいいの?」


「今さらだろう。ワイニーズ討伐を成功させているんだからな」


「取り返せる失敗ならいくらでも失敗しろ。取り返せない失敗をしないようオレとアルズライズが支えるから」


 まだ十六歳の女の子にすべてを押しつける気はない。今は経験させること。そして、未来のセフティーブレットの一翼になれるよう育てることだ。


「アルズライズ。あとは任せる。オレが戻る前に計画が決まったら先に出発しても構わない。人工衛星で追えるからな」


 あ、エクセリアさんとエルガゴラさんにも報告しないとならないか。ったく、酒が飲めないのがストレスだぜ。


「タカト。おれもついていって構わないか?」


「エレルダスさんの許可はもらってくださいね」


 セフティーブレットの一員ではあるが、ヤカルスクさんはエレルダスさんコミュニティーの一員。一応、エレルダスさんの許可は得ていたほうがいいだろう。


「ああ、わかった。エレルダス様はまだロンレアか?」


「はい。城下町のほうにいると思います。ミリエルがホームに入ってきたらヤカルスクさんが向かうと伝えておきますね」


「わかった。マーリャに伝えたら出発するよ」


 了解と頷き、エルガゴラさんのところに向かった。


「部屋の前からオタク色が出てんな。ポスター貼りすぎだろう」


 なんかこういうアニメショップあったな。ガチャガチャまで置いてあるよ。自分で買ったら意味ないんじゃないか?


「エルガゴラさん。ゴブリンが大量発生した場所があるんですが、一緒にいきます?」


 部屋の中もまた凄い。触らないと十五日に消えてしまうってわかってます? 触り切れない数でしょ、これ。


「ああ、いくいく。部屋を整えるだけで全財産使ったからな」


 計画性まるでなしだな。


「十万匹超えると一日だけ八十パーセントオフがあるんで、それまで貯めておくといいですよ」


 セフティープライムデーのことを教えた。


「それはいいな! 本棚を埋めたかったんだよ」


「触らないと十五日後に消えることを忘れないでくださいよ」


「大丈夫だ。管理は万全だ」


 この人が言うと本当に聞こえるから不思議だよ。


「ビシャって獣人の女の子をリーダーにしますんで、一度挨拶しててください。オレはホームに入るんで」


「獣っ娘か。まだ見たことなかったな。今から見てくる」


 ……獣っ娘って、ビシャに殴られるようなことしないでくださいよ。


 駆け出していくエルガゴラさんにため息が漏れてしまう。まったく、クセの強い人だよ。


「まあ、そういう人だからこそ仕事は完璧にこなすんだからいっか」


 もう一度ため息をついてからその場からホームに入った。誰かにダストシュートしてもらうからな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る