第803話 嵐の前の静けさ

 空を飛ぶのはおもしろいな。


 いや、ブラックリンで飛んでるやん! とかの突っ込みを受けそうだが、風を浴びて飛ぶのと機体を操作するのは違うのだ。


 たとえるならバイクと車の違いだな。どちらも楽しみ方が違うんだよ。


 ルースカルガンを練習して十日くらい過ぎた頃、デカい鳥と遭遇した。


「十メートルはあるか?」


 三十メートル級のバケモノを見ているせいか、十メートルくらいでは驚きもしない。ただ飛んでいるだけなので、刺激しないよう離れた。


 規制もなく障害物もない。操縦もそう複雑でもない。まあ、これが戦闘となれば技術が必要なんだろうが、ルースカルガンは輸送艇。戦闘を目的として造られたわけじゃない。


 万が一のときのための機銃が二門あるだけ。あとは、身を守るためのバリアーがあるだけだ。


 飛ぶだけの技術なら十日もあれば充分だろう。明るいうちはずっと乗っていたんだからな。


「そろそろ夜間飛行もやっておくか」


 人工衛星からのサポートがないと迷子になるからとやらないでいたが、地形はプランデットが覚えたし、オートマップもある。エクセリアさんの情報と合わせればガーゲーを中心に半径百キロはカバーできたんじゃなかろうか?


 一号艇や二号艇の情報も統合したらコラウスまでの空は把握したと言ってもいいだろうよ。


 夕方になり、ガーゲーに戻ると、アルズライズや獣人姉妹がやってきていた。


「こっちにきてたんだ」


「ああ。ゴブリンも見なくなったからな。お前がここにいると聞いてやってきた」


 そういや、九万五千匹からアナウンスがないな。もうそろそろ九万六千匹になってもおかしくないんだがな?


「まだ動けないからコラウスに戻っても構わないぞ。コラウスにいればゴブリンが集まってくるかもしれないからな」


 残ったヤツらに稼がせてやらんとならんが、ミジャー駆除にも人手はいくらあっても構わない。贅沢を言えばミシニーにも戻って欲しいがな。広範囲に放たれる火炎は是非とも放って欲しい魔法だ。


「いや、タカトの側にいるよ。お前のほうがゴブリンを集めるだろうからな」


 それが勘違いと思えないところがあるから悲しいよ。きっと今はゴブリンが集まる前の静けさなんだろうよ。


「まあ、好きにしたらいいさ。アルズライズもルースカルガンの操縦を覚えるか? なかなか楽しいぞ」


「それはいいな。あれ、乗ってみたかったんだ」


 アルズライズも結構乗り物好きだ。いや、空を飛ぶ乗り物が好きって感じかな? パイオニアはあまり運転しないしな。


「タカト、あたしもやりたい!」


 ビシャも手を挙げた。こいつもアルズライズと同じで空を飛ぶ乗り物が好きっぽかったな。


「いいぞ。メビはどうする?」


「あたしはいいや。興味ないし」


 逆にメビは車や銃とかが好きな感じだな。人の好みとはよくわからないものだ。


「ここのことは聞いたか?」


「ああ。ヤカルスクから聞いた」


「部屋狭いが、寝るだけなら問題ないはずだ。好きなところを使っていいからな。食事はホームから運んできてるが、足りないときは各自で買ってくれな」


 部屋は二十以上あるから一つを倉庫に使っても構わない。まあ、三人にはアイテムバッグを渡してあるから必要はないだろうがよ。


「アポートウォッチとパージパールを返しておくよ」


 アポートウォッチはともかく、パージパールをずっと背負って歩いていたのか。アルズライズじゃなきゃ拷問だな。


「ヤカルスクさん。アルズライズとビシャにルースカルガンの操縦を教えてもらっていいですか? オレはホームで休んできます。夜には出てきますんで」


「ああ、わかった」


 ヤカルスクさんにお願いし、防護服を着たままホームに入った。


 まだ早い時間なので皆は入ってなかったが、ホワイトボードには各自がいる場所が書いてあった。


「ミサロ、ペンパールにいったのか」


 きっとあちらも耕すためにいったんだろうな。ガレージに土が落ちているし。


 ミリエルとラダリオンは変わらず城下町にいるみたいだな。


「雷牙はカインゼルさんのところにいったか」


 少しずつミジャーがコラウスにやってきているようで、至る場所で確認情報が集まっているようだ。


「ゴブリンが現れた情報はないか」


 コラウスの地図を描いたホワイトボードには目撃情報を得たら赤い磁石を貼ってもらっているのだが、五個しか貼られてなかった。


 ……これは、一旦下がっているのか……。


 ゴブリンの知能は低くて考えて動いてはいないが、本能には従順だ。もしかすると、ミジャーの腹が膨れて育ったら食おうとしているのかもしれんな。


「ってことは、怒涛のように押し寄せてくるな」


 要所要所は固めてあるので、押し寄せてくる方角は予想できる。と言うか、リハルの町とミスリムの町の間、北東方角からくるように動いていた。怒涛のように押し寄せても問題はないだろうよ。


 コラウスのことは心配することもないので、シャワー室に向かって熱いお湯を浴びてビール──は飲めないのでスポーツ飲料で我慢しておく。


 少し仮眠をし、外に持っていく食材を集めて外に運び出し、また防護服に着替えた。

 

「さて。夜間飛行訓練といきますか」


 気持ちを引き締めて外に出た。

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